『失敗の科学』
原題は『Black Box Thinking』
- 副題など
- 副題は「失敗から学習する組織、学習できない組織」。
- 原副題は『The Surprising Truth About Success』。
- 帯には「あらゆる失敗に通じる『原因』と一流の組織が備える『学習システム』のすべて」などとありました。
- 著者など
- マシュー・サイド(Matthew Syed)氏著
- 訳者 : 有枝 春(うえだ はる)氏訳 ※お名前の読み方については、インターネットを見ました。
- 翻訳協力 : 株式会社トランネットさん
- 出版社など
- 株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン さん
- 版刷など
- 2016年12月第1刷。読んだものは、2017年1月第2刷。
- ボリューム
- 343ページ。ただし、336ページ以降は、巻末注でした。
感じたこと
弊サイトで取り上げた書籍、『最高の職場』『7つの習慣』『ビジョナリーカンパニー』『学習する組織』を思い出していました。
これらの書籍は翻訳本です。翻訳本だから、どうのこうのではありません。どの書籍も成功の法則や方法を追求しているようでした。それは、アメリカンドリームの追求と置き換えてもいいように感じます。誰もが成功できるという前提で、論の展開があるようです。
しかしながら、『失敗の本質』ではその原因の詳細な分析がされていますが、決定的な結論がなかったように感じました。勝利する側についても同じです。最終的な勝利までには、小さな勝利と敗北の積み重ねがあったはずです。
成功と失敗を比べるのは、変な気がします。決められた回答のあるテストで100%正解するのと、最適化を摸索する行動では、性質が違うと感じます。テストで100%の正解なら、ほとんどの人が成功と言うでしょう。しかし、その試験の準備において、普通なら5日ほどの勉強で合格点が取れるのに、初回の受験で満点を取るために3年を費やしたとしたら、どうでしょうか。満点を取るのが目的なら成功でも、合格が目的なら時間をかけすぎだと思うでしょう。
成功と失敗の考え方、感じ方は、目的によって変わってきます。それは、個人の目標設定でどちらにもなることがあります。
そもそも成功とは、失敗とは、何なのでしょうか。1者から見た場合、感覚として、何かをした場合、成功よりも、はるかに失敗が多いように思います。しかし、中にはその逆の人が少なからずいますが。
例えば、スポーツの大会で優勝するのは1者です。優勝が目的なら、優勝者以外は敗者です。優勝者は成功で、敗者は失敗となります。1者を除いて、その他は失敗者です。
そして、連続で優勝する1者が出てきます。その1者が確実な法則や方法を見つけられたから連続優勝かというと、そうとも思えません。ある一定の実力を養うことは必要ですが、偶然や運に左右されるからです。ですから、連続優勝というのは、偶然の産物に感じてしまいます。
連続優勝が無かった場合、別の1者が優勝していたことになります。この別の1者も偶然の優勝と言えます。このように考えると、敗者も偶然の産物と思えてくるから不思議です。
芸術の分野では、成功や失敗をどのように考えるのでしょうか。
曲を作ったところ、ヒットして大もうけした場合です。金を儲けたことでは成功と言えます。また、多くの支持者がいるということでも成功でしょう。しかし、全ての人がその曲を支持しているわけではありません。嫌いな人もいるかもしれません。そういう点では?です。
作曲者とリスナーとでは、感じ方が変わるかもしれません。成功と失敗は、評価する人や基準で変わります。
成功や失敗の定義が自分たちの勝手な考え方で決まるとしたら、成功や失敗が偶然や運に左右されるとしたら、私たちは何をよりどころとして行動すればいいのでしょうか。
私たちのものの見方や考え方は、何らかの癖があるようです。そして、それが無いように行動するのは不可能なようです。また、偶然や運を意図的に操作はできません。
真実を知れば事なきを得られそうですが、それを知るのは難しいことです。真理を悟るのはなおさらです。
私たちができるのは、現実をありのままに見て、現実を生きていくことだけのようです。弊サイトで取り上げた『正法眼蔵(しょうぼうげんぞう)』を思い出します。
また、北条早雲氏の「・・・、あるをばあるとし、なきをばなきとす、・・・」を思い出します。21カ条からなる家訓は、なかなか興味深いものがあります。
人は成功や失敗という考えに囚われて、現実を歪(ゆが)めて見ているのかもしれません。成功や失敗が結果論だとすれば、現実に、ただ、今を懸命に生きるだけで十分な気がしてきました。
この書物を選んだ理由
本屋さんに行くと弊サイトで取り上げた『失敗の本質』が山積みになっていました。なぜ、今、この本なのだろうかと思いながら、店内を歩いていました。話題の本のコーナーに、この本を見つけました。『学習する組織』を読んでいたので、買うのをためらいました。しかし、帯の「・・・世界的ベストセラー・・・」に、気持ちを揺さぶられました。
もちろん、『失敗の本質』とどう違うのだろうか、と思いました。
私の読み方
おもしろい本でした。ノンフィクションのようですが、物語のようにワクワクしながら読みました。
原題は『Black Box Thinking』で、飛行機に搭載してあるブラックボックスを巡る事実について書いてありました。
記録されているデータ、操縦士の内心の作用、人間の特性、事件を見守る周囲の感情など、人間が本能と戦う姿が描かれていました。
当事者でなくても、事情を知らなくても、その結果について、人は評価を下し非難をするようです。そして、専門家ではない無関係の人々は、善悪のみを判断し、誰かに責任を取らせることに収束していきます。
これは、私たちが勧善懲悪のフィクションドラマを見て、日頃の鬱憤(うっぷん)をはらしたり、正義が勝つという安心感を得るのに似ています。ドラマは上映が終われば、尾を引きません。そして、最悪の結末で終わり、内心の感情は動かされても、直接的な影響はありません。
そして、このフィクションに起こったことが、現実の出来事に起こっているようです。一つの結果について、誰かに責任を取らせる。それで、一件落着です。これ以後、その話はあまり話題にはなりません。すべてが円満に解決したと感じるからでしょう。
原因と結果がわからないのに、根本的な改善がなされないまま、行動は続けられます。
本書には、多くの書籍や論文、雑誌の記事の紹介がありました。50件はあったと思います。そして、引用したところも多くありました。
引用部分は、インパクトがありました。しかしながら、本書独自の考え方をしているのに、引用文の寄せ集めのように感じることがありました。
不思議に感じたのは、濃霧のフライトで、有罪判決を受けた機長が自殺したところです。本書は、事実のみの記載に止(とど)めています。
機長は不当な判決を受け、名誉を汚され、自殺に追い込まれます。文脈から、本書は、機長に同情的な立場のようでした。しかし、自殺は止められない、止められたはずだ、などの考えを書いていません。
濃霧のフライトの1件は、機長の自殺までが、本当の終わり、と本書は考えているようです。機長の技量、経験が、ダメという烙印(らくいん)を押され、それが活用されなかったこと。そして、命を救えなかったことです。そのどれもが、検証されることなく、失敗から何も学んでいないことを本書は言いたかったのかもしれません。
この点について、具体的なことを書いていません。推測、予想などどのようにも書けたはずです。本書は無責任な言を避け、公正な検証をすべきだとの暗黙の主張をしているようにも感じます。人々に問題を投げかけているような気もします。
形式です。
文字はやや小さく感じましたが、行間、行の長さ、見開きページの上下左右中心の余白は適当で、見やすかったです。
引用などは太字になっており、注意をひくようになっていました。図や表もあり、理解しやすい工夫がありました。
読んだ順番です。ページ順に読みました。
註は、その都度、見ました。註は出典が主ですが、本書の理解を助けると思われる記述がありました。面倒くさがらずに、見てよかったと思いました。
組織の失敗や成功についての本を、弊サイトでは数冊取り上げました。その中では、読みやすい本だと思いました。
読書所要時間など
- 所要時間
- 12日15時間48分
- 読み始め
- 2017(平成29)年4月11日(火)午前11時39分~
- 読み終わり
- 2017(平成29)年4月24日(月)~午前3時27分
- 読んだ範囲
- カバー、帯、本書。ただし、奥付は軽く目を通しました。
取り上げられた書物など
- 『アーティストのためのハンドブック』 デイヴィッド・ベイルズ氏&テッド・オーランド氏共著
- 『人は誰でも間違える』 L.コーン氏&J.コリガン氏&M.ドナルドソン氏編
- 『非才! あなたの子どもを勝者にする成功の科学』マシュー・サイド氏著
- 『ヒューマンエラーは裁けるか』 シドニー・デッカー氏著
- 『哲学と現実世界-カール・ポパー入門』 ブライアン・マギー氏著
- 『チームが機能するとはどういうことか』 エイミー・エドモンドソン氏著
※ 他にも多くの書籍、論文の掲載がありました。
ひととき
桜が咲いたと思ったら、いろいろな花が咲き始めました。いい香りがするなと思って、風上に目を向けました。すると、藤棚にフジではなく、黄色い花が咲いていました。調べてみると、カロライナジャスミンのようです。
平成29年4月18日(火)撮影。
調べたこと
最初に。
本書のタイトルは『失敗の科学』ですが、原題は『Black Box Thinking』です。直訳すると「ブラックボックスの思考」とでもなるのでしょうか。
本書の副題は「失敗から学習する組織、学習できない組織」ですが、原副題は『The Surprising Truth About Success』です。直訳すると「成功についての驚くべき真実(または、真理)」でしょうか。
- 1 失敗(しっぱい)
- 2 科学(かがく)
- 3 学習(がくしゅう)
- 4 耳鼻咽喉科(じびいんこうか)
- 5 ストレッチャー(stretcher)
- 6 カニューレ(Kanüle)
- ドイツ語。
- 7 ラリンジアルマスク(Laryngeal mask airway)
- 略語「LMA」。本書では「咽頭マスク」。インターネットで画像を確認しました。
- 8 軟口蓋(なんこうがい)
- インターネットで画像を確認しました。
- 9 口腔(こうくう、こうこう)
- 医学では「こうくう」というようです。
- 10 青紫(あおむらさき)
- 11 躍起(やっき)
- 12 苦悶(くもん)
- 13 愕然(がくぜん)
- 14 昏睡(こんすい)
- 15 覗く(のぞく)
- 覘く(のぞく)。
- 16 傑出(けっしゅつ)
- 17 黎明期(れいめいき)
- 18 国際航空運送協会(こくさいこうくううんそうきょうかい)
- 略称「IATA(イアタ、アイアタ)」。「International Air Transport Association」。ホームページを確認しました。インターネットで調べました。
- 19 生検(せいけん)
- 20 鐘形(しょうけい)
- 21 頑な(かたくな)
- 22 槍玉に挙げる(やりだまにあげる)
- 23 スケープゴート(scapegoat)
- 24 曖昧(あいまい)
- 25 曲解(きょっかい)
- 26 婉曲(えんきょく)
- 27 偶発(ぐうはつ)
- 28 ストップオーバー(stopover)
- 29 確証(かくしょう)
- 30 晒す(さらす)
- 曝す(さらす)。
- 31 匿名(とくめい)
- 32 逼迫(ひっぱく)
- 33 切羽詰まる(せっぱつまる)
- 34 幾何学(きかがく)
- 35 空力(くうりき)
- 辞書には「空力」単独では載っていませんでした。「空気力学」「空力特性」「空力加熱」など、何かしらの言葉が付いています。「空気力学」を略して「空力」なのか、「空力◯◯」の「◯◯」を省略したものなのか、わかりませんでした。
- 36 功績(こうせき)
- 37 疑似(ぎじ)
- 擬似(ぎじ)。参考:似非(えせ)、似而非(えせ)。
- 38 信憑性(しんぴょうせい)
- 39 マインドセット(mindset)
- 今までの考え方。
- 40 惨憺(さんたん)
- 惨澹(さんたん)。
- 41 気高い(けだかい)
- 42 冤罪(えんざい)
- 43 惨劇(さんげき)
- 44 ベビーシッター(babysitter)
- 45 怯える(おびえる)
- 46 頷く(うなずく)
- 47 悼む(いたむ)
- 48 采配(さいはい)
- 49 罠(わな)
- 50 精査(せいさ)
- 51 礎(いしずえ)
- 52 狡猾(こうかつ)
- 53 沽券に関わる(こけんにかかわる)
- 54 奇想天外(きそうてんがい)
- 55 信念(しんねん)
- 56 倒錯(とうさく)
- 57 画策(かくさく)
- 58 欺瞞(ぎまん)
- 59 詭弁(きべん)
- 60 酷似(こくじ)
- 61 的を射る(まとをいる)
- 62 明晰(めいせき)
- 63 悪態(あくたい)
- 64 排斥(はいせき)
- 65 迫害(はくがい)
- 66 猛然(もうぜん)
- 67 飢饉(ききん)
- 饑饉(ききん)。
- 68 偏屈(へんくつ)
- 69 辻褄が合う(つじつまがあう)
- 70 嘲り(あざけり)
- 71 論説(ろんせつ)
- 72 鑑(かがみ)
- 73 破綻(はたん)
- 74 秀逸(しゅういつ)
- 75 生化学(せいかがく)
- 76 テキスタイル(textile)
- 77 掌を返す(てのひらをかえす)
- 78 毅然(きぜん)
- 79 豹変(ひょうへん)
- 80 バグ(bug)
- 参考:「バク(貘)」「ハグ(hug)」「パグ(pug)」「パクッ」。
- 81 ベータ版(βばん)
- お試し用のソフトウェア。
- 82 フィードバック(feedback)
- 参考:フィードフォワード(feedforward)。
- 83 アーリーアダプター(early adopter)
- 84 ブレインストーミング(brainstorming)
- ブレーンストーミング。
- 85 適う(かなう)
- 86 禍(か)
- 87 講釈(こうしゃく)
- 88 欺く(あざむく)
- 89 厄介者(やっかいもの)
- 90 悪名(あくみょう、あくめい)
- 91 ふてぶてしい
- 92 揶揄(やゆ)
- 93 タフ(tough)
- 94 素行(そこう)
- 95 御墨付き(おすみつき)
- 96 諸手(もろて)
- 参考:「双手(そうしゅ)」。
- 97 死人に口なし(しにんにくちなし)
- 98 些細(ささい)
- 99 脚光を浴びる(きゃっこうをあびる)
- 100 称える(たたえる)
- 101 辛辣(しんらつ)
- 102 卑猥(ひわい)
- 103 啓蒙(けいもう)
- 104 訓話(くんわ)
- 105 不敵(ふてき)
- 参考:不適(ふてき)。
- 106 ブリーフィング(briefing)
- 107 モニタリング(monitoring)
- 108 墓穴を掘る(ぼけつをほる)
- 109 然り(しかり)
- 110 インセンティブ(incentive)
- 111 腐敗(ふはい)
- 112 蔓延(まんえん)
- 113 識字(しきじ)
- 114 イーゼル(easel)
- 115 猛者(もさ、もうざ)
- 116 脊髄反射(せきずいはんしゃ)
- インターネットでも調べました。
- 117 日常茶飯事(にちじょうさはんじ)
- 日常茶飯(にちじょうさはん)。
- 118 一分の隙(いちぶのすき)
- インターネットで調べました。
- 119 人類学(じんるいがく)
- 120 二分法(にぶんほう)
- 121 サブプライムローン(subprime lending)
- 122 公人(こうじん)
- 123 煽る(あおる)
- 124 症候群(しょうこうぐん)
- シンドローム(syndrome)。参考:「疾病(illness)」、「疾患(disease)」、「障害(disorder)」。
- 125 困憊(こんぱい)
- 126 ローカライザー(localizer)
- インターネットで調べました。
- 127 グライドパス(glide path)
- インターネットで調べました。
- 128 道義(どうぎ)
- 129 アディショナルタイム(Additional Time)
- 参考:ロスタイム(loss time)、和製語。インジュアリータイム(Injury Time)。
- 130 絶体絶命(ぜったいぜつめい)
- 131 ハングリー精神(hungryせいしん)
- 辞書では「ハングリー」の項目で、例示としてこの言葉がありました。インターネットでは、この言葉の意味がありました。
- 132 強靱(きょうじん)
- 133 御座なり(おざなり)
- 参考:等閑(なおざり)。
- 134 萎れる(しおれる)
- 135 凌駕(りょうが)
- 陵駕(りょうが)。
- 136 勾配(こうばい)
- 137 加重平均(かじゅうへいきん)
- 138 完遂(かんすい)
- 139 能天気(のうてんき)
- 能転気(のうてんき)。脳天気(のうてんき)。
- 140 謳う(うたう)
- 141 神聖(しんせい)
- 142 塞ぐ(ふさぐ)
- 143 冒瀆(ぼうとく)
- 144 反駁(はんばく)
- 145 無謬主義(むびゅうしゅぎ)
- 本書に解説があります。インターネットに興味深いことを書いてあるサイトがありました。
- 146 皮肉(ひにく)
- 147 礼讃(らいさん)
- 礼賛(らいさん)。
- 148 汚らわしい(けがらわしい)
- 穢らわしい(けがらわしい)。
- 149 ベンチマーク(bench mark)
- 150 検証(けんしょう)
- 151 エピローグ(epilogue)
- 152 陳腐(ちんぷ)
- 153 説教(せっきょう)
- 154 即座(そくざ)
- 155 コラムニスト(columnist)
以下余白