空間の認識
ここで、念のため、確認したいことがあります。見るⅠ~Ⅲまでの記述は、私の経験と想像、一部書籍などの知識によるものです。ですから、内容が科学的に正しいかどうかはわかりません。あくまで、私の経験として書いています。このことを気に留めていただき、この続きをご覧ください。
これまで、見る人がどのようにものを見て、それにどのように対応しているのか見てきました。あまりにも多様に、眼と身体の使い方をしていることがわかります。何を中心に、見ることを考えればよいのか、わからなくなりそうです。
しかし、今まで見てきたことに共通することがあります。それは、「位置」関係です。
どの生物も何かを食べて生きています。捕食です。命を守り、繋(つな)ぐことです。人も同じで、これらの原始、本能にかかわるところはかわりません。そして、これらを可能にするのが、位置関係をどのように捕らえるかです。そして、できるだけ正確に行動するかです。
余談になります。エサを引っ張っぱる釣りでは、エサを追いかける魚が見えることがあります。特にルアーです。魚が近づいて、まさにエサを捕ろうと口を開けそうな瞬間、エサを早く引くと、魚は口を開けてすぐに閉じますが空振りに終わります。人も同じで、人に食べさせてもらうとき、口の中に入れる振りで食べ物を引き戻されると、口を閉じますが空振りに終わります。途中までは食べ物を眼で追いますが、直前では感覚や予測に頼っているのです。エサと捕食者の位置関係がここにあります。
この項では、空間の認識を扱います。見ることだけでなく、私たちの意識も関係してきます。見えていたものが見えなくなったとき、その情報の扱い方です。見えなくなったときに、見えていたときの見方の質がわかる気がします。空間を認識するのに、見方はかなり重要だということです。
見えている場所に行ったり、何かをつかんだり、投げ当てたりするには、行為をする人とものとの距離、手足などの感覚が必要です。行為をするひとが、正確な位置、距離を知る必要があります。
見ている人がものの位置を知るには、見ている人の位置を知る必要があります。ものと見ている人の位置だけでも、両眼視により距離はわかるかもしれません。しかし、眼と脳の機能から、多くの情報を活用する方が有利な行動ができます。
図5-1を説明します。人が赤いボールを見ています。視界には、大きい箱のようなもの、土管、筒、木があります。視界の外は、死角で、人の背中側がそれに当たります。
赤いボールを探すのに、周囲を見渡します。360度を見渡さなくても、ある程度の範囲を見ることになります。これにより、見ている人が全体のどの位置にいるのかわかります。
赤いボールを見つけて、見つけた場所からボールを見ます。すると、見ている人のところからボールの位置、距離を推測できます。それは、見ている人の位置から、見ていた景色の中のどの位置にボールがあるのかを知ることになります。見ているときは、景色の中にボールを見ます。背後の死角は、予め見ていた景色で、見タイル人の位置をつかんでいます。
ボールがいずれかの方向に動いたとしても、見ている人は、木や置物にぶつからずに、追いかけることができます。見ている人とボールの、全体の位置がわかっているからです。
次に、空中に浮いたものを考えてみましょう。
図5-2は、空中に浮いた物体を人が見ている図です。太陽の光で、地面には物体の影ができています。
物体を見たことが無い場合、どのくらいの距離があるのか、見ている人にはわかりづらいものがあります。物体に人影が見える場合は、人からおおよその距離がわかるかもしれません。
物体の大きさを知らない場合、たとえ、自分や周囲の状況を知っていても、見ている人が距離を推測するのは難しいと感じます。比較するものがあれば、まだ、できるかも知れません。あまりにも遠すぎると、距離を推測できません。
しかし、地上のどの辺りの真上を飛んでいるのか、物体の形を推測することはできます。地上のどの辺りかは、景色が見えている場合はいいのですが、死角にある場合、推測することになります。見た目や、光の反射具合、影などで、です。
訓練を受けない限り、高いところを飛ぶ飛行機や、人工衛星は、まったくわかりません。
さて、先ほど飛んでいる物体の形を推測すると書きましたが、どのように推測するのでしょうか。
どこに物体があるのかも必要ですが、何を見ているのでしょうか。
見えている部分の平面だけを見ているわけではありません。物体が、膨らみのある形かもしれないからです。両眼で、物体の奥行きを見極めることになります。
人はものを見るとき、空間を見ています。平面と奥行きの空間です。それと同時に、その中にある物体をも平面と奥行きを感じる見方をしています。
空間における正確な位置、距離と、そこにある物体の形と大きさを正確に知ることは、多くの情報を得るのに有利です。飛んでいる蝶を網で捕ったり、飛んでくるボールを打つことも避(よ)けることも、正確な情報があれば、うまくいく率が上がるかもしれません。
この空間を認識することは、想像や夢の世界にも影響しているかもしれません。
現実では、木像の一本彫(いっぽんぼ)りがあります。彫る木を見たときに、作る像の頭や身体、形や大きさを正確にわかれば、最大の大きさにできます。逆にいうと、作りたい像に合う木を見極めることができます。
美術で立体の作品を作るのに、正確に空間を認識できれば、思う形を表現できるかもしれません。発想の段階から現実に作業を完了するまで、それがあれば便利です。頭の中で、空間の認識ができれば、工程の全ての段階で、現実的なイメージを作ることができます。もしかすると、美術家は、空間を認識する能力が高いのかもしれません。
日頃、空間を認識していれば、空間を動き回る夢を見るかもしれません。
夢で蛇が尻尾を銜(くわ)え合う夢から、物質の構造を科学者が思いついた話は有名です。夢が現実味を帯びるだけではありません。物事をイメージする際にも、空間の認識は大切です。その認識が正確であれば、イメージトレーニングの効果は大きくなるはずです。特に、スポーツなど、動作を伴うものは、効果が大きいと言えます。
最後に、位置関係や、空間の認識で、見る人の中心はどこか、です。ボールの場合は、表面から同じ距離のところです。人の場合はどこなのでしょうか。眼、顔、頭、脳でしょうか。脳だと思いますが、脳のどこの部分でしょうか。私のイメージでは、眼の奥にある正中線上の1点かな、です。正確な距離、位置を知るためには、脳の中の広範囲ではなく、1点の方が望ましいからです。
この時に、利き眼も関係があるかもしれません。位置関係、空間の認識には、1つの基準を作る方が動きに無駄がありません。利き目で見るから、見ているものへ視線が一直線になります。利き眼から送られてくる情報の神経細胞の位置が、脳の中心からどれだけズレているかから、脳の中心を安定して知ることができます。これは、利き腕や利き足にも言えます。一点を摘まむとき、視覚からの情報により、利き腕を基準にした方が、正確に動かせると思います。
空間の認識を見てきました。ここで簡単にまとめます。
・ 空間の認識は位置関係にある。
・ 空間により、位置を確認している。
・ 位置関係は、「脳と、手足や身体」「人と、対象物」「人と、全体の景色と」「人と対象物と、全体の景色」などが複雑にある。
人にとって位置関係を知ることは生命維持に欠かせません。それがわかるのは視覚だけではありません。聴覚、嗅覚、触覚、味覚など、もしかすると第六感もあるかもしれません。そして、これらを経験することで、位置関係がわかるようになっていくようです。
見ることを取り上げましたが、それだけではないことを確認して、「見る」の締めくくりとします。
更新記録など
2016年11月1日(火) : アップロード
2018年5月31日(木) : 『意識と無意識ⅠⅡⅢ』追加による構成変更。