『キャリア教育基礎論』
- 副題など
- 「正しい理解と実践のために」
- 著者など
- 藤田 晃之(ふじた てるゆき)氏著
- 出版社など
- 株式会社 実業之日本社 さん
- 版刷など
- 2014年11月初版第1刷。
- ボリューム
- 299ページ
感じたこと
サラリーマンをしていた時、職場の人、特に上司が、キャリアという言葉を使っていました。職人にキャリアはない、という上司がいました。本当だろうか、と私は疑いました。それ以来、キャリアとは何かについて、疑問を持ち続けていました。
本書を読んでわかったのは、キャリアという言葉は、使う場所、人、職業によって違うことです。
まず、運ぶとか保菌するとかのキャリアー(carrier)と、経験などのキャリア(career)を区別します。
次に、意味として。辞書は、1経験、2専門技術者、3国家公務員の幹部候補者の意味があります。キャリア教育のキャリアは、人生全般で予想される出来事への対策、という感じです。
さらに、出世とか昇進を主に考えると、キャリアとは、課長、部長などの肩書を経歴に書き連ねることとも言えます。しかし、経験という意味では、すべての人がキャリアを持つことになります。たとえ、一生、家にいたとしてもです。その人の体験はかえって、貴重なものと言えます。
さて、本書でいうキャリアを聞いて私は次のことを思い出しました。生涯学習、ワーク・ライフ・バランス(Work・Life・Balance)、ライフプランなどです。
文部科学省のホームページに生涯学習とキャリア教育の説明がありました。生涯学習は自主的にするものであり、キャリア教育は学校で強制的に行うように感じました。また、生涯学習は、自分に必要なものを取り入れる、旅行でいうオプショナルツアーのようなイメージです。キャリア教育は、旅行全体の計画といった感じです。
これらの言葉は、人生設計と実行について考えること、と1つにまとめることができます。なぜ、派生的に言葉が出てきて、個別に取り扱うのか不思議に感じます。人生設計(ライフプランニング)とか、人生の歩み方(How to lead a life)などでよいと思うのですが。
人生の歩み方を考える大本(おおもと)は、生きることです。自分の生命を守り、子孫を残し、さらに自己実現ができればいうことはありません。
最近、話題になったものに、高齢出産があります。大学を卒業して、大組織に幹部候補者として採用され、結婚して働き続ける。子どもが欲しいと思ったら、妊娠・出産できる年齢を超えていた。多額のお金をつぎ込んで、不妊治療をしても子どもを授からない。
テレビ番組に出ていた女性は、妊娠・出産に適齢期があることを知らなかった、と言っていました。学校で習ったことがないとも。
昔は家を繋ぐことが中心で、子孫を残すことほど重要なことはなかったようです。しかし、大学卒業後、結婚して家庭に入ることは、勉強しても職業に活かせません。知識を得てすぐに活用する方がいいに決まっています。そこに、生命の流れと、自らの気持ちに対立を生じるようです。
生き物である人にとって、生命を守り、子孫を残すことは、自然なことです。おそらく本能的に、生きがいを感じることです。子孫を残すことは、人生設計を考えるうえで重要です。結婚する時期、経済的負担、老後に至るまで、全体のイメージが変わるからです。そして、タイミングを逸すると、取り戻せません。
次に、教育という考え方が、現実に即して効果的なのか、という疑問です。
学校という閉鎖的な環境で、お手本となる情報を知ることは大切です。しかし、それとともに、生の声を聞くことも大切だと思います。
老いも若きもが混在するコミュニティがありません。本来、人は、世間話の中で、世の中の出来事や仕事がどのようなものかを知ったり、人との関わり合いを学習してきたはずです。一部の先人からだけでなく、いろんな人から聞くことで、自分のイメージはできていくはずです。
少子化が進み、多くの選手を必要とする、野球、ラグビー、サッカーなどのクラブ活動が学校単位でできないそうです。野球では、2校の連合チームとして試合に参加するところもあるようです。そこで、スポーツを地域のクラブとして活動しようとする動きがあるようです。
例えば、地方自治体A市があったとします。学校では、試合に出られるぎりぎりの部員しかいません。この状態では、練習を十分に行うことはできません。そこで、人数を調整できる地区ごとに、サッカーチームを作ります。サッカーをしたい人なら誰でも入れます。また、専門家の指導が受けられるようにします。そうすれば、指導、練習、世代間のコミュニケーション、チーム編成も容易です。また、質の向上を期待できます。
キャリア教育で職業体験が強く印象に残ります。就職したことのない人にとって、職業体験は貴重です。しかし、現実の職業は1週間程度では終わりません。何年も同じことを続けます。
この場合でも、生の声を聞けたらどんなにいいでしょうか。現実の収入、仕事と家庭の現状、将来への希望などです。自分の人生設計に参考になると思います。しかし、人間関係の築けないわずな日数で、このような親密な内容を聞くことはまずありません。
私の経験上、アルバイトで仕事とは何かを知り、習い事で世代間の感覚を知った気がしました。社会との交流は、学校では限界があります。むしろ、学校外での活動を世代に関係なく実践する方がいいように思います。
確かに、年齢や経験による、因習、しごき、いじめ、価値観など、個人的な依怙贔屓(えこひいき)、組織内特有の犯罪などの憂いはあります。しかし、世代間の接点を作ることができます。これは、若者だけでなく、高齢者についても利点と言えます。会ってみて、話してみて、一緒に行動しなければわからないはずです。
スポーツだけでなく、文化活動、ビジネスなどあらゆることにかかわることでしょう。当然、企業や個人の秘密は守らなければなりません。しかし、共通するものをテーマに、学び、感じ取り、自分の感覚をより現実に即したものにできるはずです。
このように考えると、今の学校は、教育のデパートのようで、何でも手を出しすぎです。読み書きソロバンに集中する方がいいように思います。生徒が何か目的を持ったら、自分でそのようなコミュニティに参加すればよいのです。その方が、質が高く、より現実的です。
このように考えると、受験勉強は役に立たないかもしれません。なぜなら、現実に即していないからです。点数をとっても、現実にできなければ、人に感謝されることは少ないからです。
自己実現には主体性が必要です。主体性を持ち続けるには、自分の感覚と現実を合わせた方が効果的です。もしこれに、何らかのコミュニティが必要だとしたら、その仕組みを作る必要があります。
このような仕組みは、生徒、転職や起業する人だけでなく、多くの人の主体性を刺激するはずです。
勝手なことを書きました。人が自分の思いをかなえるための十分な行動ができ、人々の中で生かされ充実感を得られる、そんな社会ができればいいなと思いました。以上は、想像に過ぎませんが、多くの人が生きがいを持って人生を送れる社会になればいいですね。
この書物を選んだ理由
キャリアという言葉をよく聞きますが、意味のわからないことがあります。それを知るために読むことにしました。
私の読み方
丁寧な言葉遣いが印象に残りました。
著者自身がキャリア教育を自らに実践されているからなのでしょうか。それとも、自らの信念に基づいて、仕事をしているからなのでしょうか。
想像するに。行く先々で、教師から「現場を知らないからそんなことが言えるんだ」とか、同僚からは「いちいち聞いていたら、仕事が進みませんよ」とか、いろいろと言われたんでしょうね。しかも、マイナーな学問であれば、肩身が狭いのはなおさらです。きっと、現場と行政の板挟みに苦しまれたのではないかとお察しします。
わかりやすかったのは、キャリア教育を、法律や通達に基づいて解説していることです。その方針に従って、国家のキャリア教育が考えられているのがわかりました。
しかし、その一方で、著者が思う自由な考えを知りたいとも思いました。法律などの枠組みを外した理想的なキャリア教育の考えです。本書は基礎論なので仕方がないかとも思いました。少し残念に感じました。
章はじめの言葉、コラムは、キャリア教育とは何かについて、ヒントを与えてくれており、参考になりました。しかし、私の場合、本文より、「コラム」や「おわりに」が、心に響くものがありました。
さて、本書には、読書に関するところがありました。日本の生徒は国際的にみて、本を読まないのですね。おそらく生徒は、本を読まなければならない理由がわからないはずです。私ごとですが、納得のいく説明を聞いたことがありません。大切なのは、必要な時に十分に本を読めるかとどうかです。
形式です。
文字は小さめに感じました。行の長さ、行間、上下左右と見開きページ中央の余白は適当で文字が見やすかったです。図や表、写真などが多くあり、わかりやすかったです。索引は数回使いました。注は結構な数でした。そのたびに、章末を繰るのが手間でした。できれば、注のあるページの左側か下に内容があると、読みやすいと思いました。
最後です。本書にMr.Childrenさんの『彩り』が取り上げられていました。早速、YouTubeで聞きました。よく言い表した歌詞だなと感じました。これで思い出したのが、テレビドラマ『殴る女』です。ドラマのストーリー自体が、キャリア教育のテーマのように感じます。そして、主題歌は、Mr.Childrenさんの『終わりなき旅』です。私の場合、この曲を聞くと、「しようがないな。でも、やるか」という気持ちになります。
読書所要時間など
- 所要時間
- 18日6時間39分
- 読み始め
- 2016(平成28)年11月11日(金)17時00分~
- 読み終わり
- 2016(平成28)年11月29日(火)~23時39分
- 読んだ範囲
- 索引は必要な時に使い、奥付は軽く目を通し、巻末の書籍広告は見ていません。それ以外を読みました。
取り上げられた書物など
- 『現代カリキュラム研究』 山口満氏編著
- 『新版 キャリアの心理学』 渡辺三枝子氏著
- 『キャリアカウンセリング』 宮城まり子氏著
これ以外にも、多くの書籍の記載がありました。
出来事
11月22日(火) 福島県沖の地震で津波が発生。仙台港では1.4メートル。
11月25日(金) キューバ革命の最高司令官フィデル・カストロ氏死去。
調べたこと
- 1 キャリア(career)
- 本書に説明がありますが、「career」と「carrier(キャリアー)」を区別する。
- 2 教育(きょういく)
- 参考:書籍『心理学』(株式会社有斐閣さん)無藤隆氏・森敏昭氏・遠藤由美氏・玉瀬耕治氏共著の第一章「心理学とは何か」の中のSECTION2「知の成立という面から心理学の枠組みを知る」は参考になります。
- 3 基礎(きそ)
- 4 論(ろん)
- 5 無論(むろん)
- 6 青天の霹靂(せいてんのへきれき)
- 7 紙幅(しふく)
- 8 鼻に付く(はなにつく)
- 9 所収(しょしゅう)
- 10 アドミニストレーション(administration)
- 運営、経営。行政的な統治の絡んだ運営のことか。参考:「マネジメント(management)」は、運用、操縦、処理。文脈から、アドミニストレーションは全体の統制を図るもの、で、マネジメントは現場での現実の対処、のようです。
- 11 親学問
- 文脈から察するに、枝分かれしたものの元となる学問のようです。読み方は「おやがくもん」でいいのでしょうか。辞書、インターネットで調べましたが、意味も含めてわかりませんでした。
- 12 インクルーシブ(inclusive)
- 全てを含んだ。パソコンで言うところの「オール・イン・ワン(all-in-one)」のワンに当たる感じでしょうか。参考:「インクルージョン(inclusion)」包括、包摂。
- 13 逡巡(しゅんじゅん)
- 14 伏し目(ふしめ)
- 15 ・・・がち(・・・勝ち)
- 16 紀要(きよう)
- 17 コーホート(cohort)
- コホート。
- 18 プリミティブ(primitive)
- 19 睨む(にらむ)
- 20 バックボーン(backbone)
- 21 ターム(term)
- 専門語、用語。
- 22 ロール(role)
- 役割。参考:「ロール・プレーイング・ゲーム(role-playing-game)。
- 23 矮小(わいしょう)
- 24 ・・・化(・・・か)
- ・・・のように変わる、変えるという感じでしょうか。調べましたが、よくわかりませんでした。
- 25 パターナリズム(paternalism)
- 父親的温情主義。弱い立場の者に干渉すること。
- 26 毛頭(もうとう)・・・否定語
- 27 目眩(めまい)
- 眩暈(めまい)。
- 28 峻別(しゅんべつ)
- 29 詭弁(きべん)
- 30 射幸心(しゃこうしん)
- 射倖心(しゃこうしん)。
- 31 狭隘(きょうあい)
- 32 真逆(まぎゃく)
- 正反対のこと。読んだもの既出。
- 33 直截(ちょくせつ)
- 34 惹起(じゃっき)
- 35 杞憂(きゆう)
- 36 インターンシップ(internship)
- 37 論う(あげつらう)
- 38 生花(せいか)
- 39 萌葱色(もえぎいろ)
- インターネットで色を確認しました。
- 40 下世話(げせわ)
- 41 みみっちい
- 42 provide
- 供給する。
- 43 various
- いろいろの。
- 44 simultaneous
- 同時に起こる。
- 45 sequential
- 続いて起こる。
- 46 constitute
- 構成する。
- 47 隔靴掻痒(かっかそうよう)
- 48 抄出(しょうしゅつ)
- 49 歪み(ひずみ、ゆがみ)
- 50 全人(ぜんじん)
- 51 大上段(だいじょうだん)
- 52 金科玉条(きんかぎょくじょう)
- 53 メディアリテラシー(media literacy)
- 54 枠外(わくがい)
- 55 今日(こんにち)
- この頃のこと。
- 56 特化(とっか)
- 57 嚮導(きょうどう)
- 58 新機軸(しんきじく)
- 59 心機一転(しんきいってん)
- 60 蛇足(だそく)
- 61 ・・・気味(・・・ぎみ)
- 62 拮抗(きっこう)
- 63 下(もと)
- 64 契機(けいき)
- 65 勿体無い(もったいない)
- 66 勘所(かんどころ)
- 67 仰る(おっしゃる)
- 68 曲者(くせもの)
- 69 陳腐(ちんぷ)
- 70 俟つ(まつ)
- 頼りとすること。
- 71 生起(せいき)
- 72 OECD(Organization for Economic Co-operation and Development)
- 経済協力開発機構。
- 73 凌駕(りょうが)
- 陵駕(りょうが)。
- 74 苦役(くえき)
- 75 剥落(はくらく)
- 76 他山の石(たざんのいし)
- 77 二の舞(にのまい)
- 78 要諦(ようてい)
- 79 恙無い(つつがない)
- 80 巧拙(こうせつ)
- 81 ノルマ(norma)
- ロシア語。
- 82 形骸化(けいがいか)
- 83 一途(いっと)
- 84 歯痒い(はがゆい)
- 85 収斂(しゅうれん)
- 86 同調圧力(どうちょうあつりょく)
- インターネットで調べました。
- 87 花卉(かき)
- 88 めぼしい
- 89 顰蹙を買う(ひんしゅくをかう)
- 90 年甲斐もない(としがいもない)
- 91 貶める(おとしめる)
- 92 冥利(みょうり)
- 93 冥利に尽きる(みょうりにつきる)
- 参考:「冥加に尽きる(みょうがにつきる)」。
- 94 至福(しふく)
- 95 即する(そくする)
- 96 compulsory
- 義務的な。
- 97 voluntary
- 志願の、自発的な。
- 98 improvement
- 改善、進歩。
- 99 beat up
- 打ちのめす。
- 100 ポートフォリオ(portfolio)
- 101 天寿(てんじゅ)
- 102 全うする(まっとうする)
- 103 薫り(かおり)
- 香り(かおり)。
- 104 素案(そあん)
- 105 自由闊達(じゆうかったつ)
- 106 自明の理(じめいのり)
- 107 度外視(どがいし)
- 108 オリエンテーション(orientation)
- 109 論より証拠(ろんよりしょうこ)
- 110 目配り(めくばり)
- 111 ロジスティック回帰(Logistic regression)
- インターネットで調べました。調べたのですが、理解できませんでした。
- 112 畏まる(かしこまる)
- 113 アンチテーゼ(antithesis)
- 114 端緒(たんしょ、たんちょ)
- 115 離学
- 「りがく」と読むのでしょうか。学校には在籍しているが、授業・講義に参加しないことを言うのでしょうか。退学との意味の違いがわかりません。調べましたがよくわかりませんでした。業界語のようです。
- 116 ニート
- NEET(not in education,employment or training)。
- 117 無業(むぎょう)
- 118 ジョブカフェ
- 若者が対象の就職支援施設。中高年が対象のは「ジョブサロン」と言うそうです。
- 119 十全(じゅうぜん)
- 120 特筆(とくひつ)
- 121 アウトリーチ(outreach)
- 原義は、手をさしのべること。福祉では、専門家が出張サービスを行うことのようです。
- 122 空隙(くうげき)
- 123 具に(つぶさに)
- 悉に(つぶさに)、備に(つぶさに)。
- 124 八面六臂(はちめんろっぴ)
- 125 吃音(きつおん)
- 126 一足飛び(いっそくとび)
- 127 アントレプレナー(entrepreneur)
- 128 glance
- ひと目。ちらりと見る。
- 129 付言(ふげん)
- 附言(ふげん)。
- 130 バーンアウト(burnout)
- 燃え尽き症候群。
- 131 棚牡丹(たなぼた)
- 棚から牡丹餅(たなからぼたもち)の略。
- 132 頷く(うなずく)
- 133 唾棄(だき)
- 134 コンテクスト(context)
- 文脈。
- 135 微塵(みじん、びじん)
- 136 忌憚(きたん)
以下余白