読書技術への模索
目 次
1 目の使い方、意識の使い方
文字が小さく見えづらいとき、その字に焦点を合わせようと目を細めたり、眉間(みけん)にしわを寄せたりします。その時、目や顔には力が入った割に、見えないことがあります。目や顔に力を入れるのではなく、目と対象物の距離を調整した方が見えやすくなります。意識的に力を入れなくても、ものを見ることができます。意図的にもできますが、目は自動で焦点を合わせてくれます。
焦点を合わせて、視界に1文字しか見えないとき、目にはかなりの力が入ります(図1)。
ところが、1文字があることを確認するとき、視界には1文字だけでなく、その周囲もはっきりと映ります(図2)。
このとき、目にそれほど力を入れていません。無理に1文字に目の焦点を合わせるのではなく、はっきりと見える状態になるよう目を調節すればいいのです。くつろいだ状態でも、そのようになります。寝転がってテレビを見ることが一例です。
寝ると夢を見ることがあります。夢によっては、登場するものの形、色、臭い、見えた文字まで詳細に覚えていることがあります。この状態は、目を開けて夢を見ているわけではありません。脳が夢を見ているのです。
人は脳でものを見ています。目は、外界の情報を脳に伝えているだけです。「見る」「読む」は脳がしています。(図3)
緊張や恐怖を感じると、視野が狭くなります。そして、とても疲れます。また、冷静な判断や記憶力がなくなったりします。視野が狭くなる理由は、生体の防衛本能がその状態を引き起こしているようです。逆に目に力を入れることで、その状態を想起させる可能性があります。
人が入手できる情報の大半は目から入るものです。そして、その情報を最も信頼しています。それだけに、目に力を入れて見ることは、認識や思考を妨害しているかもしれないのです。
ものを見ながら人は行動しますが、目で追いながらするより、直接脳で認識しながら行動する方が円滑に進むはずです。なぜなら、目で追うという余分な動きを脳が管理しなくてすむからです。目に力を入れたり意識することは、疲労とストレスを生むことになります。言い換えれば、脳に送られてきた情報を認識することに専念できれば、効率のよい動作ができるはずです。
2 一字一句の読み方 文字をどのように見ていくか
読書のとき、一字一句見る必要があります。そして、言葉、文節、一文を理解する必要があります。
極端な場合ですが。文字を1文字ずつ目の焦点を合わせて見たのでは、視界に1文字しか見えません。次の文字を知るには、次の文字に目の焦点を合わせて見るしかありません。1文字を覚えて、次の1文字を見ていかないと、言葉、文節、一文を理解できないことになります。一文を読むのにかなりの時間がかかるのです。また、一文を理解するのも困難です。そして、最悪の場合、視界に入っていない文字を脳が勝手に想像することがあります。現実に本に書いていないことを、脳が勝手に想像するのです。
次に、視界にいくつかの文字をはっきりととらえることができた場合はどうでしょうか。今見ている文字と次に見る文字が見えているので、次の文字に移動するのがスムーズです。また、現実に映っている文字を見るので、思い込みがなければ、脳の勝手な想像は少なくてすみます。さらに、言葉、文節をとらえやすく、わかりやすくなります。(図4、図5)
では、3行程度はっきりと文字が見える場合はどうでしょう。1行目の終わりの文字から、2行目のはじめの文字にスムーズに移動できます。言葉、文節、一文をとらえやすく、理解しやすくなります。視界にどれだけはっきりした範囲を映せるのかが、ポイントです。
人には短期記憶があり、意図的に覚えようとしなくても、瞬間的に見ただけでも結構覚えています。ですから、1文字が何であるかわかった段階で、次の文字に移ればいいのです。次から次へと文字を見ていけばいいのです。理解するかどうか別にして、書いてあることを把握することはできます。
3 全体を見ながら、必要なところを読む
A4サイズの紙を縦にしても横にしても、手で目からの距離を調節すると、視界の中に入ります。文字がはっきりと映る距離でも、A4サイズの紙は視界に入ります。目がリラックスした状態では、楽に視界に入ります。しかし、文字がはっきりと映る範囲は限られています。それでも、1文字ずつ見ることに比べれば、目を動かす量は減るはずです。
ここで気をつけることは、目に力を入れない、リラックスした状態にすることです。そして、脳に映ったはっきりとした文字を認識して読むことです。
視界を広げるのに、目を大きく見開いて見ることもできますが、目に力が入るため、疲れやすくなります。また、1文字に焦点を合わせてみるのと同じように、頭痛や肩こりの原因になります。長く続きません。特別なことをしなくても、見えるのです。
全体を見ながら、読むところに視線をむけ、はっきりと映った文字を読めばよいのです。(図7)
4 素読、音読の重要性(リズムとわからないことに対する恐怖・精神的安定)
本を読んでいると、わからない文字や理解できないことが出てきます。この時、イライラしたり、その都度調べていると、効率よく読み進めることはできません。ことわざに「読書百編意自ずから通ず」があります。また、『読書の方法』外山滋比古氏著の中に「素読」についての記述があります。わからないからといってその都度調べるのではなく、わからなくても読み進めることです。章などの区切りのよいところで、わからなかったことを調べればいいのです。調べても理解できないこともあります。ここで大切なのは、文字を次から次へと読み進める前進力なのです。
わからない状態で読み続けていると、本の最後の方にその答えが書いてあることもあります。とにかく、区切りまで、読み進めることです。
人がものを考えるとき、自分が話す言葉を使います。考えるときも、言葉には抑揚や表情があります。しかし、本の字面だけを見ても、それはありません。本の内容を生き生きとさせるためには、字面の息を吹き返す必要があります。考えるような感じで本を読むことです。その感触をつかむのが、音読です。この音読の感覚を黙読のときにも使います。ここで注意したいのは、黙読をするときに口で読むように読まないことです。目的は、自分が考えるように本を読むことです。
また、音読は、雑念を少なくしたり、1文字ずつをしっかりと確認したり、読み進める力をつけるのにも適しています。体を使うので、練習の効果が上がります。正確な音読を心がける必要があります。スピードは気にしないことです。
5 読書の主体について
もう一つ大切なことは、誰が読むのかということです。主体は読者と本のいずれにあるのかということです。これを考えるのは、神や仏のように本を崇める人がいるからです。確かに、自分の進むべき道を示してくれた本をそのように感じたとしても不思議はありません。そのような本は大切にするべきでしょう。しかし、本を作っているのは人である、ということを絶えず意識しておくべきだと思います。
読書をしていて、書いてあることがわからない、と思うことがあります。この時、自己嫌悪に陥るときは、本に主体があると言えます。逆に、くだらない本だなと思うときは、読者に主体があります。この自己嫌悪や、本について劣った評価をする意味も必要もありません。理解できなければ、入門や初心者向けの本を読めばいいのです。くだらない本だと感じたら、途中で読むのをやめればいいのです。読書の主体性は読者にあります。読書の目的や理由は様々ですが、読者が役に立たないと感じたら、その本を読むのをやめればいいのです。せっかく買った本だからもったいないと思うかもしれません。しかし、費やす労力、時間、精神的抑圧などの負担を考えれば、面白くない本を手放す決断は早いほうがいいのです。自分のための読書であることを意識しておく必要があります。
6 集中と緊張
旧版でも同じことを書きました。集中と緊張には、関係がありません。緊張は心身ともに硬直することです。例えば、「思考停止」があります。集中は、ある物事だけを意識することです。緊張していても可能ですが、余分な緊張や力を抜いた方が集中しやすくなります。身体的な動きを意識するより、意識で動作する方が集中しやすいようです。
集中するには、必要なことだけに力を使うことです。不必要な力は、力(りき)みとなり、円滑な心身の動きを邪魔したり、疲れや雑念の元となります。
平常心。わからない言葉、理解できないときでも動揺しないことです。静かで落ち着いた状態でいつもいることが、疲れにくく集中した状態を続けることになります。
「基本的信頼感」や「愛着(attachment)」という心理学用語があります。乳幼児期の成長について語られる言葉です。しかし、これらのことは、年齢に関係なく人に必要なものです。この感覚を高めることは、集中力を発揮し、平常心を保つことに役立ちます。円満な人間関係が、自己への信頼感と安心感を高めることになるからです。
【補遺(ほい)】
※視線、焦点、視界、視野を区別すると、弊サイトを理解しやすくなります。「視線」は見る方向。「焦点」は一点。「視界」は目に見える範囲。「視野」は脳に映った範囲。
※「見る」と「読む」を区別すると、弊サイトを理解しやすくなります。「見る」は文字を形として認識すること。「読む」は内容を理解すること。
7 まとめ
- 目の役割は、脳に情報を伝えること。
- 脳は、「見る」「読む」をしている。
- 集中と緊張は、関係がない。
- 「基本的信頼感」や「愛着(attachment)」は、集中、平常心を保つ。
更新記録など
2014年10月30日(木) : 作成日
2014年11月3日(月) : アップロード
2015年5月10日(日) : 構成の変更
2016年1月5日(火) : 「目次」を追加
2016年1月5日(火) : レスポンシブ様式に改装