『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』
- 副題など
- 本書表紙には「10hours Economics」、帯には「東大生が1番読んでいる本!」とありました。
- 著者など
- 井堀 利宏(いほり としひろ)氏著
- 出版社など
- 株式会社KADOKAWA さん
- 版刷など
- 2015年4月第1刷。読んだものは、2016年11月第20刷。
- ボリューム
- 239ページ
感じたこと
社会人1年生の頃を思い出しました。
就職する年の3月、内定をもらった組織から研修と称して、通信教育を受講していました。それは、社会常識的な事柄がコンパクトにまとめられている内容でした。
その中に経済がありました。それほど詳しい内容ではありませんでしたが、興味を持ちました。就職してから、経済学の書籍を買いました。しかし、本を読めないので、遅々として進みませんでした。ところどころは読みましたが、全部は無理でした。
それから、昭和から平成へ、バブル経済の崩壊、長期の不況、PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)、貸し渋り、物言う株主、成果主義、リーマンショック、ブラック企業、ゼロ金利政策など、いろんな出来事がありました。
特に、バブル経済の崩壊は、世の中の転換点だったと感じます。それは、一国の経済のみならず、世界的な動きだったと思います。人々の感覚も、価値観も、人間性までも変わったようでした。
バブル経済の時代は、何でも物が高く、安い初任給では生活はやっとのことでした。物はどんどん贅沢になり、高くなっていました。崩壊後、何でも安ければいいという風潮が出てきました。はじめは物の値段だけだったのが、人件費まで安く上げようとする傾向があったように思います。
人材の確保では、時間単位あたり生産性の高い人材、または、安い賃金で働く人材のいずれかであった気がします。生産性が高ければ、物は安く仕上がります。安い賃金の場合も同じです。それから、労働者への要求は熾烈(しれつ)になっているように感じます。
特に、労働者から支持される政党が見当たらなくなってから、その傾向が強いように感じます。労働環境は、組織内のストレスに満ちている感じです。組織内、労働者同士、社会の人々が、お互いにストレスを掛け合っているようです。また、賃金を下げない代わりに、労働者を使い捨てにしているようにも感じます。労働者が余っているので、辞めてもいくらでも補充がきくのです。
円高による産業の海外移転のしわ寄せは、国内の労働者に来ているようです。正社員を減らし、派遣社員を採用するのも同じことでしょう。結局は、究極のコスト削減を目指しているのです。
PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)が1つのきっかけになったような気がします。行政の仕事のいくつかは、委託された民間企業が行っています。委託された企業は、入札で仕事を取っているはずです。最安値で落札することは、賃金も安くなることです。要は、行政にかかるコストを抑えることだけを考えています。
確かに、できるだけお金を節約するのは、望ましいことです。税金が安くなります。しかし、少ない税金で賄えることは、行政が動かせるお金も少なくなります。お金を動かすということでは、行政の影響力は小さくなります。
行政は「最少の経費で最大の効果」を図っています。このことから、行政でかかっていたコストと同額で民間企業が請け負わないと、賃金が確保できないことになります。公務員の人件費は民間を参考にしています。もし、安ければいいというのであれば、公務員の賃金は、最低賃金になります。
この場合、請け負う企業の選定方法を変えてはどうでしょうか。例えば、請負額は今までにかかっていた額として、より質の高い企業を選ぶことです。労働力を提供するだけではなく、業務効率化なども提案できるような企業です。
お金は流動性が高く、国がお金の流れる量を調節できます。そして、失業率は、お金の流れに左右されます。労働者の流動性は、お金ほどにないからです。ニュースでは、景気対策の結果として、失業率を述べています。この傾向は、私が就職する以前から今日に至るまで同じです。
QCサークルという言葉を聞くようになってから、労働の質が変わった気がします。以前は、経営者の指示どおりに動くのが仕事でした。本来、経営者がすべき、原因、分析、対策まで、現場の労働者がするようになったのです。経営にかかる知的アイディアを労働者が提供しだしたのです。労働者の質が高く、賃金制度が実情に合わなくなっています。
さて、お金の量や流れを変えることで景気の安定を図るには限界があるようです。また、富が少数者に集中すると、金融や財政政策では経済の安定は難しいようです。富を広く分散させた方がいいように思います。
労働力は流動性が低いという前提で経済学は語られています。しかし、もし、労働力の流動性が少しでも高くなったらどうでしょうか。
労働の硬直性の理由はいろいろあります。その中に専門性や慣れがあります。それらが、取り払われたという前提です。
労働者はより高い賃金の職を求めて転職をするでしょう。景気がよくなれば、企業は人材の確保に躍起になるでしょう。不景気で失業しても、違う職に就く可能性は高くなります。
さて、ここでのポイントは、「労働力に流動性を持たせる」ことと、「労働の需給調整」です。不景気になっても、失業者を雇用できるシステムが必要です。
1つの考え方は、公営企業をつくることです。雇用された労働者は、労働はもちろんのこと、必要な研修を受け、能力開発をします。能力を身につけた労働者は、よりよい条件を求めて民間企業に転職するかもしれません。また、新しい仕事に挑戦する企業家が出てくるかもしれません。
公営企業は、不景気による失業者を受け入れます。景気がよくなると、人材の獲得競争が始まります。よりよい条件の企業に、公営企業で働いていた労働者は転職するでしょう。
公営企業の役割は、労働者の経済の安定と能力開発、労働市場の調整です。ここでの特徴は、人材に投資していることです。社会経済の動きの中で、研修や能力開発ができることにあります。社会の流れがわからなければ、何をしていいのか判断できません。
公営企業が人材を吸収するため、景気が急によくなると、人材不足になるでしょう。賃金は急騰し、経済変動があるかもしれません。失業率がゼロってこともあり得ます。人材不足による倒産が増えるかもしれません。
今は労働者の賃金を確保する「同一労働同一賃金」ですが、失業率が低くなるにつれ、企業を守るものに変わるかもしれません。企業は人材を確保するために正社員として雇用するからです。
確か、どこかの政党か政治家が、失業者を公務員として採用してはどうかと言っていたような・・・。
いずれにしても、実現は難しいようです。実現したとしても、新たな問題が出るのは必至です。やはり、想像の範囲を出ないようです。
この書物を選んだ理由
本屋さんで見かけた1冊です。タイトルにまんまとやられました。「10時間」に強い興味を持ちました。大学で学ぶ経済学を本当に「10時間」で読めるのか、です。実際に読んでいるときの時間を計ることにしました。
私の読み方
「2 この書物を選んだ理由」のとおり、実際に一通り読んだ時間を計った結果、7時間23分23秒でした。タイトルの10時間は切っていました。
この本を読んだ前提として、簡単ですが、過去に経済学を独学したことがあります。それは悲惨なもので、用語に慣れるのに時間がかかり、理解するのに苦労しました。本書を読むと、当時のことがよみがえってきました。やはり、同じところで理解不能になります。確か・・・だった、かな? といった感じです。ちょっと時間のある時に、当時使っていた本を取り出し、どのように理解したのか思い出していました。
もし、初めて経済学を学ぶ立場だったら、ある程度本を読める今の状態でも、10時間をはるかに超えただろうと思います。もしかしたら、挫折していたかもしれません。
ですから、過去に経済学を学んだことのある人が、復習などの目的で読むと、10時間程度で読めるのだと思います。
このことを考えると、本書は入門者向けではなさそうです。用語は解説をしながら記述なのでわかりやすくなっています。しかし、記述内容と図を理解するのは苦労します。慣れなのかもしれませんが。
貸借対照表などの知識が必要なところもありました。あるかないかで理解は変わってきます。
読んだ順番は、ページ順に読みました。順番に読むと理解しやすいようです。
ただ、本屋で買うかどうかの判断の1つとして、「はじめに」と「おわりに」は見ておいた方がよいと思いました。そこには「ビジネスマンの最低限の教養」とか「社会に出る人に読んでもらいたい」という、著者の意図を感じるからです。
ですから、大学4年間で習う経済学は、もっと範囲も量も多いということでしょう。
バブルや環境税など、時代の話題を取り上げていました。私はこんな時代を生きてきたんだと懐かしく当時のことを思い出しました。
それで理解したのか?と聞かれると、サッパリのようです。これを書く最中、ページをパラパラめくっていると、いきなり「何だっけ、この言葉」でした。読んだことを身につけるのは難しいですね。
読書所要時間など
- 所要時間
- 5日6時間32分
- 読み始め
- 2017(平成29)年3月12日(日)午前11時11分~
- 読み終わり
- 2017(平成29)年3月17日(金)~17時43分
- 読んだ範囲
- カバー、帯、本書。ただし、奥付は軽く目を通しました。
取り上げられた書物など
- 『ビューティフル・マインド』映画
ひととき
遊歩道の土手に咲いていた水仙(スイセン)です。
平成29年2月25日(土)撮影。
海の中も春のようです。クラゲがたくさん海岸近くを漂っていました。
平成29年3月1日(水)撮影。
調べたこと
- 1 大学(だいがく)
- 2 経済(けいざい)
- 「経世済民」「経国済民」の略。
- 3 経済学(けいざいがく)
- 4 ざっと
- 5 学ぶ(まなぶ)
- 6 冷血漢(れいけつかん)
- 7 主体(しゅたい)
- 参考:客体(きゃくたい)。
- 8 懐具合(ふところぐあい)
- 9 嗜好(しこう)
- 10 贅沢(ぜいたく)
- 11 飢饉(ききん)
- 饑饉(ききん)。
- 12 競り人
- 読み方は「せりにん」「せりびと」のどちらなのでしょうか。調べましたがわかりませんでした。
- 13 所与(しょよ)
- 14 コイントス(coin toss)
- インターネットで調べました。
- 15 乖離(かいり)
- 16 スケールメリット(scale merit)
- 和製語。
- 17 憑く(つく)
- 18 囁く(ささやく)
- 私語く(ささやく)。
- 19 抜け駆け(ぬけがけ)
- 20 損して得取れ(そんしてとくとれ)
- 21 竹篦返し(しっぺがえし、しっぺいがえし)
- 22 八百長(やおちょう)
- 23 減殺(げんさい)
- 24 フリーライド(free ride)
- インターネットで調べました。
- 25 放漫(ほうまん)
- 26 破綻(はたん)
- 27 矯正(きょうせい)
- 28 強制(きょうせい)
- 29 便法(べんぽう)
- 読み方は「be-n-po-u」。
- 30 後付け(あとつけ、あとづけ)
- 跡付け(あとつけ、あとづけ)。
- 31 事後(じご)
- 32 硬直(こうちょく)
- 33 投融資(とうゆうし)
- 投資と融資。
- 34 投資(とうし)
- インベストメント(investment)。経済辞典を参考にしました。
- 35 融資(ゆうし)
- 36 便益(べんえき)
- 37 外生的(がいせいてき)
- 経済辞典、インターネットなどを参考にしました。
- 38 底割れ(そこわれ)
- 39 賄う(まかなう)
- 40 中立命題(ちゅうりつめいだい)
- 「中立」とは、「影響しない」「影響を与えない」という意味のようです。
- 41 命題(めいだい)
- 42 取り付け(とりつけ)
- 43 好況(こうきょう)
- 44 売りオペ
- 売りオペーレーション(selling operation)。対義語は、買いオペで、「買いオペーレーション(buying operation)。
- 45 供与(きょうよ)
- 46 B/S(balance sheet)
- 貸借対照表。実際の貸借対照表を見ると、「貸借」の順番ではなく、左が「借方」で、右が「貸方」です。これは、昔、横書きは、文字を右から左に書いていた名残というのを聞いたことがあります。真偽のほどは定かではありません。
- 47 裁量(さいりょう)
- 48 撹乱(かくらん)
- 攪乱(かくらん)。
- 49 トレードオフ(trade off)
- 50 狂乱(きょうらん)
- 51 鎮静(ちんせい)
- 52 ジャンル(genre)
- フランス語。
- 53 特化(とっか)
- 54 言及(げんきゅう)
- 55 アセアン(ASEAN)
- 東南アジア諸国連合。Association of South-East Asian Nations。
- 56 エーペック(APEC)
- アジア太平洋経済協力。Asia-Pacific Economic Corporation。
- 57 エフタープ(FTAAP)
- アジア太平洋自由貿易圏。Free Trade Area of Asia-Pacific。
- 58 ティーピーピー(TPP=Trans-Pacific Partnership)
- 内閣官房のホームページでは、「環太平洋パートナーシップ」です。
- 環太平洋経済連携協定、環太平洋パートナーシップ協定など、いろいろあるようです。
- 正式には、環太平洋戦略的経済連携協定(Trans-Pacific Strategic Economics Partnership Agreement)のようです。
- 59 選り好み(えりごのみ)
- 60 鬩ぎ合う(せめぎあう)
- 61 保守(ほしゅ)
- 対義語は「革新(かくしん)」。
- 62 革新(かくしん)
- 63 無尽蔵(むじんぞう)
以下余白