中国の思想[Ⅳ] 『荀子(じゅんし)』
- 副題など
- 帯には「性悪説の原典。」「人間の本性は悪である。」「利益を追い、快楽を求める人間の本性を冷厳にとらえつつ、その後天的能力に信頼を寄せ、あらたな世界像を構築した“異端の儒家”、荀子。中国古代思想の集大成とされる、白熱の論考!」とありました。
- 著者など
- 杉本 達夫(すぎもと たつお)氏訳
- 松枝茂夫氏・竹内好氏監修。
- 出版社など
- 株式会社徳間書店 さん
- 版刷など
- 1996年6月第3版第1刷。読んだものは、2007年6月第3版5刷。
- 株式会社徳間書店さんの中国古典シリーズ。『中国の思想』全12巻の4巻目。
- ボリューム
- 290ページ
感じたこと
荀子といえば、性悪説です。性悪説の悪を人間は生まれつき悪人なのだ、と私は誤解していたようです。善は人助け、悪は犯罪、と思っていたからです。荀子のいう悪とは、人間の欲のことです。辞書では善と悪は対義語ですが、性悪説と性善説は対極にありません。A説、B説といった違いです。そして、行き着くところ、最終的に求めるところは同じなのです。理想の政治、国家を求めています。それをするには、個人の行いが大切だというわけです。
私がある組織にいたときに、グループ討議についての研修を受けたことがありました。組織の幹部の1人が、講師として話をしました。受講者は、現場で働く下っ端です。
経験談の後、終了時刻が押し迫ろうかというとき、幹部講師が、これだけは絶対にやめて欲しい、という話をしました。そして、命令ではなく、お願いとして聴いてほしい、と付け加えました。
会議で、概要説明やアイディアなどをホワイトボードに文字を書くことがある。その時に漢字の書き順の間違いを指摘する者がいる。この漢字の書き順の間違いを指摘する行為をやめて欲しい。話が中断し、話す方も聴く方も思考を中断される。会議で最も大切なのは、議論を高めることで、漢字の書き順を確認することではない。枝葉の部分は個人の問題として、全体の主な目的に全力を集中して欲しい。書き順のことは一例ですが、話の腰を折ることなく、十分な討議をしてください。
ところで、この幹部講師の口ぶりでは、幹部の中にも同じようなことをする人がいるようでした。
本書の中に同じようなことが書かれていました。荀子が活躍したのは紀元前3世紀頃のことです。その頃から今も、揚げ足を取る行為があるのです。
相手の間違いを指摘する行為は、相手よりも自分が優れていることが実感できます。2つのグループが論争する場合、オーディエンス(聴衆)は、内容の可否を考えることなく、揚げ足を取った方の主張が正しいと感じるそうです。このことは、心理学の研究であきらかになっているようです。
熾烈(しれつ)な論戦を勝ち抜いたグループのアイディアが、芳しくない結果に終わる1つの原因かもしれません。
お金などの物欲はわかりやすいですが、生物の本能にかかる欲は自覚しにくいものがあります。生物は、他に勝つことで生き抜いています。本旨とは関係のないところであっても、優越感を持たないと本能が許さないのかもしれません。
先ほどの書き順の話ですが。「じゃ、書き順を見過ごしていいのか?」と自らの正当性を主張する人を私は何人も見てきました。素直に間違いを認め訂正したにもかかわらず、その人をあげつらう人もいました。当然、まともな議論などできません。
目的を果たす ために、本能をコントロールできない以上、ルールを作るしかありません。また、人選が重要であることも理解できます。
これとは逆だったらどうでしょうか。本来の目的のために、参加した者が、惜しみなく知識を出し、知恵をしぼる。発言者の意見をとらえ、さらなる発想を引き出そうとする。参加者全員の発言が目的達成のために役立っていると感じられたら・・・。きっと、参加者全員が有能感を持ち、質の高い結果を出せるように思います。
この質の高い議論ができる組織をつくるヒントをくれるのが『荀子』と言えます。人間の本能を対象にした主張は、現在でも必要な考えです。
この書物を選んだ理由
中国の思想の続きです。株式会社徳間書店さんのシリーズで中国の思想を読んでいます。このたびは4巻目の『荀子』です。
私の読み方
翻訳の力ってすごいですね。
少しだけ、原文、読みくだし文、訳文を読み比べてみました。原文は歯が立たず、読みくだし文はわかったようなわからんような感じでした。訳文は、それを感じさせない自然なものでした。現代社会の環境や抱える問題を絶妙に取り入れています。だからといって、考え方の根幹は揺らいでいません。柱一本を残して、家を建て替えるような感じです。
この翻訳があるから、私がいろいろと感じたり考えたりできるのだと感じました。
少しは中国の思想シリーズに慣れてきたかなという感じです。固有名詞などに付いたルビがなかなか読みづらかったのです。1巻目『韓非子』から3巻目『孟子』の中程まで、ルビのない固有名詞には、鉛筆でルビを付けていました。しかし、3巻目にもなると、同じ人物が出てくるので、ある程度、覚えています。
ルビの付いた漢字の見方です。読み方がわからない場合、ルビを見た途端、次の文字を読み始めてしまいます。これをガマンして、漢字を覚えるようにすると、ルビのない同じ漢字が出てきたときに、読み方を思い出しやすくなりました。わずかばかりの時間はかかりますが、その都度、キチンと覚える方が、後々の読みが楽になりました。それでも、ルビの付いた文字を確認したのは何度もあります。
読み方は、見開きページを全体にとらえ、文字を1つずつ読んでいく方法です。中国の思想シリーズに慣れてきたのか、目が楽な気がします。
読書所要時間など
- 所要時間
- 12日23時間33分
- 読み始め
- 2016(平成28)年3月28日(月)18時09分~
- 読み終わり
- 2016(平成28)年4月10日(日)~17時42分
- 読んだ範囲
- 広告は読んでいません。原文、読みくだし文は、ほんの一部読んでみました。訳者紹介などの奥付は、軽く目を通しました。
取り上げられた書物など
- 『荀子集解』 王先謙氏著
- 『荀子簡釈』 梁啓雄氏著
- 『読荀子』 荻生徂徠氏著
- 『荀子増注』 久保愛氏著
- 『荀子』 金谷治氏著
- 『荀子』 藤井専英氏著
お知らせ
2016年5月14日(土)訂正(アップデート日は別)
「版刷など」で、「全13巻」(誤)を「全12巻」(正)に訂正しました。
出来事
4月7日(木) オリンピック有力候補選手が違法カジノで賭博。
ひととき
前日が大荒れの天気で多くの雨が降りました。日頃は水のない川もこの日は豊かに流れていました。
川の両岸を散歩、ジョギング、家族連れが遊んだりしていました。河口では子供がカニを見せてくれました。
平成28年4月9日(土)撮影。
調べたこと
- 1 性悪説(せいあくせつ)
- 2 原典(げんてん)
- 参考:原点(げんてん)。
- 3 本性(ほんしょう)
- 4 後天的(こうてんてき)
- 5 異端(いたん)
- 6 集大成(しゅうたいせい)
- 7 白熱(はくねつ)
- 8 解題(かいだい)
- 9 精華(せいか)
- 10 大風呂敷を広げる(おおぶろしきをひろげる)
- 11 学理(がくり)
- 12 仕儀(しぎ)
- 13 非業(ひごう)
- 14 巨頭(きょとう)
- 15 教化(きょうか)
- 参考:「きょうけ」「きょうげ」と読めば仏教語。
- 16 狭量(きょうりょう)
- 17 逸楽(いつらく)
- 佚楽(いつらく)。
- 18 鈍(なまくら)
- 19 性情(せいじょう)
- 20 孝子(こうし)
- 21 偶像(ぐうぞう)
- 絶対なものとして崇拝や盲信すること、の意味で使われているようです。別の言い方をすると、疑う余地のない、というような意味で使っているようです。
- 22 荒唐無稽(こうとうむけい)
- 23 無慙(むざん)
- 他に、「無残」「無惨」「無慚」があります。
- 24 粗略(そりゃく)
- 疎略(そりゃく)。
- 25 転業(てんぎょう)
- 参考:「てんごう」と読めば別意。
- 26 基調(きちょう)
- 27 人性(じんせい)
- 28 月並み(つきなみ)
- 月次(つきなみ)。
- 29 干涸らびる(ひからびる)
- 乾涸らびる(ひからびる)。
- 30 生気(せいき)
- 31 千仞(せんじん)
- 千尋(せんじん)。
- 参考:尋(ひろ)。釣りで水深を言うときの単位。1尋(ひとひろ)は、両手を広げた端から端までの長さ。釣りでは、1.5メートルが多いようです。
- 32 とかく
- 33 先覚者(せんかくしゃ)
- 34 金石(きんせき)
- 35 御節介(おせっかい)
- 36 極致(きょくち)
- 37 眼光(がんこう)
- 38 眼光紙背に徹す(がんこうしはいにてっす)
- 39 極彩色(ごくさいしき)
- 40 無欠(むけつ)
- 41 色香(いろか)
- 42 頭目(とうもく)
- 43 発揚(はつよう)
- 44 恩恵(おんけい)
- 45 功名(こうみょう、こうめい)
- 46 すっからかん
- 47 肥る(ふとる)
- 太る(ふとる)。
- 48 然りげ無い(さりげない)
- 49 虎視眈眈(こしたんたん)
- 50 野心(やしん)
- 51 裁断(さいだん)
- 52 復古(ふっこ)
- 53 貢納(こうのう)
- 54 使役(しえき)
- 55 和合(わごう)
- 56 声価(せいか)
- 57 賢能(けんのう)
- 58 形体(けいたい)
- 参考:形態(けいたい)。
- 59 追求(ついきゅう)
- 何かを追い求めること。
- 参考:「追究(ついきゅう)」は、きわめること。「追及(ついきゅう)」は、追いかけること。
- 60 色情(しきじょう)
- 61 窮迫(きゅうはく)
- 参考:急迫(きゅうはく)。
- 62 苛斂誅求(かれんちゅうきゅう)
- 63 貪婪(どんらん)
- 64 無類(むるい)
- 65 路頭に迷う(ろとうにまよう)
- 66 金に糸目をつけない(かねにいとめをつけない)
- 67 結着(けっちゃく)
- 決着(けっちゃく)。
- 68 見切る(みきる)
- 69 下僚(かりょう)
- 70 畠(はたけ)
- 畑(はたけ)。
- 71 勤倹(きんけん)
- 72 分子(ぶんし)
- 73 不逞(ふてい)
- 参考:不逞の輩(ふていのやから)。
- 74 徒(と)
- 75 剽窃(ひょうせつ)
- 76 遮二無二(しゃにむに)
- 77 暑気中り(しょきあたり)
- 78 無闇に(むやみに)
- 79 煩い(うるさい)
- 五月蠅い(うるさい)。
- 80 英明(えいめい)
- 81 治績(ちせき)
- 82 金が唸る(かねがうなる)
- 83 極貧(ごくひん)
- 参考:赤貧(せきひん)。
- 84 条理(じょうり)
- 85 俘虜(ふりょ)
- 参考:捕虜(ほりょ)。
- 86 御する(ぎょする)
- 87 歓心を買う(かんしんをかう)
- 88 幕閣(ばっかく)
- 89 簒す
- うばうこと。
- 90 態(たい)
- 本心でない、見せかけの心のことのようです。
- 91 打てば響く(うてばひびく)
- 92 諂う(へつらう)
- 93 身過ぎ(みすぎ)
- 94 悍馬(かんば)
- 駻馬(かんば)。
- 95 一所懸命(いっしょけんめい)
- 参考:一生懸命(いっしょうけんめい)。
- 96 治乱(ちらん)
- 97 縦(たとい)
- 仮令(たとい)、縦令(たとい)。参考:譬(たとい)、喩(たとい)。
- 98 敬愛(けいあい)
- 99 行賞(こうしょう)
- 100 節義(せつぎ)
- 101 諾諾(だくだく)
- 102 伯仲(はくちゅう)
- 103 見す見す(みすみす)
- 104 布陣(ふじん)
- 105 駐屯(ちゅうとん)
- 106 旱天(かんてん)
- 干天(かんてん)。
- 107 旱天の慈雨(かんてんのじう)
- 108 遠国(えんごく、おんごく)
- 109 兵刃(へいじん)
- 110 兵刃を交える(へいじんをまじえる)。
- 111 野(や、の)
- 112 賺す(すかす)
- 113 身持ち(みもち)
- 114 徒(と)
- 115 摂生(せっせい)
- 参考:養生(ようじょう)。
- 116 災禍(さいか)
- 117 僻み(ひがみ)
- 118 乱行(らんぎょう、らんこう)
- 濫行(らんぎょう、らんこう)。
- 119 埒も無い(らちもない)
- 120 論う(あげつらう)
- 121 立木(たちき、りゅうぼく)
- 「りゅうぼく」と読めば、法律語。「立木(りゅうぼく)に関する法律」。
- 122 漫ろ(そぞろ)
- 123 生国(しょうごく)
- 124 名辞(めいじ)
- 項辞(こうじ)。
- 125 異同(いどう)
- 参考:異動(いどう)。
- 126 セマンティックス(semantics)
- 意味論。言語学用語。
- 127 一掃(いっそう)
- 128 正道(せいどう)
- 129 邪説(じゃせつ)
- 130 謬論(びゅうろん)
- 131 外物(がいぶつ)
- 132 感応(かんのう、かんおう)
- 133 鞍替え(くらがえ)
- 134 撫で斬り(なでぎり)
- 撫で切り(なでぎり)。
- 135 幽玄(ゆうげん)
- 136 独り善がり(ひとりよがり)
- 137 尻馬(しりうま)
- 138 尻馬に乗る(しりうまにのる)
- 139 英傑(えいけつ)
- 140 泰平(たいへい)
- 太平(たいへい)。
- 141 邪(よこしま)
- 横しま(よこしま)。
- 142 奸智(かんち)
- 姦智(かんち)。奸知(かんち)。
- 143 赤誠(せきせい)
- 144 醜状(しゅうじょう)
- 145 踏ん反り返る(ふんぞりかえる)
- 146 蛙の面に水(かえるのつらにみず)
- 参考:蛙の面に小便(かえるのつらにしょうべん)。
- 147 高尚(こうしょう)
- 148 俗物(ぞくぶつ)
- 149 嘯く(うそぶく)
- 150 総捲り(そうまくり)
- 151 軒並み(のきなみ)
- 152 遣っ付ける(やっつける)
- 153 主家(しゅか、しゅけ)
- 154 連枝(れんし)
- 兄弟のこと。
- 155 経綸(けいりん)
- 156 道義(どうぎ)
- 157 面持ち(おももち)
- 158 真価(しんか)
- 159 極致(きょくち)
- 160 天道(てんどう)
- 参考:天道(てんとう)。
- 161 地味(ちみ)
- 参考:地味(じみ)。
- 162 愚(ぐ)
- 163 骨頂(こっちょう)
- 骨張(こっちょう)。
- 164 妨碍(ぼうがい)
- 妨害(ぼうがい)、妨礙(ぼうがい)。
- 165 爪に火をともす(つめにひをともす)
- 166 求道(きゅうどう、ぐどう)
- 「ぐどう」と読めば、仏教語を含みます。
- 167 大言壮語(たいげんそうご)
- 168 笠に着る(かさにきる)
- 169 涵養(かんよう)
- 170 ちっぽけ
- 171 腰砕け(こしくだけ)
- 172 ・・・振る(・・・ぶる)
- 173 志操(しそう)
- 174 志操堅固(しそうけんご)
- 175 尻込み(しりごみ)
- 後込み(しりごみ)。
- 176 隊伍(たいご)
- 177 凱旋(がいせん)
- 178 敬慕(けいぼ)
- 179 逐電(ちくてん、ちくでん)
- 参考:蓄電(ちくでん)。
- 180 憖じ(なまじ)
- 憖じい(なまじい)。
- 181 強弁(きょうべん)
以下余白