『生きがいについて』
※ 神谷美恵子著作集1
- 副題など
- 帯には「『なぜ私でなく、あなたが?』病める者に寄せる思いと実践のなかから紡ぎ出された言葉」。「心の景色の美しい人」とありました。
また、神谷美恵子著作集のチラシに本書は「生きがいとは何か。生きがいを感じる心、生きがいを求める心、生きがいの対象とはどういうものか。そして、生きがいを奪い去るものは何であろうか。難病がそれであり、愛する者の死もそれである。それらからいかに回復するかが、著者の探求のテーマであり、著者の主著となった。」と紹介してありました。
- 著者など
- 神谷 美恵子(かみや みえこ)氏著
- 出版社など
- 株式会社 みすず書房 さん
- 版刷など
- 1980年6月第1刷。読んだものは、1996年7月第22刷。
- ボリューム
- 288ページ。277ページ以降は「参考文献」。
感じたこと
「親もなし妻なし子なし版木なし、金もなければ死にたくもなし」でしょうか。このように言ったのは、林子平(はやし しへい)氏です。江戸時代の人で、著書が幕府に発売禁止にされ、版木を没収されたそうです。そして、身の自由も奪われたようです。
最近の精神医学は、脳の機能が正常かどうかを中心に研究をしているようです。脳の機能=精神、ということです。
ドーパミン、セロトニン、アドレナリン、ノルアドレナリン、エンドルフィンなどの神経伝達物質は、人間の精神に影響を与えています。これらの物質の分泌の多少を問題としているようです。これは、脳の機能が正常に働いているかどうかとも言えます。必要な物質を適量分泌し、うまく使っているか、ということです。
そして、精神の病気について、薬の開発が進み、かなりの成果があるようです。また、脳に電極を入れて、電流の刺激により、精神の回復を図る治療をしている国もあるようです。
精神の不調は、脳の機能障害という考え方なのでしょうか。精神とは、「脳の神経細胞」と「心の働き」の両方を言っているようです。
現実に、メンタルヘルスを失調した人、または、私自身のことを思い起こすと、薬や何かの行動が、根本的な回復になると思えないことがあります。
薬を飲んでいる人の中には、長い期間服用し続けているか、服用を繰り返しています。薬により、脳の機能が正常になっていると思われる場合でも、メンタルヘルスの不調は続いています。脳の機能の問題ではなく、心の問題が解決できないからと思えるのです。
起こった出来事に、感情や心の問題が発生します。それが脳の機能、例えば分泌物に異常を引き起こしているのかもしれません。同時に、起こった出来事に感情のしこりが残り、不安、恐怖、葛藤などの状態が続くように思います。起こった出来事を現実に対処するか、解決できない場合は、感情のしこりを解(ほぐ)すことができれば気持ちは軽くなるはずです。薬の服用とは別に、起こった出来事への感情のしこりを解(ほぐ)すことも考えたほうがいいように思います。
さて、私がここで言いたかったのは、今の精神医学はあまりにも、脳の機能を中心に語りすぎることです。人が生きるのは、心もあるからです。薬によって脳が正常な状態になっても、心は千差万別のはずです。脳は人によって違い、さまざまな人生を歩むので、同じ心を持てないはずです。
心の問題は複雑です。脳の機能に着目して心の問題を考えた場合、私たちは生きる力を無くすかもしれません。美しさへの感動や、人生への喜びや苦渋など、感情や心を失うかもしれません。全ての人がまったく同じ機能の脳を持つことは、人間がロボットになるように思えます。
人間を生かすものは何でしょうか。いろんなことやものがあります。これらの中から「生きがい」に著者は着目したようです。人を生きる方へ向けるもの、それが生きがいでしょうか。
生きる方向の「・・・甲斐(がい)」を見つけるのは、難しい気がします。どのようにして探すのでしょうか。
大きく重い挫折があっても、乗り越える人がいます。しばしの沈黙があっても、やがて、復活しています。この人たちは、自分の心と向き合って、苦難を乗り越えているようです。その時、あらたな心の働きを得ているようです。それから、彼らは活発に動き始めます。当然、生きがいに巡り遭うチャンスも増えることでしょう。
ロボットは記憶を消去でき、気持ちの切り替えが、すぐにできるはずです。というよりは、記憶に心の問題を発生させないといった方がいいかもしれません。人は、記憶と心の問題が同時並行に動いています。感情を揺さぶる出来事に対して、心で対応するようにできているのが人なのです。
ですから、人が根本的に感情のもつれを和らげる方法として、心の問題を扱うことは意味があるはずです。
ところで、何もかも失った林子平氏ですが、「死にたくもなし」と言っています。彼を生かしたものは、何だったのでしょうか。幕政への憂い、自身の論の正しさを主張するため、自らの論がぞんざいに扱われることへの怒り、身分制度への諦(あきら)めなど、いろいろ考えられます。もしかすると、自らが生きることで、自分や自身の主張を示そうとしたのでしょうか。それは、「生きることが、生きがい」だったことになります。
この書物を選んだ理由
20年ほど前に買っていた積ん読です。
当時、買うかどうか迷いに迷った記憶があります。書店で本書の冒頭部分を読んだだけで、「???」でした。しかし、私の記憶では、この本は、長い間書店の棚にありました。どうして、こんな堅そうな本がずっと棚にあるのかが不思議でした。その後、何かと、著者とその書籍が取り上げられていました。そして、読めるかどうかわからないけど、買う決心をしました。もしかすると、書籍が絶版になるかもしれないからです。
そして、今年8月初旬に大型書店へ行くと、棚に本書がありました。私の現在の読書能力では、読むのはまだ早い気がしました。思う本がなかなか見当たらず、手元にある本書を読む覚悟をしました。
私の読み方
やはり、私が読むには、まだ早かったかなという感じでした。専門用語のこともありますが、1文が長いうえに心の問題を扱っており、読みづらくてわかりにくかったです。
哲学や心理学の知識を身につけてから読んだ方がよかったかもしれません。
本書の特徴は、現象、観察、引用、自身の考え、その適用を順に書いていることでしょうか。自身の考えを適用するところまで書いているのはめずらしいと思いました。
本書には自然との融合が書かれていました。人がいるのは自然なことです。それに気づくことが、生きることをゆるし、生かされていることを感じるようです。
神仏を感じる霊性というものがあります。しかし、この自然の中に人が在(あ)る感覚は、1つの霊性ではないかと思いました。宇宙的霊性というか、万人に共通の霊性と言えそうなものです。
私たちは、日頃、この霊性に気づかず生活しています。人の心は、「目の前の仕事を片付ける」ことと、「人の存在としての霊性」が同時に働いているようです。生産活動の現場で、この霊性を意図的に活性させているところはないようです。簡単にいうと、「人が自然に在(あ)る」ことを認めることです。これがあると、自律的で創造的な仕事の進め方に変わる気がします。
本書と関連を感じる書籍として、『最高の職場』と『日本的霊性』を思い出しました。本書は現実を見つめています。そして、理屈ではなく、人の感情に素直です。学究的な法則の発見ではなく、心の問題に苦しむ人をいかに助けるのかを目的としています。心の問題でわかりづらく学術書のように感じますが、現実に対応できる実用書です。読むだけでも効果があると思います。
組織に適用すれば、雰囲気は変わることでしょう。構成員各人が活き活きとし、組織が有機的に動くことも夢ではないかもしれません。どのように本書の考えを使うかは組織によるでしょうが、少なくとも「お前の代わりはいくらでもいる」という言葉はなくなると思います。
本書には多くの書籍が紹介されています。著者がこんなに多くの本を読んだのかと思うと、あらためて精神科医が読書家であると感じます。
本書を読む上で、V・E・フランクル(Viktor Emil Frankl)氏著の『夜と霧』『それでも人生にイエスという』の書籍は、読みを助けてくれるのではと思いました。この書籍を20年ほど前に読みましたが、多くの時間と労力を使いました。にもかかわらず、著者の精神医学に関する内容を理解できませんでした。これを書いているときに、あらためてこの2冊を開いてみましたが、やはり精神医学の内容は理解できませんでした。精神科医の観察眼により、人の気持ちの移り変わりがわかる記述をしています。この気持ちの移り変わりを知ることが、本書の理解に役立つと思いました。
神秘体験を一度もしたことがない人にとっては、ウソや迷信に思うかもしれません。しかし、『夜と霧』にも、女優のイングリッド・バーグマン氏も、神秘体験と思われることを語っています。光や経験したことのない感覚を感じる人はいます。臨死体験をした人の中には、花畑にいたり、強い光を感じたという話を聞いたことがあります。生存、生命などの様式(生命維持の方法のような。たとえば、国家で言えば革命、コペルニクス的転回など。)が変わるとき、脳の神経回路の組み替えが行われるのかもしれません。それが短い時間で一気に組み替えが行われるので、力動とエネルギーに強い光を感じるのかもしれません。たいていの人は徐々に組み直されるため、それを感じにくいのかもしれません。
形式です。文字は小さめ。1行の長さ、行の間隔は適当です。
索引があれば、便利だと思いました。本書は何回も開くだろうと思います。必要なところをすぐに見つけられるからです。
専門用語は簡単な解説があると、読みを助けてくれると思います。
読んだ順番です。目次、はじめに、おわりに、本文、おわりに、の順です。「はじめに」と「おわりに」をはじめに読んでよかったと思いました。著者の思いを感じます。
一通り読んだ後、読書記録をつけるために、何度も本書を開きました。そのため、多くの時間がかかりました。
精神科医である著者は、精神の治療に「生きがい」を導入しようとしたようです。患者にとって必要と思われる内容の取り扱いに、著者の強い思いを感じます。
今からも、人生への疑問、メンタルヘルスの異常を感じるでしょう。そんなとき、私はこの本を再度読むと思います。
読書所要時間など
- 所要時間
- 16日7時間5分
- 読み始め
- 2016(平成28)年8月12日(金)17時45分~
- 読み終わり
- 2016(平成28)年8月29日(月)~午前0時50分
- 読んだ範囲
- 帯、カバー。本書のすべて。ただし、奥付、引用文献は軽く目を通し、巻末の書籍広告は見ていません。また、著者の著作集のチラシは、本書該当部分のみ読みました。
取り上げられた書物など
- 『エミール』 ルソー氏著
- 『失楽園』 ミルトン氏著
- 『夜間飛行』 サン=テクジュペリ氏著
※ その他、本文、引用文献に多くの書籍の掲載があります。
出来事
8月21日(日) 第31回夏季オリンピック競技会リオデジャネイロ大会が閉会。
8月22日(月) 台風9号が関東に上陸。
ひととき
移動中に撮ったひまわりです。鳥も蝶もどこかに行ってしまいました。ひまわりだけが、強い日差しに負けず、元気よく咲いていました。
平成28年8月9日(火)撮影。
調べたこと
- 1 生き甲斐(いきがい)
- 2 ニヒル(nihil)
- ラテン語。
- 3 狂奔(きょうほん)
- 4 幾人(いくたり)
- 5 逝く(ゆく)
- 本書では「逝いた」とありました。インターネットでも調べました。
- 6 紆余曲折(うよきょくせつ)
- 7 観照(かんしょう)
- 8 窒息(ちっそく)
- 9 態勢(たいせい)
- 参考:「体制(たいせい)」「体勢(たいせい)」「大勢(たいせい)」。「大勢」は、「たいせい」と「たいぜい」に注意。
- 10 暗中模索(あんちゅうもさく)
- 11 師友(しゆう)
- 12 試金石(しきんせき)
- 13 塞く(せく)
- 堰く(せく)。参考:「急く(せく)」。
- 14 筆を折る(ふでをおる)
- 15 勢い込む(いきおいこむ)
- 16 捨て子(すてご)
- 棄て児(すてご)、棄て子(すてご)。本書では「捨児」。インターネットでも調べました。
- 17 免囚(めんしゅう)
- 18 結語(けつご)
- 19 悖る(もとる)
- 20 召命(しょうめい)
- 21 手すさび(てすさび)
- 22 片鱗を示す(へんりんをしめす)
- 23 泥沼(どろぬま)
- 24 のたうち回る(のたうちまわる)
- 25 審美(しんび)
- 26 潜める(ひそめる)
- 27 小使(こづかい)
- 28 廿(にじゅう)
- 29 陳腐(ちんぷ)
- 30 習俗(しゅうぞく)
- 31 清冽(せいれつ)
- 32 エピクテトス
- 哲学者の名前。
- 33 末梢的(まっしょうてき)
- 34 等閑(なおざり)
- 35 沁沁(しみじみ)
- 36 肥後狼(ひごろう)
- インターネットで調べました。
- 37 手抜かり(てぬかり)
- 38 礼(れい)
- 39 符牒(ふちょう)
- 符帳(ふちょう)。
- 40 当を得る(とうをえる)
- 参考:的を射る(まとをいる)。
- 41 吝嗇(りんしょく)
- ケチのこと。
- 42 波瀾万丈(はらんばんじょう)
- 43 悉無律(しつむりつ)
- 全か無かの法則。
- 44 公人(こうじん)
- 対義語は「私人(しじん)」。
- 45 驚天動地(きょうてんどうち)
- 46 想念(そうねん)
- 47 天刑病(てんけいびょう)
- ハンセン病。
- 48 罪障(ざいしょう)
- 49 冷然(れいぜん)
- 50 具象(ぐしょう)
- 51 懊悩(おうのう)
- 52 相(そう)
- 53 完し(まったし)
- 漢和辞典で調べました。
- 54 レプラ
- ハンセン病。
- 55 底没導坑
- 調べましたが、わかりませんでした。
- 56 自暴自棄(じぼうじき)
- 57 立つ瀬(たつせ)
- 58 折折(おりおり)
- 59 工合(ぐあい)
- 具合(ぐあい)。
- 60 内訌(ないこう)
- 61 虚妄(こもう、きょもう)
- 62 性懲りもない(しょうこりもない)
- 63 いとおしむ
- 64 苛責(かしゃく、かせき)
- 漢和辞典で調べました。
- 65 忍従(にんじゅう)
- 66 ・・・すがら
- 67 酒槽(さかぶね、しゅそう)
- 68 昏迷(こんめい)
- 混迷(こんめい)。
- 69 瘢痕(はんこん)
- 70 通有性(つうゆうせい)
- 71 羔(こひつじ)
- 72 切迫(せっぱく)
- 73 デカダンス(decadence)
- 74 決然(けつぜん)
- 75 瀰漫性(びまんせい)
- 弥漫性(びまんせい)。
- 76 居丈高(いたけだか)
- 77 去私(きょし)
- 国語辞典に「去私」はありませんでした。「則天去私(そくてんきょし)」の「去私」のことでしょうか。インターネットで調べました。
- 78 穀潰し(ごくつぶし)
- 79 性急(せいきゅう)
- 80 皮相(ひそう)
- 81 隠退(いんたい)
- 82 クエーカー(Quaker)
- 83 ホスピタリズム(hospitalism)
- 84 先入見(せんにゅうけん)
- 先入観(せんにゅうかん)。
- 85 気兼ね(きがね)
- 86 流離う(さすらう)
- 87 恢復(かいふく)
- 回復(かいふく)。
- 88 沈潜(ちんせん)
- 89 荒涼(こうりょう)
- 90 神秘家(しんぴか)
- インターネットで調べました。
- 91 病臥(びょうが)
- 92 回心(かいしん)
- 93 ディレッタント(dilettante)
- 94 物心(ぶっしん)
- 参考:「物心(ものごころ)」。
- 95 感懐(かんかい)
- 参考:「感慨(かんがい)」。
- 96 巨視的(きょしてき)
- 97 望見(ぼうけん)
- 98 二律背反(にりつはいはん)
- アンチノミー(antinomy)。
- 99 濫費(らんぴ)
- 乱費(らんぴ)。
- 100 天翔る(あまがける)
- 101 終(つい、おわり、しまい)
- 102 匡正(きょうせい)
- 103 出家(しゅっけ)
- 104 隠遁(いんとん)
- 105 参与(さんよ)
- 106 消息(しょうそく)
- 107 来し方(きしかた)
- 108 一息(いっそく、ひといき)
- 109 快味(かいみ)
- 110 認める(したためる)
- 111 ポイエシス
- インターネットで調べました。
- 112 我執(がしゅう)
- 113 どぎつい
- 114 夥しい(おびただしい)
- 115 慄き(おののき)
- 漢和辞典で調べました。参考:「戦く(おののく)」。
- 116 例証(れいしょう)
- 117 たどたどしい
- 118 火取虫(ひとりむし)
- 119 風趣(ふうしゅ)
- 120 超脱(ちょうだつ)
- 121 風物(ふうぶつ)
- 122 刺(とげ)
- 棘(とげ)。
- 123 大道(だいどう、たいどう)
- 124 カニューレ(Kanüle)
- ドイツ語。
- 125 法悦(ほうえつ)
- 126 あはい
- 本書では「あはいの戦慄が・・・」。調べましたがわかりませんでした。「淡い」を昔は「淡し(あはし)」と記していたようです。しかし、意味が通るようなそうでないような・・・。
- 127 幽玄(ゆうげん)
- 128 枯淡(こたん)
- 129 血みどろ(ちみどろ)
- 130 洗い浚い(あらいざらい)
- 131 求道(ぐどう、きゅうどう)
- 132 狩人(かりうど、かりゅうど)
- 猟人(かりうど、かりゅうど)。
- 133 見性(けんしょう)
- 禅の言葉。
- 134 三昧(さんまい、ざんまい)
- 135 極言(きょくげん)
- 136 大同小異(だいどうしょうい)
- 137 凱歌(がいか)
- 138 唐突(とうとつ)
- 139 電光石火(でんこうせっか)
- 140 凝結(ぎょうけつ)
- 141 錯愕(さくがく)
- 142 驚喜(きょうき)
- 143 衷(ちゅう)
- 「うち」「まこと」「奥」などの意味。
- 144 泥む(なずむ)
- 145 目を見張る(めをみはる)
- 146 如実(にょじつ)
- 147 蝶番(ちょうつがい)
- 148 大死一番(たいしいちばん)
- 仏教語。
- 149 落ち目(おちめ)
- 150 肉親(にくしん)
- 151 盲(めしい)
- 152 洒脱(しゃだつ)
- 153 見縊る(みくびる)
- 154 さやぎ
- 155 至高(しこう)
- 156 冒瀆(ぼうとく)
- 157 熱こぶ(ねつこぶ)
- インターネットで調べました。
- 158 呻吟(しんぎん)
以下余白