中国の思想[Ⅲ] 『孟子』
- 副題など
- 帯には「真の仁義とは何か。」「功利と権謀を排す。」「動乱につぐ動乱の戦国時代、強者が弱者をしいたげ、利欲がせめぎあう現実と真正面から取り組み、あるべき人間、あるべき社会を独創した孟子。「亜聖」という後世の虚像をくつがえす、烈々たる理想主義の全容。」とありました。
- 著者など
- 今里 禎(いまざと ただし)氏訳
- 出版社など
- 株式会社徳間書店 さん
- 版刷など
- 1996年7月第3版第1刷。読んだものは、2009年6月第3版第6刷。
- 株式会社徳間書店さんの中国古典シリーズ。『中国の思想』全12巻の3巻目。松枝茂夫氏・竹内好氏監修。
- ボリューム
- 292ページ(※ 訳文しか読んでいないので、実際のボリュームはかなり少ないと思います。)
感じたこと
「恒産なければ恒心なし」に関連して、ほろ苦い思い出があります。この言葉は、改革を叫んだ某元首相が使った言葉です。
この言葉を知っているかと、知人から訊(き)かれて、私はわかりませんでした。しかし、「知らない」と答えると面白くないので、何か気の利いた冗談にできないか考えました。
「降参なくして更新なし」と適当につくり、意味として「負けは負けとして認めて、気持ちを切り替えて、次に進むこと」と冗談で言ったことがありました。知人からは「そんなことも知らないのか」とまともに返され、こっぴどく非難にされた思い出があります。
しかし、知人に尋ねたところ、ニュースで流れるまで、その言葉を知らなかったとのことでした。遅いか早いかの観点からは、五十歩百歩といったところです。知人は優越感に浸っていたようですが、その後に会話がなくなったのは言うまでもありません。
結局、冗談で創(つく)った言葉を自らが実践する羽目になりました。
私はこの件であることを学びました。
人は他人よりも自分が優れている感覚を味わいたがっている。協同してものを作るより、言い勝つことに重点を置いていることです。
組織では会議をよくしますが、私の経験では、むなしさを感じることがほとんどでした。揚げ足を取ったり、言葉尻をとらえたり、発言者を見下した物言い、過去の失敗事例の列挙など、数知れない可能性のない発言を聞いてきました。ルール、法律などの決まったことは、それほど議論はありません。しかし、何かを変えたり、創(つく)ろうとするときに、この現象は起こります。研修でのグループ討議が職場の縮図と思うことがあります。こういったグループの場合、成果物はなかなか発表しません。というより、成果物ができません。
とりあえず、ルール、常識を無視し、自分たちが「こんなのがいいな」と思えることを出し合い、話し合うと、とりあえず形にはなります。意見が出尽くしたところで、法律、常識などを適用し、不適当な部分を削っていくと、何らかの形になったものが出来上がります。後は、それを実際にするかどうかは、現状を見ながら判断することになります。法律は組織内の人たちの意思では変えられませんが、組織内の自分たちのルールや規則は必要に応じて変えることができます。
発言者の意見を聞く前に、お互いのつぶし合いをしていたのでは、たたき台すらできません。たいていの場合、不毛なことに時間を費やしています。現実の成否は別として、作るものが多い方が、チャンスが増えます。何らかの提案があれば、それを発展、微修正、温存、抜本的改良、廃棄は、自由です。その積み重ねは、ノウハウとなります。
孟子から感じられるのは、論戦に終始していることです。純粋にそのものを見つめている気がしません。他の思想を批判することで、成り立つ考えに感じるのです。他の理論を論破したからといって、それが真理であるとは限りません。それどころか、真理から遠ざかっていく気もします。人間の感覚が、宇宙の法則と一致するとは限りません。
相手の論を破ることばかり考えていては、よりよいものは作れない気がします。ありとあらゆる論を飲み込んで、自らのものと融合させ、まったく新しく強力なものを創(つく)る。そんな、ダイナミックな考え方があってもいいと思うのですが。
どんな人にも、すばらしいところがある、と聞いたことがあります。人が寄れば、すばらしい知恵がでる、とも。しかし、現実の場では、権力や利害関係が絡んで、そのようになることはほとんどありません。
そんな中でも、誰の意見でも最後まで聞く、という態度は、大切な気がします。採用の有無は別として、発言者が自らの存在をその場所に感じるからです。
人に認められていると感じなければ、安心して自分の意見を言えません。意見が言えるようになると、自分の考えを練るようになるでしょう。いいプランを創るには、人の意見を受け入れる必要があります。なぜなら、プランを実行するのは、議論している人たちだからです。
お互いが認め合わなくては、実(み)のある議論はできません。
この書物を選んだ理由
中国の思想の続きです。株式会社徳間書店さんのシリーズで中国の思想を読んでいます。このたびは3巻目の『孟子』です。
私の読み方
本書に「経典も全部は信用しない」がありました。本とは何かという問題を考えさせられます。
何かを言うと、「それは間違っている。○△□の本に書いてあった」という人がいました。この言行を支えるのは、本は絶対に正しい、という考えのようです。
学校で使う教科書は正しいことしか書いていないという人もいました。しかし、歴史では力関係で事実が歪められることがあります。科学では、発見の積み重ねにより、既存の考え方が変わることがあります。本の内容が、すべて正しいとは限らないのです。これが経典でも同じだとすると、本のすべてを正しいと思うのは危険です。
ここで注意したいのは、真実と理解の関係です。内容を理解できなければ、真実かどうか、それを使えるかどうかはわかりません。内容の理解を無視して、本の考えを都合よく採用するなら、それは我田引水です。
本の何が真実なのかを知るのは、難しい問題です。しかし、理解をしたうえで、自らが現実に照らし合わせて判断し採用するなら、真実かどうかは別として、結果的に大きく道を外れることはないだろう、ということです。仮に間違っていたとしても、内容を理解していたのなら、軌道修正ができるはずです。
計画を実現するのに、必ずしも真実を知る必要はないように感じます。逆に、計画どおりになったとしても、真実のすべてがわかるわけでもなさそうです。さらに、真実を知ったからといって、思いどおりになるとは限らない気がします。
このように考えると、1つの本、1つの考え方、1人の人の行動や考え方など、特定の何かを絶対視するのは非現実的です。いろんな分野の本、同じ分野でも違う立場の人が書いたもの、できるならその分野の何かを体験することで、少なくとも現実には対処できるような気がします。
このように考えると、読む本を選ぶのは重要です。そして、何冊かは読むこと。さらに、テレビや雑談などから、情報を得ることも必要だと感じます。1冊の本だけでは、その分野の方向性がわかりません。少なくとも2冊あって、方向性がでてきます。
どうも物事の慣れや習得には、3日、3ヵ月、3年の区切りの時があるようです。また、この区切りは、止める区切りの時でもあるようです。
組織での私の経験では。はじめの3日は、自分にできるかどうか、本当にやりたいことなのかどうか、を判断しています。3ヵ月経つと、ある程度の知識ができて、自分が望んでいたものかどうかわかるようになります。それと同時に、習うだけでなく、それが少しずつできるようになっていきます。3年経つと、習ったことは無意識にするようになり、それ以外のことがわかるようになり、できるようになります。そして、自分の考えを試したくなります。
余談ですが、3ヵ月経ったあたりから、習ったことが自然にできるようになりはじめます。これは、習ったことが意識から無意識化されるようです。私たちが使う言葉「慣れ」てきたということでしょうか。意識から無意識へは、書籍『意識と脳』の中に、それを思わせる記述がありました。
「石の上にも三年」ということわざがあります。習い事をしていた時に、よく聞かされた言葉です。最近、この言葉を間違って解釈し、運用していたのではないかと感じています。それは、どんなことでも、3年ガマンすれば、それなりに身につく、というふうにです。
考えてみると、自分のしたいこと、できると思えることに、3年を費やす方がいいように思います。結果的に、選んだものが予想と違って挫折するかもしれません。ところが、自分の志向にそって考え行動する傾向は、自己実現を実践しています。この傾向を続けると、自分にできることを発見し、それを伸ばし開発し、独自のものを持つ可能性があります。
ただ時間をやり過ごすことと、目標の途中に立ちはだかる障害では、ガマンの質が違います。「石の上にも三年」は、目標の実現に向けてのものであり、そこでのガマンとは途中に出くわす障害を乗り越えることです。3年ガマンしたらいいことがある、わけではありません。これが、今の私の思うところです。
形式などは『韓非子』『戦国策』と同じです。読んだところも、訳文しか読んでいません。
中国の思想シリーズの1冊目は読みがもたついていました。このたびの3冊目になると、だいぶ読み方に慣れてきました。ルビの読み方、訳文以外を読まないこと、にです。
読書所要時間など
- 所要時間
- 12日23間54分
- 読み始め
- 2016(平成28)年3月15日(火)14時28分~
- 読み終わり
- 2016(平成28)年3月27日(日)~14時22分
- 読んだ範囲
- 原文、読みくだし文、広告は読んでいません。訳者紹介などの奥付は、軽く目を通しました。
取り上げられた書物など
- 『孟子注疏』 趙岐注氏、孫奭氏著
- 『四書章句集注』孟子巻1~7 朱熹氏著
- 『孟子定本』 安井息軒氏著
- 『孟子』 武内義雄氏、小林勝人氏訳注
- 『列女伝』 劉向氏著
お知らせ
2016年5月14日(土)訂正(アップデート日は別)
「版刷など」で、「全13巻」(誤)を「全12巻」(正)に訂正しました。
出来事
3月20日(日) アメリカ大統領がキューバを訪問。
3月26日(土) 北海道新幹線が開業。
調べたこと
- 1 功利(こうり)
- 2 権謀(けんぼう)
- 3 利欲(りよく)
- 4 真正面(ましょうめん)
- 5 独創(どくそう)
- 6 亜聖(あせい)
- 7 後世(こうせい)
- 「ごせ」「ごせい」と読めば、別意で仏教語。
- 8 烈烈(れつれつ)
- 9 全容(ぜんよう)
- 10 定本(ていほん)
- 11 治績(ちせき)
- 12 ・・・臭い(・・・くさい)
- 13 官許(かんきょ)
- 14 後代(こうだい)
- 15 末裔(まつえい)
- 16 具象(ぐしょう)
- 17 葬礼(そうれい)
- 18 猛威(もうい)
- 19 祖先神(そせんしん)
- インターネットで調べました。
- 20 社稷(しゃしょく)
- 21 帰服(きふく)
- 帰伏(きふく)。
- 22 精魂(せいこん)
- 23 ユートピア(utopia)
- 24 祖述(そじゅつ)
- 25 反動(はんどう)
- 26 仮託(かたく)
- 27 デマゴギー(demagogy)
- 28 矯める(ためる)
- 29 畢生(ひっせい)
- 30 出色(しゅっしょく)
- 31 喬木(きょうぼく)
- 32 諡(おくりな)
- インターネットで調べました。
- 33 畿内(きない)
- 34 気魄(きはく)
- 気迫(きはく)。
- 35 調役(ちょうえき)
- 36 役(えだち)
- 37 メタファー(metaphor)
- 38 租借(そしゃく)
- 39 縁る(よる)
- 40 挙る(こぞる)
- 41 手向かう(てむかう)
- 42 匹夫の勇(ひっぷのゆう)
- 43 浩然(こうぜん)
- 44 衰う(おとろう)
- 45 泰然自若(たいぜんじじゃく)
- 46 旗頭(はたがしら)
- 47 奉戴(ほうたい)
- 48 威服(いふく)
- 49 大同小異(だいどうしょうい)
- 50 字(あざな)
- 51 卑小(ひしょう)
- 52 魂胆(こんたん)
- 53 打って付け(うってつけ)
- 54 小人(しょうじん)
- 55 病根(びょうこん)
- 56 瞑眩(めんけん、めんげん)
- 57 靴(くつ)
- 沓(くつ)、履(くつ)。
- 58 師事(しじ)
- 59 督励(とくれい)
- 60 誹謗(ひぼう)
- 61 雲泥の差(うんでいのさ)
- 62 公定(こうてい)
- 63 托する(たくする)
- 託する(たくする)。
- 64 禅譲(ぜんじょう)
- 65 推崇
- 調べましたが、わかりませんでした。
- 66 始祖(しそ)
- 67 決潰(けっかい)
- 決壊(けっかい)。
- 68 節操(せっそう)
- 69 規矩(きく)
- 70 自棄っぱち(やけっぱち)
- 焼っぱち(やけっぱち)。
- 71 杓子定規(しゃくしじょうぎ)
- 72 リゴリスティック
- リゴリズム(rigorism)の形容詞の形でしょうか。インターネットでも調べました。
- 73 卑近(ひきん)
- 74 私淑(ししゅく)
- 参考:親炙(しんしゃ)。
- 75 奥儀(おうぎ)
- 奥義(おうぎ)。
- 76 遊興(ゆうきょう)
- 77 立居振舞(たちいふるまい)
- 78 齷齪(あくせく)
- 79 伝食
- 調べましたが、わかりませんでした。
- 80 朝見(ちょうけん)
- 81 恩沢(おんたく)
- 82 出処進退(しゅっしょしんたい)
- 83 のさばる
- 84 意気地無し(いくじなし)
- 意気地は、「いくじ」「いきじ」と読みます。「・・・なし」となる場合、「いくじ」のみの読み方になるようです。「いきじなし」とは言わないようです。
- 85 野(や)
- 86 追い剝ぎ(おいはぎ)
- 87 流亡(りゅうぼう、るぼう)
- 88 悪逆(あくぎゃく)
- 89 理義(りぎ)
- 90 神秘(しんぴ)
- 91 枯淡(こたん)
- 92 手練手管(てれんてくだ)
- 93 恬淡(てんたん)
- 恬澹(てんたん)。
- 94 自得(じとく)
- 95 頑是無い(がんぜない)
- 96 賛嘆(さんたん)
- 讃歎(さんたん)。讃嘆(さんたん)。
- 97 高遠(こうえん)
- 98 討伐(とうばつ)
- 99 常しえ(とこしえ)
- 永久(とこしえ)。
- 100 尊長(そんちょう)
- 101 卑幼
- 調べましたが、わかりませんでした。
以下余白