中国の思想[Ⅵ] 『老子・列子』
- 副題など
- 帯には「五千字の哲学宇宙。」「主体的な生きかたの原理。」「自然と人間への徹底的な観察をもとに、『行為者』としての自分と『批判者』としての自分を統一し、真の主体性確立をめざした『老子』。その流れをくみ、古代寓話の宝庫といわれる『列子』もあわせて収録。」とありました。
- 著者など
- 『老子』 奥平 卓(おくだいら たかし)氏訳
- 『列子』 大村 益夫(おおむら ますお)氏訳
- 松枝茂夫氏・竹内好氏監修。
- 出版社など
- 株式会社徳間書店 さん
- 版刷など
- 1996年5月第3版第1刷。読んだものは、2009年6月第3版第8刷。
- 株式会社徳間書店さんの中国古典シリーズ。『中国の思想』全12巻の6巻目。
- ボリューム
- 280ページ
感じたこと
中国の思想の中でも短いもののようです。わずか5千字ですから、驚きです。読んでいると、般若心経(般若波羅蜜多心経〔はんにゃはらみつたしんぎょう〕)を見ているような感覚でした。
老子の1章は興味深いものがありました。この1章をどのように解釈するかで、その後の理解が変わってくるようです。
物事はいろいろなものがあり、事象は様々に変化しています。人はそれらに名前をつけます。そして、本を作りそれを読み、自分で考え、人と語り合います。
人間の考え方の特徴として、対比することが多くあります。「善」と「悪」というようにです。しかし、これらを言葉として名付けなかったとしたら、人は対比して物事を考えるようになったかは疑問です。これは、「善」と「悪」が必ずしも、正反対の位置関係にあるとはいえない、ことを示しています。名付けてしまったために、対比の関係を作ったのです。現実にあるものではなく、言葉で作ったものを想像しているのです。
「善」と「悪」が、正反対の位置関係にないとすると、それらはどういうことなのでしょうか。「善」には、無限の善がある一方で、限りなく少ない善もあるはずです。何かにとってこの善は、不都合を呼び起こすかもしれません。「悪」も同様に考えられます。「善」は、善として存在しているのです。言葉で知るものではなく、私たちがその実体を感じ取るものです。言葉を言葉として理解するのではなく、指し示す実体を悟ることが必要なのです。
しかし、言葉がなければ、人と会話などして意思の疎通はできません。言葉は指し示すだけで、その実体は自分で感じる以外にないのです。老子はこのことを1章で示したうえで、これ以降、自らの考えを説いています。1章の理解によっては、誤解、曲解を招くということです。
老子は国家、君主、宰相などを対象としているようです。しかし、列子は、庶民のあり方を記述したもののようです。
当時の庶民のすべてが文字を読み、教養を備えていたかというと、疑問です。列子を読むには、それなりの教養が必要です。組織の幹部になったり、国家、君主を論じる立場の人が対象のはずです。国家を支える庶民の感覚がわかるようにこの書が作られた気がします。
国家、君主を論じる思想に対抗するために、庶民の立場で、列子を作ったと思えてなりません。国家、君主のことを聞いても、庶民には、面白くないだろうし、役立つとは思えません。また、聞き慣れた物語、言い伝えを基に、話を作る方が庶民にとってはわかりやすいはずです。その庶民を取り込むための参考本が、列子ではないかと思うのです。
以上は、下衆(げす)の勘繰りですが。
理解するとか、悟るとかは、難しいものですね。
この書物を選んだ理由
株式会社徳間書店さんのシリーズで中国の思想を読んでいます。このたびは6巻目の『老子・列子』です。
私の読み方
第2章に、言葉も変化することが書かれていました。
時代の流れの中で、言葉の意味や使われ方が変化するのは、自然なことだということでしょうか。この翻訳の中で「生々変化をそのまま映すものでなければならないから、・・・」とありました。言葉に、その時の状況、人々の感じ方、があらわれている。これは、今私たちが生きている世の中も同じで、言葉が、変化したり、生まれたり、消えたりしているのです。
このことを考えると、言葉の変化に対して、昔の言葉の意味や使い方が正しいと主張するのは、あまり有意義だとは言えません。相手の発言、記述内容を理解してこそ、ことが次に進むのです。言葉の変化には柔軟に対応する必要があります。
書籍を読んでいて、言葉の使い方や漢字がおかしいと思うことがあります。あきらかに誤植のような間違いがあるのですが、何とも言えない場合があります。本書でいうと「射抜く」です。私は「抜く」のは引っ張るイメージなので、矢を放つ場合は「貫く」の方がしっくり来ます。しかし、「射貫く」を「いつらぬく」と読んだ場合、何か違和感があります。この場合、「射抜く」の方が、読み間違いが少ないというのが理由のようです。
辞書には「射貫く」しかありません。このことを考えると、辞書も絶対とは言えません。時代の変化を取り入れる必要があります。本書とは関係ありませんが、「真逆(まぎゃく)」「やばい」も同じようなものです。
さらに、本が芸術だとすると、いかなる表記も受け入れる、という考えに行き着きます。作者の造語、巷の隠語など、辞書に載っていないから、おかしいというのは本末転倒です。作者のいいたいことをわかるために、聞いたり読んだりしているのですから。
このように考えると、雰囲気、状況、前後の文脈から言葉の意味を考える習慣は、大切です。その後、辞書やインターネットで調べた方がよさそうです。そして、できるなら、その言葉を知っている人に聞くことができれば、ベストです。
今までに読んだ中国の思想と、同じ名前や言葉、物語が出てきます。また、本の形式に慣れてきたこともあり、読みやすくなってきました。
形式は、今までの中国の思想と同じです。
読み方は、視界に見開きページ全体をとらえ、必要な箇所を読んでいく方法です。
老子について、原文、読みくだし文をいくつかの章で読みました。その理由は、訳文を読んで、気持ちがしっくりとこなかったからです。
わずか5千字で著すと、いかなる解釈もできそうです。自分なりの解釈ができるとも、言えます。これは老子が仕掛けたものかもしれません。いかなる時代、人、状況でも、物事の道理の根本、基本原理をわかるようにした、のです。
読んだ順番は、カバー、帯、本書です。本書の最初の部分「・・・あたって」は、今まで読んだ中国の思想と同じですが、飛ばさずに読みました。
読書所要時間など
- 所要時間
- 7日4時間29分
- 読み始め
- 2016(平成28)年5月9日(月)15時22分~
- 読み終わり
- 2016(平成28)年5月16日(月)~19時51分
- 読んだ範囲
- 本文を主に読みました。原文、読みくだし文は、一部を読みました。広告は見ていません。訳者紹介などの奥付は、軽く目を通しました。
取り上げられた書物など
- 『淮南子(えなんじ)』 劉安氏編
- 『国語(こくご)』 著者不詳。
- 『尉繚子(うつりょうし)』 尉繚氏著
- 『漢書(かんじょ)』 班固氏、班昭氏編纂
お知らせ
「中国の思想」で、読んだもの№72、№76、№78、№80、№82において、「版刷など」で誤りがありました。(誤)「全13巻」ではなく、(正)「全12巻」でした。訂正し、お詫びします。
出来事
5月12日(木) 燃費不正の国内自動車メーカーが、他の国内自動車メーカーの資本提携を受け傘下に。
ひととき
「鳥取砂丘こどもの国」で撮影した花です。調べたのですが、名前がわかりませんでした。
※ 5月19日(木)に再度調べたところ、「マツバウンラン(松葉海蘭)」であることがわかりました。
平成28年5月5日(木)撮影。
調べたこと
- 1 通行本(つうこうぼん)
- 2 柔弱(にゅうじゃく、じゅうじゃく)
- 3 謙下(けんげ、本書のルビは『けんか』)
- 4 馳騁(ちてい)
- 5 畋猟(でんりょう)
- 「田猟(でんりょう)」と同じようです。漢和辞典では「畋」も「田」も同じ意味です。例として「畋魚(でんぎょ)」と「田魚」は、同じです。インターネットなどで調べました。
- 6 無窮(むきゅう)
- 7 学統(がくとう)
- 8 後学(こうがく)
- 9 換骨奪胎(かんこつだったい)
- 10 何人(なんぴと、なんびと)
- 11 穿つ(うがつ)
- 12 功用(こうよう)
- 13 首唱(しゅしょう)
- 14 典拠(てんきょ)
- 15 姦しい(かしましい)
- 囂しい(かしましい)。
- 16 詮議(せんぎ)
- 17 韻文(いんぶん)
- 参考:散文(さんぶん)。
- 18 押韻(おういん)
- 参考:韻文(いんぶん)。
- 19 校勘(こうかん)
- 20 淵源(えんげん)
- 21 窮極(きゅうきょく)
- 究極(きゅうきょく)。
- 22 衰微(すいび)
- 23 白眼視(はくがんし)
- 24 開眼(かいげん)
- 悟ること。参考:「開眼(かいがん)」は、目を開けること。
- 25 孤高(ここう)
- 26 嚆矢(こうし)
- 物事のはじまりのこと。
- 27 宏壮(こうそう)
- 広壮(こうそう)。
- 28 僅僅(きんきん)
- わずか。
- 29 極微(きょくび)
- ごくび。
- 30 生起(せいき)
- 31 生生(せいせい)
- 32 愚昧(ぐまい)
- 33 私意(しい)
- 34 無私(むし)
- 35 長久(ちょうきゅう)
- 36 諦念(ていねん)
- 37 知悉(ちしつ)
- 38 不逞(ふてい)
- 39 政治(せいじ)
- 40 迷妄(めいもう)
- 41 愚民(ぐみん)
- 42 かまける
- 43 目する(もくする)
- 44 物活論(ぶっかつろん)
- 45 弁証法(べんしょうほう)
- 46 感応(かんのう)
- 47 相互転化(そうごてんか)
- 48 転化(てんか)
- 49 把捉(はそく)
- 50 眇(びょう)
- 小さい。
- 51 一名(いちみょう、いちめい)
- 別名。
- 52 賢しら(さかしら)
- 53 奥底(おくそこ、おうてい)
- 54 錯簡(さっかん)
- 55 無気味(ぶきみ)
- 不気味(ぶきみ)。
- 56 鳥獣(ちょうじゅう)
- 57 没却(ぼっきゃく)
- 58 慢心(まんしん)
- 59 体する(たいする)
- 60 輻(や)
- インターネットで画像を確認しました。
- 61 轂(こしき)
- インターネットで画像を確認しました。
- 62 本末(ほんまつ)
- 63 汚れ(けがれ)
- 参考:汚れ(よごれ)。
- 64 根元(こんげん)
- 根源(こんげん)、根原(こんげん)。
- 65 みすぼらしい
- 66 大道(だいどう、たいどう)
- 67 のさばる
- 68 徳目(とくもく)
- 69 揺蕩う(たゆたう)
- 猶予う(たゆたう)。
- 70 言挙げ(ことあげ)
- 71 疾風(しっぷう、はやて)
- 72 驟雨(しゅうう)
- 73 妙理(みょうり)
- 74 静謐(せいひつ)
- 75 滅却(めっきゃく)
- 76 至妙(しみょう)
- 77 重出(じゅうしゅつ、ちょうしゅつ)
- 78 勇名(ゆうめい)
- 79 不道(ふどう)
- 参考:無道(ぶとう、ぶどう、むどう)。
- 80 不吉(ふきつ)
- 81 甘露(かんろ)
- 82 掛け構い(かけかまい)
- 83 而も(しかれども)
- 84 止揚(しよう)
- 85 志操堅固(しそうけんご)
- 86 あまつさえ
- 87 而る(しかる)
- 88 帛書(はくしょ)
- 89 正真正銘(しょうしんしょうめい)
- 90 名利(みょうり、めいり)
- 91 稚拙(ちせつ)
- 92 訥弁(とつべん)
- 93 徴発(ちょうはつ)
- 参考:挑発(ちょうはつ)。
- 94 外物(がいぶつ)
- 95 無心(むしん)
- 96 山野(さんや、やまの)
- 97 所以(ゆえん)
- 98 感性(かんせい)
- 99 外界(がいかい)
- 100 坦坦(たんたん)
- 101 米櫃(こめびつ)
- 102 空っぽ(からっぽ)
- 103 修身斉家治国平天下(しゅうしん せいか ちこく へいてんか)
- 104 充満(じゅうまん)
- 105 強壮(きょうそう)
- 106 老衰(ろうすい)
- 107 帰服(きふく)
- 帰伏(きふく)。
- 108 施策(しさく、せさく)
- 109 方正(ほうせい)
- 110 味読(みどく)
- 111 小魚(しょうぎょ、こざかな)
- 112 神霊(しんれい)
- 113 霊験(れいげん、れいけん)
- 114 恩沢(おんたく、おんだく)
- 115 安請合い(やすうけあい)
- 116 元首(げんしゅ)
- 117 高殿(たかどの)
- 118 我執(がしゅう)
- 119 推戴(すいたい)
- 120 灼か(あらたか)
- 121 河海は細流を択ばず(かかいはさいりゅうをえらばず)
- 122 伯仲(はくちゅう)
- 123 帰一(きいつ)
- 124 射抜く(いぬく)
- 射貫く(いぬく)。私の持っている辞書には「射貫く」しかありませんでした。インターネットでは、「貫く」を「つらぬく」と誤読しないように、「抜く(ぬく)」を使うとありました。「貫」と「抜」とでは、ちょっとニュアンスが違うように感じるのですが。「射ぬく」でもよかったのでは、と思ってしまいます。
- 125 愛惜(あいせき、あいじゃく)
- 126 輩(ともがら)
- 儕(ともがら)。
- 127 宗主(そうしゅ)
- 128 背理(はいり)
- 悖理(はいり)。
- 129 小賢しい(こざかしい)
- 130 頭(かしら)
- 131 嘲弄(ちょうろう)
- 132 叙録(じょろく)
- 漢和辞典に載っていました。
- 133 穏当(おんとう)
- 134 躍如(やくじょ)
- 135 不如意(ふにょい)
- 136 朝三暮四(ちょうさんぼし)
- 137 真本
- 調べましたがわかりませんでした。
- 138 エピキュリアン(epicurean)
- 参考:エピクロス。
- 139 軛(くびき)
- 頸木(くびき)。
- 140 もどかしい
- 141 貧相(ひんそう)
- 142 取り越し苦労(とりこしぐろう)
- 143 身上(しんしょう)
- 参考:身上(しんじょう)。
- 144 ざんばら髪(ざんばらがみ)
- さんばら髪(さんばらがみ)。
- 145 黐竿(もちざお)
- 146 魔物(まもの)
- 147 民草(たみくさ)
- 148 統べる(すべる)
- 総べる(すべる)。
- 149 虫がいい(むしがいい)
- 150 道道(みちみち)
- 151 迂闊(うかつ)
- 152 熱り立つ(いきりたつ)
- 153 増し(まし)
- 154 むっと
- 155 とことん
- 156 さらばえる
- さらぼう。
- 157 耄碌(もうろく)
- 158 心許ない(こころもとない)
- 159 糸弓(いとゆみ)
- 160 矰繳(いぐるみ)
- 弋(いぐるみ)。
- 161 下僕(げぼく)
- 162 振り(ふり)
- 風(ふり)。
- 163 物忌み(ものいみ)
- 164 振る(ぶる)
- 165 人徳(じんとく、にんとく)
- 166 才覚(さいかく)
- 167 鼻にかける(はなにかける)
- 168 恃む(たのむ)
- 169 薄紙を剝ぐよう(うすがみをはぐよう)
- 170 本復(ほんぷく)
- 171 悠悠自適(ゆうゆうじてき)
- 172 おどおど
- 173 零落れる(おちぶれる)
- 落魄れる(おちぶれる)。
- 174 齷齪(あくせく)
- 175 羽振りを利かせる(はぶりをきかせる)
- 176 有道(ゆうどう)
- 177 地団駄踏む(じだんだふむ)
- 178 トリビアリズム(trivialism)
- 179 ちょっかい
- 180 会盟(かいめい)
- 181 ぐずくず
- 182 雁(かり、がん)
- 183 並み居る(なみいる)
以下余白