『キャリア教育のウソ』
- 副題など
- 帯には「『やりたいこと至上主義』のワナとは」とありました。
- 著者など
- 児美川 孝一郎(こみかわ こういちろう)氏著
- 出版社など
- 株式会社筑摩書房 さん
- 版刷など
- ちくまプリマー新書197。2013年6月初版第1刷。読んだものは、2016年5月初版第7刷。
- ボリューム
- 190ページ。ただし、188ページ以降は「参考文献」。
感じたこと
確か、中学1年生の2学期だったと思います。学年主任の先生の授業を思い出しました。
野球部にいた1年生部員が、バレーボール部に移った話でした。
学年主任の先生は、野球部の顧問をしていました。夏休み最後の練習日に、野球部を辞めたいと生徒から相談を受けたそうです。生徒から聞いた理由は次のようなものだったそうです。
野球部で、つらい練習をしてきた。でも、よく考えみると、レギュラーのほとんどは3年生。3年生になっても、レギュラーになれるかどうかわからない。野球は好きだが、自分が活躍できるかどうかわからない。スポーツには自信があるので、自分が公式戦に出場できる体育会系のクラブに移りたい。
という内容です。当時、野球人気は高く、1学年35人程度で、野球部で約100人の部員がいました。1学年で3チーム作れるわけですから、レギュラーになるには、熾烈(しれつ)な競争があります。学校を代表するチームは、当然、体力に優れた3年生がレギュラーです。3年生になっても、3倍の競争があります。よほど野球が好きでも、公式試合に出られないでは、何のために練習しているのかわかりません。
これを聞いた先生は、そういう生き方もあるのかと納得したそうです。自ら考え進路を決めた生徒に感心したそうです。そして、本人の希望どおり、2学期からバレーボール部に移りました。
当時の感覚としては、一度入部したら、同じ部で3年間過ごすことが、不文律のようになっていました。よほどの理由がない限り、辞めたり転部はできませんでした。また、それをすると、他の生徒から、非難、裏切り者扱い、いじめがあったように思います。何だ、腰抜けか、みたいな。大人の世界でいう、一生を1つの会社に捧げる終身雇用のような感覚が、部活にもあったのかもしれません。
私が未だにこの話を忘れられないのは、これだという答えを見つけられないからです。自分の好きなことを貫くのか、自分の活躍できる場を探すのか、自分の特長を活用するのか、などです。
当時の私の感覚は、好きなことはやめられないでした。たとえ、表舞台に立てなくても、続けるべきだと思っていました。しかし、これ以降、いろんな話を聞くにつれ、必ずしも、好きなことを続けることが、人として良好な満足感を得られるとは限らない、と思うようになりました。
仕事をするのは、生きていくためです。お金を稼ぎ、食べていかなければなりません。そして、人との相互の支えも必要です。人は、何らかの手段で、生きていかねばなりません。生きることが目的で、仕事は手段です。さらにいうなら、好きなことは、金銭や時間などに余裕があればできます。
生きるための仕事を、自分の中でより好きな仕事を選ぶ、または、選ばなければならないとダメだ、という考え方は一義的です。
ですから、仕事は、好きなこと、人より抜きん出た能力を活かすこと、人から求められること、など、いろいろあるはずです。それで、生計を立てられるかどうかです。
趣味ではじめたことが、プロになった時から、塗炭の苦しみに変わる、という話を聞いたことがあります。人からその能力を買われて、今の職業に就いたという人もいます。成り行き、人に誘われるままとか、苦手を克服するうちにそれが仕事になったなど、理由は様々です。
そして、生きていくうちに、人は考え方や感じ方が変わって行きます。そうであれば、一生のうちで、仕事が変わったとしても不思議なことではありません。
そして、嫌いなことでも、人に感謝され続けたら、気持ちが変わっていきます。好成績を残したり、人から仕事を評価されたら、自尊心が満たされます。
他人からの評価は、全体のものです。他人から賞讃される仕事をしたら、本人を含めて関係者は、充実感を味わうはずです。個人の好き嫌いは、関係なくなります。
ここまで、とりとめのないことを書きました。
先ほどの部活動の話ですが、人生のある大先輩が言っていました。
公式試合を経験することは大きい。緊張、集中力、平常心、偶然など、日常ではあり得ないことを味わう。そして、その経験は、大人になってからものを言う。とにかく、試合に出なければわからない。どんな分野でもいいから、若いうちは、試合に出た方がいい、表舞台に立て、と。
このような個人的な話を、多くの生徒の前で、なぜ、先生は話されたのでしょうか。確かに、すばらしい考え方だったのでしょう。しかし、今から思えば、もう一つ理由があるようです。それは、転部した生徒が、非難やいじめを受けないようにしたのです。その考え方と、バレーボール部で再出発する生徒に、先生は祝福とエールを送ったようです。
その後、転部した生徒の話が気になります。その秋の新人戦(公式戦)から活躍していたようです。
今まで、これほど、考えさせられ、これからも考えさせられるでしょう。私には、最高のキャリア教育の授業だったようです。
この書物を選んだ理由
キャリアとは何かの続きです。インターネットで選びました。
私の読み方
キャリア教育は、学校教育の一環です。しかし、現実には、社会全体の問題です。特に、就職は重要ですが、学校の範囲内での取り扱いが残念です。
キャリア教育は、人生が対象なはずです。生涯教育の一環とするのがいいように思います。
生徒や学生は、仕事や就職に興味津々のはずです。そして、学校でよく勉強しているはずです。にもかかわらず、離職やニートなどの原因を、学校教育や生徒のせいにするのは合点がいきません。私は、新しく入ってくる人たちを受け入れる側に、工夫が足りないように思います。
組織の構成員でどれだけの人が、新人を受け入れる勉強や研究をしているのでしょうか。おそらく、仕事は自分のことで精一杯で、仕事を終われば家事や趣味に忙しいでしょう。好きな人以外は、そんなことは考えません。
このことは新人だけではありません。転入者、中途採用者にも言えることです。新しい組織、セクションで、彼らが、早く馴染み、必要な知識や能力を身につけ、個人の能力を発揮できるか、です。これは、人材の活用であり、この成否が生産性にかかわってきます。
私の経験では、どんな組織でも、たいていの場合、新人が、組織の上司や構成員に馴染む努力をします。そして、上司や古参の顔色を窺うのが当然で、提案、口答えなどもってのほかでした。上司や古参は、組織のボスや傀儡師(かいらいし)のように振る舞う人がいました。彼らは、新人をバカにし、怒鳴って命令し、私用にこき使います。そして、何年か経つと、そのような上司や古参は、業務の知識が若い時のままなのがわかりました。彼らは、勉強をどこかで中断したようなのです。そのような人が、転入者を受け入れる勉強などするはずがありません。研修を受けても、他人事(ひとごと)のようです。自分の存在感を示すためだけに振る舞っているようにも見えます。より動物に近い示威行動とでも言えそうです。
質問するとわかりやすく解説してくれる古参がいました。その解説から、よく勉強し自分で考えていることがわかります。このような古参には絶えず相談者が来ていました。
しかし、組織は、知識や知恵だけでは動きません。人を動かさねばなりません。ですから、知識や知恵をつけ、人間性を磨く人がいても、必ずしも組織の上位の役職に就くとは限りません。話し合いで諭(さと)すより、怒鳴り散らし、恐怖を与えたほうが、人を動かしやすいからです。そして、この簡便で野蛮な方法をとった結果、組織に与える副作用、後遺症は計り知れないものがあります。
新人や転入者などの受け入れ、人間関係の構築、知識と経験の伝達など、本当に教育が必要なのは、社会の組織とその構成員です。組織には、秘密やそれぞれの風土があります。組織により違うため、自分たちがどのようにするのか考え計画し実行するしかありません。組織が受け入れを工夫することは、人材活用の質にかかわります。さらに、業務の質にも影響があります。そして、生産性として結果に出ます。
以上は、私の勝手な思い込みです。人材の受け入れや活用に、組織や構成員は変われるのか、を知りたくなりました。
弊サイトの読んだもので『最高の職場』M・バーチェル氏&J・ロビン氏共著、『「やりがいのある仕事」という幻想』森博嗣氏著、『「自己啓発病」社会』宮崎学氏著、『失敗の本質』戸部良一氏他5氏共著は、このテーマに関連しています。
形式です。
新書形式です。行の長さ、行間、上下左右と見開きページの中央の余白、文字の大きさは適当で、読みやすかったです。図や表、絵も適当にあり、わかりやすく、イメージしやすい工夫がありました。
読む順番はページ順に読みましたが、不都合はありませんでした。
読書所要時間など
- 所要時間
- 4日7時間23分
- 読み始め
- 2016(平成28)年11月30日(水)午前10時45分~
- 読み終わり
- 2016(平成28)年12月4日(日)~18時08分
- 読んだ範囲
- カバー、帯、本書。奥付は軽く目を通しました。
取り上げられた書物など
- 『新版・キャリアの心理学』 渡辺三枝子氏編著
- 『その幸運は偶然ではないんです!』 クランボルツ氏著
- 『偶キャリ。-「偶然」からキャリアをつくった10人』 所由紀氏著
これ以外にも、多くの書籍の記載がありました。
ひととき
セキレイと言えば、水辺の鳥と思っていました。意外にも、公園の芝生の上をよく歩き回っています。この季節は、水辺にエサが少ないのかもしれません。
写真は、公園の芝生と、水辺の石畳にいるセキレイです。
平成28年12月5日(月)撮影。
調べたこと
- 1 プリマー(primer)
- 入門書。
- 2 嘘(うそ)
- 3 contents
- コンテンツ。目次。
- 4 プロローグ(prologue)
- 対義語は「エピローグ(epilogue)」。
- 5 身も蓋もない(みもふたもない)
- 6 ロストジェネレーション(Lost Generation)
- 失われた世代。本書の場合、就職氷河期を経験した世代のことのようです。
- 7 辿る(たどる)
- 8 彷彿(ほうふつ)
- 髣髴(ほうふつ)。
- 9 デフォルメ(déformer)
- フランス語。
- 10 出自(しゅつじ)
- 11 倚む(たのむ)
- 漢和辞典で調べました。
- 12 順風満帆(じゅんぷうまんぱん)
- 13 羽振り(はぶり)
- 14 強か(したたか)
- 15 茶目っ気(ちゃめっけ)
- 16 姐御肌(あねごはだ)
- 17 さばさば
- 18 難航(なんこう)
- 19 クレーマー(claimer)
- 20 拘泥(こうでい)
- 21 上昇志向(じょうしょうしこう)
- 22 インディペンデント(independent)
- 23 コントラクター(contractor)
- 24 紆余曲折(うよきょくせつ)
- 25 波瀾万丈(はらんばんじょう)
- 26 あけすけ
- 27 エピローグ(epilogue)
- 対義語は「プロローグ(prologue)」。
- 28 唱導(しょうどう)
- 29 眉唾物(まゆつばもの)
- 30 ターゲット(target)
- 31 紛い(まがい)
- 32 洒落(しゃれ)
- 33 含意(がんい)
- 34 同語反復(どうごはんぷく)
- 同語反覆(どうごはんぷく)。
- 35 雑駁(ざっぱく)
- 36 払拭(ふっしょく)
- 37 罷り通る(まかりとおる)
- 38 援用(えんよう)
- 39 返す刀(かえすかたな)
- 返し刀(かえしがたな)。
- 40 氷山の一角(ひょうざんのいっかく)
- 41 竹篦返し(しっぺいがえし、しっぺがえし)
- 42 落とし穴(おとしあな)
- 43 絡繰り(からくり)
- 機関(からくり)。
- 44 隘路(あいろ)
- 45 範疇(はんちゅう)
- 46 一瞥(いちべつ)
- 47 斬新(ざんしん)
- 48 しどろもどろ
- 49 斟酌(しんしゃく)
- 50 後ろめたい(うしろめたい)
- 51 方略(ほうりゃく)
- 「戦略」という言葉を使いそうですが・・・。
- 52 内実(ないじつ)
- 53 真逆(まぎゃく)
- 正反対のこと。
- 54 血眼(ちまなこ)
- 55 戯画(ぎが)
- 「遊び心で」ということでしょうか。
- 56 きつい
- 57 咀嚼(そしゃく)
- 58 容易い(たやすい)
- 59 特化(とっか)
- 60 縦断(じゅうだん)
- 61 ラインナップ(line-up)
- ラインアップ。
- 62 揶揄(やゆ)
- 63 ライフステージ(life stage)
- 64 コンサマトリー(consummatory)
- 本書では「いま、ここの充実を大切にしたい」。対義語は「インストゥルメンタル(instrumental)」。本書では「将来のためには、今を犠牲にしてでもコツコツと努力する」でしょうか。
- 65 ブレイクダウン(breakdown)
- 目標を小分けにして分類していくこと、でしょうか。
- 66 目くじらを立てる(めくじらをたてる)
- 67 大上段(だいじょうだん)
- 68 野暮(やぼ)
- 69 マイノリティ(minority)
- マイノリティー。少数派。対義語は「マジョリティー(majority)」。
- 70 ステレオタイプ(stereotype)
- 集団における偏見、という意味でしょうか。
- 71 称揚(しょうよう)
- 賞揚(しょうよう)。
- 72 ノマド(nomad)
- 遊牧民。本書では「ノマドワーカー」のことのようです。組織、場所などに拘束されないワークスタイルを持つ人のことでしょうか。
- 73 言説(げんせつ)
- 74 切羽詰まる(せっぱつまる)
- 75 未曾有(みぞう)
- 76 ぎくしゃく
- 77 軋轢(あつれき)
- 78 ガイダンス(guidance)
- 79 サステイナビリティ(sustainability)
- 次世代への持続可能性。
- 80 腹を括る(はらをくくる)
- 81 面映ゆい(おもはゆい)
- 82 跋扈(ばっこ)
- 参考:「跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)」。
- 83 唐突(とうとつ)
- 84 学舎(まなびや)
- 85 屋上屋を架す(おくじょうおくをかす)
- 本書では「屋上屋を重ねる」。
- 86 印紙(いんし)
- 印紙は、頼りなく透き通っていたかなぁ~。思い出せません。
- 87 ブラッシュアップ(brush up)
- 88 牽強付会(けんきょうふかい)
- 牽強附会(けんきょうふかい)。
- 89 絆される(ほだされる)
以下余白