『資質・能力[理論編]』
[国研ライブラリー]
- 副題など
- 帯には「子供が自ら思考を広げ深める『学びの構造』を読み解く」「『知』『徳』『体』を一体化させる授業とは?」とありました。
- 著者など
- 国立教育政策研究所さん編。
- 巻末に「執筆者一覧」がありました。
- 出版社など
- 株式会社 東洋館出版社 さん
- 版刷など
- 2016(平成28)年1月初版第1刷。読んだものは、2016(平成28)年8月初版第4刷。
- ボリューム
- 245ページ。234ページ以降は、引用文献、索引でした。
感じたこと
今から10年ほど前の話ですが、強烈な印象を受けた話がありました。小学生に武道を教えていると語る、かなりご年配の方でした。顔見知りではなく、何かの集まりの時に、たまたま近くにいて、世間話をしただけなのですが。私からは何も言わなかったのですが、その方が勝手に独り言のように語ってくれました。私は、じっとその方の言うことに耳を傾けていました。
働く理由を自己実現だとか何やかやと言っている。働くのは、生きる、ためだ。食べるために働いている。最近、世間で言っていることはおかしい。
私が若い頃は、食べることにも不自由していた。歩いていると、金を脅し取られることは、しょっちゅうあった。金を取られると生活ができないので、自分で身を守るしかない。それで、武道を習い始めた。
力がなければ身を守れない。身を守れなければ、生きられない。力がなければ、生きられない。今の人たちは、歯が浮いたようなことを言っているように聞こえる。生きるとはどういうことか、現実を見なければいけない。綺麗事(きれいごと)では、生きられない。こんな気持ちで子供たちに武道を教えている。
実際はもっと多くのことを語られていました。思い出せることに限りがありました。忠実な再現はできませんでしたが、ご年配の方のお話は、大体、このような内容でした。
この内容を見ると、いろんなご意見が出てくると思います。今の豊かな時代にそんな考え方はどうか。もっと高度な教育を施すべきだ。人が生きる生々しさを教えるべきだ。等々です。
最近、ニュースを見て思うのは、長時間労働による過労死のことです。上司が、部下のおかしい状況を察知できないか、わかっていても何もしないようです。部下も、催眠術にかかったように自らの命を絶つまで働こうとしているようです。
ここに、弊サイトで取り上げた書籍『失敗の本質』を思い出します。私がこの書籍から感じたことは、人の命を軽く扱う組織は崩壊する、ということです。そして、部下を疲労させる組織は敗れる、ということです。これは、組織や個人、自他共に言えることです。さらに、中国の思想シリーズを読んだ際にも感じたことです。
ここに共通するのは、人を物と見ていることです。物は壊れれば、補充すれば済みます。しかし、亡くなったからと言って、その人と同じレベルにすぐに人を育てることはできません。大抵の同じ物は均質ですが、その人の持ち味は、替えがありません。さらにいうなら、物資についても、材料がなければ、物を作ることができませんし、癖のあることもあります。物でも大切に使わなければ、いい仕事はできない、と言えそうです。
戦争でもないのに命を失う。安全と思われる仕事で命を失うとは、嘆かわしいことでしょうか。日本は、しばらく戦争を経験していません。平和を維持する努力だけでなく、運にも恵まれたかもしれません。しかし、世界では紛争や戦争は起きています。日本もその影響を受けるかもしれません。その時に、生きる、本当の意味を知るのかもしれません。
食糧自給、エネルギーの調達など物資について、日本は有事に弱い体質です。万一の時、何が起こるか、想像がつきません。もっとも心配なのは、人的資源を扱う考え方です。過労死から想像すると、根本的に考え方を見直さないと、「失敗の本質」の二の舞になる気がします。
目標を掲げる時、あまりに理想を掲げると、本質から懸け離れてしまいます。実現できそうにないとわかりはじめると、評価を言葉で言いつくろうかもしれません。目標は目指すべき結果ですが、絶対ではありません。そして、結果について、評価を絶対的と考えると、本質を見誤ることになりかねません。すなわち、私たち自身の価値を無意味にします。それは、人を物と見ていることです。
人が命を長らえることは絶対です。そのうえで、目標や評価がなされるのです。本質をはぐらかしたり、摩(す)り替えたり、カモフラージュなどすると、自ら迷路に入るようなものです。
今していることや、何らかの行動を予定する際、今一度、本質とは何かを問い直した方がよさそうです。
この書物を選んだ理由
キャリア、人的資源について読んできました。これらの本を探しているときに、資質と能力のタイトルがあったので、読むことにしました。
私の読み方
教育基本法、中央教育審議会答申に基づいて、資質と能力について書いてありました。教育の国際比較や理論を取り上げ、その方向性の説明に説得力を感じました。本書は、教師などの教育関係者が対象のようです。
しかしながら、私のような門外漢でも、資質や能力について、教育界がどのように考えているのかわかったような気になりました。
気になったのは、「科学的」と「生きる力」です。
科学的を絶対視した感じを受けました。科学で行き詰まらないためには、他の思考方法も必要なはずです。
「学びのサイクル」が、なぜ「生きる力」になるのか、私にはわかりませんでした。はじめに「生きる力」ありきで、後付けの理由に感じます。おそらく、「生きる力」が何から発せられるのかという確実な知識を、私が知らないだけなのでしょう。
これほどの研究結果なら、かなりの効果を期待できそうです。
それゆえ、この教育を受けた人たちは、就職してから、どのような社会人生活を送るのだろうか、という思いがあります。
また、この教育を急いだほうがよいとあったと思います。そうなら、今、働いている人たちにもその教育を施した方がいいのでは、思ってしまいます。それとも、現在働いている人は、その教育受けた状態にあるのでしょうか。
心理学や教育では様々な研究をしていますが、わからないことも多いようです。また、研究が細分化しているようで、それらの統合はされていないようです。教育は手探りの状態のところもあるようです。
本書は、1つの結論を出していません。全体の方向性を決めたうえで、いろいろな考え方を披露していることです。結論の出にくい教育を予定しているわけですから、本書がそれを実践しているようです。いろいろな考え方を示すことで、かなり広い範囲のことができるように思います。しかし、方向性をガッチリと固められているので、それは幻想のようです。
読みやすい記述だと思いました。丁寧に書いてあると感じました。ところが、専門的な内容に、辞書にない言葉がありました。例えば、「外化」「内化」です。教育の辞典には掲載があるのかもしれませんが、インターネットで調べてもはっきりとした意味はわかりませんでした。教育界では知っていて当たり前の言葉なのでしょうね。
心理学や教育の言葉は、日常で使われるものと混在しているように感じます。同じ学問でありながら、同じ内容を違う言葉で表していると感じることもあります。言葉を創出し続け、整理と定義が追いついていない感じがします。それだけ研究範囲が広く複雑なのでしょう。
本書を読むうえで、文部科学省のホームページは役に立ちました。用語集があったり、リーフレットのようなページが、理解を助けてくれました。
形式です。
文字はやや小さく感じました。1行の長さ、行間は適当で文字を見やすかったです。注が見開きページの左端にあるのは、ページを繰る手間がなく、読みに集中できました。
太字、図、表、囲みなどは、内容を整理したり、理解しやすいように感じました。
索引は、言葉をもっと増やして欲しいと感じました。メインとなるページ数を太字にすると、さらに使いやすいと思いました。
勝手なことを書きましたが、門外漢の私が読むとこんな感じになりました。
読書所要時間など
- 所要時間
- 7日20時間4分
- 読み始め
- 2017(平成29)年1月7日(土)15時54分~
- 読み終わり
- 2017(平成29)年1月15日(日)~午前11時58分
- 読んだ範囲
- カバー、帯、本文。ただし、索引は必要な時に使い、引用文献、執筆者一覧、研究組織、奥付は軽く目を通しました。
取り上げられた書物など
引用文献に、多くの書籍の掲載がありました。
調べたこと
- 1 国立教育政策研究所
- National Institute for Educational Policy Research。インターネットでホームページを確認しました。
- 2 資質(ししつ)
- 3 能力(のうりょく)
- 4 理論(りろん)
- 5 リテラシー(literacy)
- 6 血肉(けつにく)
- 7 学力の三要素
- 本書にも解説があります。文部科学省のホームページ「現行学習指導要領の充実に関する基本的な考え方」に、「基礎的・基本的な知識・技能」「知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」とありました。
- 8 切(せつ)
- 9 拍車を掛ける(はくしゃをかける)
- 10 しなやか
- 11 人格(じんかく)
- 12 山積(さんせき)
- 13 ストリーミング(streaming)制
- 能力別の教育のことでしょうか。インターネットで調べました。ネットの検索で多かったのは、「データを受信しながら再生するやり方」の意味でした。
- 14 タグクラウド(tag cloud)
- インターネットで調べました。
- 15 ICT(information and communications technology)
- 「あい、しー、てぃー」と読むようです。ITと同じ意味のようです。
- 16 DeSeCo(Definition and Selection of Competencies)
- OECD(経済協力開発機構)のプロジェクト。コンピテンシーの研究のようです。
- 17 コンピテンシー(competency)
- 「キー・コンピテンシー」は本書に解説があります。
- 18 推奨(すいしょう)
- 19 ESD(Education for Sustainable Development)
- 持続可能な開発のための教育。
- 20 相通ずる(あいつうずる)
- 21 国際バカロレア
- International Baccalaureate。略は「IB」。文部科学省ホームページを参照しました。
- 22 素養(そよう)
- 23 品性(ひんせい)
- 24 「内容知」と「方法知」
- 「ないようち」「ほうほうち」と読むのでしょうか。インターネットで調べました。心理学辞典や心理学、辞書に載っていませんでした。教育の専門用語でしょうか。「内容知」とは「対象についての情報」で、「方法知」は「その情報の取得の方法」のことのようです。
- 25 メタ認知(めたにんち)
- metacognition。本書に解説があります。
- 26 一家言(いっかげん)
- 27 生得(しょうとく、せいとく)
- 28 進取(しんしゅ)
- 29 拮抗(きっこう)
- 30 骨子(こっし)
- 31 際立つ(きわだつ)
- 32 定位(ていい)
- 33 現出(げんしゅつ)
- 34 二分法(にぶんほう)
- 35 二項対立(にこうたいりつ)
- 36 外界(がいかい)
- 37 同定(どうてい)
- 38 喚起(かんき)
- 39 アイデンティティ(identity)
- アイデンティティー。本人が、自分と他人や環境が、同じように感じていることでしょうか。
- 40 矮小(わいしょう)
- 41 丹念(たんねん)
- 42 率直(そっちょく)
- 43 手応え(てごたえ)
- 手答え(てごたえ)。
- 44 新山
- 「しんざん」読むのでしょうか。辞書、インターネットにも掲載はありませんでした。専門用語なのかもしれません。「しんやま」だと「伐採・採掘をし始めた山」の意味です。「造山活動」との関係がわかりません。
- 45 酣(たけなわ)
- 闌(たけなわ)。
- 46 端を発する(たんをはっする)
- 47 バリエーション(variation)
- 本書では「ヴァリエーション」。
- 48 全人(ぜんじん)
- 49 捨象(しゃしょう)
- 50 けたを離れる
- 調べましたがわかりませんでした。
- 51 ブルーム・タキソノミー(Bloom Taxonomy)
- 本書に解説があります。インターネットでも調べました。
- 52 遮蔽(しゃへい)
- 53 実験群と統制群
- 処理を施すのが実験群。それをしないのを統制群または対照群。
- 54 モーラ(mora)
- 55 素朴概念(native conception)
- 56 ビッグアイデア
- 本書では「大きな概念」とし、実例の掲載があります。直訳で、そのまんまですが、本書では何かの訴えを感じました。文脈的アプローチなどによる知的好奇心を高めさせる考え、のような感じでしょうか。辞書には掲載がありませんでした。インターネットでは例示はありますが、一般的な意味の記述は見当たりません。
- 57 精選(せいせん)
- 58 論考(ろんこう)
- 論攷(ろんこう)。
- 59 卑近(ひきん)
- 60 フェーズ(phase)
- フェイズ。
- 61 協調学習
- インターネットで調べました。
- 62 協働(きょうどう)
- 63 レリバンス(relevance)
- 関連性、妥当性。
- 64 パラダイムシフト(paradigm shift)
- 65 性向(せいこう)
- 66 真正(しんせい)
- 67 剥落(はくらく)
- 68 オープンエンド
- 本書では、正解のない、でしょうか。以前の文にこの言葉があり、オープンエンドを言い換えると意味がよく通じました。インターネットでは、いくつもの答えがある、とか、正解の決められない、などの意味がありました。
- 69 徒弟(とてい)
- 70 奔走(ほんそう)
- 71 シークエンス(sequence)
- ここでは「problem-to-project sequence」のことで、問題解決型学習ということのようです。本書に書いてありました。
- 72 培う(つちかう)
- 73 形成的評価(けいせいてきひょうか)
- 74 カリキュラム評価
- 辞書にはこの言葉ありませんでした。「カリキュラムを評価する」をこの言葉にしたのでしょうか。カリキュラム+評価、なのでしょうか。インターネットで調べました。よくわかりませんでした。
- 75 クリティカル(critical)
- 76 立式(りっしき)
- 77 吟味(ぎんみ)
- 78 汎用(はんよう)
- 79 付言(ふげん)
- 附言(ふげん)。
- 80 腐心(ふしん)
- 81 付与(ふよ)
- 附与(ふよ)。
- 82 知見(ちけん)
- 83 モニター(monitor)
- 84 傍目八目(おかめはちもく)
- 岡目八目(おかめはちもく)。
- 85 モニタリング(monitoring)
- 86 フォロワー(follower)
- 87 エッセンシャル(essential)
- 88 詳述(しょうじゅつ)
- 89 「外化」「内化」
- 「がいか」「ないか」と読むのでしょうか。辞書、心理学辞典に掲載がありませんでした。教育で使われる言葉のようです。「内化」は知識を取り入れること、「外化」は中にあるものを取り出すこと、のようです。インターネットで調べました。
- 90 CSCL(Computer Supported Collaborative Learning)
- コンピュータが支援する協調学習、のことのようです。ホームページによっては、「協同学習」になっています。本書では、注47より「協調学習」としています。
- 91 言説(げんせつ)
- 92 盲信(もうしん)
- 93 Ebb and Flow
- 潮の干満。盛衰という意味もあるようです。
- 94 萌芽(ほうが)
- 95 十全(じゅうぜん)
- 96 語彙(ごい)
- 97 母語(ぼご)
- 参考:「母国語(ぼこくご)」と区別する。
- 98 周知(しゅうち)
- 99 刹那的(せつなてき)
- 100 アプリシエーション(appreciation)
- 101 巧緻(こうち)
- 102 互恵(ごけい)
- 103 魅惑(みわく)
- 104 方略(ほうりゃく)
- strategy。
- 105 連綿(れんめん)
- 106 臨機応変(りんきおうへん)
- 107 我田引水(がでんいんすい)
- 108 先駆者(せんくしゃ)
- 109 忖度(そんたく)
- 110 インクルーシブ教育システム(inclusive education system)
- 障害のある者とそうでない者ができる限り一緒に学ぶ仕組み、のことのようです。文部科学省のホームページを参考にしました。
- 111 喫緊(きっきん)
- 112 目当て(めあて)
- 113 ダイナミック(dynamic)
- 114 諮問(しもん)
- 115 ジーニアス(genius)
- 116 コンソーシアム(consortium)
- 117 中教審
- 中央教育審議会。Central Council for Education。
- 118 答申(とうしん)
以下余白