もののつかみ方
前のページでは、動くボールと見ている人の位置関係について考えました。ここでは、そこにあるもの、動いているものをどのように手でつかんだり、足で蹴ったりするのかについて考えます。自分の身体から伸縮する手足との位置関係のことです。
普段、何気なく机の上にあるボールペンを取りますが、どのように見て取っているのでしょうか。
机の上にある、ボールペンなどの事務用品、書類など、全体を見ています。そして、ボールペンに視線を向け、ボールペンを指で摘まみます。手がポールペンを摘まめるように、手を伸ばします。そして、指でボールペンを摘まみます。
この何気ない動作を説明しろといわれても、何のことかわかりません。なぜなら、日常の動作で、無意識にその動作を行っているからです。
さて、次にゴルフの練習を考えてみましょう。はじめてゴルフボールを打つとき、ゴルフクラブのヘッドに当てられない人がかなりいるようです。私もその1人です。
なぜ、当たらないのでしょうか。脳が予測しているボールまでの距離と、手で握ったゴルフクラブのヘッドまでの距離が違っていることが考えられます。
当然、地面をたたくとゴルフクラブを折るかもしれないので、慎重になっていることもあるでしょう。
おそらく、ゴルフと同じような動作をしている人は、それほど苦労することなく、もしかすると最初からヘッドにボールを当てられるかもしれません。
ここで言いたいことは、眼で見て脳が判断する距離と、手や足で捕らえる距離は、必ずしも一致しないことです。結論から言うと、眼で見て判断した距離と、手や足で捕らえる距離を合わせる必要がある、ということです。
日常生活で、箸や皿、ボールペン、携帯電話などを取っていますが、無意識のうちに、目で見て判断した距離と、手や足で捕らえる距離を、確認しているのです。ですから、経験したことのないゴルフの場合、ゴルフクラブのヘッドとボールが当たらないのです。それに近いことをした人は、そのズレを調整して、距離を合わせているようです。
手足の動きといえども、眼で見て脳が判断する距離とは、両方のすり合わせがなければ、うまくいかないのです。
次に、動くボールをどのように取るのかです。ボールの動きが、目の前を横切る場合と、見ている人に向かっている場合を考えます。
まず、右から左にボールが横切る場合です。ボールの動きやスピードを見て、手や足で取る位置を推測します。そして、手や足を推測した場所に出します。この時、眼はボールをずっと見続けています。手足が動き始め時は、ボールは推測の位置なのです。その瞬間も眼はボールを見ています。
手足を出し始めてから捕らえるまでに、ボールが何らかの理由で推測とは違う方向に行き始めると、手足では捕らえにくくなります。頭ではボールの方向がわかるのですが、動き出している手足の動きを変えるのは難しいことです。
ボールが見る人に向かってくる場合です。ボールのスピードや変化から、どの位置に、どのくらいの時間で来るのか、予測します。そこに、手足を持っていくことになります。途中までは、ボールを見ますが、取る瞬間までボールを見続けているのかは疑問です。取る直前に、目線が外れるような気がします。しかし、眼は、ボールに視線を向けないにせよ、中心視野の視線を外した部分や、周辺視野でボールを見ています。
眼から離れた場所にボールが飛んできた場合、顔や眼を動かして、ボールを見られるようにしています。しかし、身体の近くに来たとき、ボールから視線を外すようです。
野球のバッティング、テニスやバドミントン、卓球のラケットのスイートスポットでの打つこと、剣道で竹刀を打つこと、箒(ほうき)とチリトリを使ってゴミを集めること、鉛筆やボールペン、毛筆などで文字を書くことなど、ありとあらゆる動作に関係しています。
眼から見た景色から、正確な距離を予測するのは難しいのです。そのため、実際に、手足などの身体を使って、現実の距離を覚えているようです。私たちは、ものを取ると同時に、その距離を確認しているのです。
見るだけの絵や景色などは、はっきりと見えればいいように思えます。しかし、身体が感じる現実の距離がわかれば、違ったように見えるかもしれません。
静止したものと、動いているものでは、眼の使い方が変わります。動いているものは、動く方向により、眼の使い方が変わるようです。
更新記録など
2016年11月1日(火) : アップロード
2018年5月31日(木) : 『意識と無意識ⅠⅡⅢ』追加による構成変更。