『心の視力』
原題は『The Mind's Eye』
- 副題など
- 副題は「脳神経科医と失われた知覚の世界」。
- 帯には「見えなくなったとき 言葉をなくしたとき 脳と心、そして想像力は、どう働くのか」とありました。
- 著者など
- オリヴァー・サックス(Oliver Sacks)氏著
- 大田 直子(おおた なおこ)氏訳
- 出版社など
- 株式会社 早川書房 さん
- 版刷など
- 2011年11月初版発行。
- ボリューム
- 294ページ(281ページからの14ページは「参考文献」です。)
感じたこと
「内観」とは、本人の意識を観察・記録する手法を使うものです。それに対する「行動主義」は、内観によらず、客観的に行動を観察分析する手法を使うものです。
昨年の12月初旬から右側の強烈な鼻づまりに往生していました。そのうち、右側の奥歯が痛み出し、右目が膨脹し飛び出す感じがして、顔の右半分がマヒしたようになりました。その後、どうにもガマンできなくなりました。12月中旬に、歯科で診てもらいました。それでも、症状は一時的に治まっても、すぐにぶり返してきました。鼻づまりがさらに強烈になり、頭が重くその日にしたことが思い出しにくくなってきました。年明けに、耳鼻科を受診しました。
今まで行っていた耳鼻科は家から遠いので、家の近くに最近できた医院に行くことにしました。チラシによると最新器機を使うのがセールスポイントのようでした。
行ってみると、まず、問診票の記入を求められました。そこで驚いたのは、症状を書く記述スペースがほとんどありません。症状ごとに番号が振ってあるのです。1鼻づまり、2耳が聞こえにくい、というようにです。最後に、その他で、( )がありましたが、5文字程度のスペースでした。私は、1に○をつけて、受付に手渡しました。
いよいよ受診です。問診はほとんどなく、鼻を掃除した後、最新の内視鏡で鼻腔内を診てもらいました。そして、アレルギーの治療で様子を見ることになり、処方された大量の薬を買って帰りました。その時、鼻づまりは楽になったのですが、顔のマヒした感じはそのままで、2日ほどで元の症状に戻りました。
問診のほとんどない診療をはじめて私は経験しました。しかし、内視鏡、CTスキャンなど器機を駆使し、客観的に症状を把握しようとする行動に感心しました。しかし、病名がわかったわけではなく、結局は医者の主観により治療方針が決定しました。何度が通院しましたが、改善しているという実感はありませんでした。
この時、感じたのは。症状が悪化し病気になっている場合には、器機を駆使した検査は、誤診を防ぎ、効果的な治療ができるだろうこと。しかし、病気の初期症状や併発した場合、病気を確定できず、残りの病気を見逃す可能性があります。また、医師の専門外に原因がある場合、病気の見逃し、無駄な治療もあり得ます。
では既存の問診の多い医療ではどうでしょうか。
不快な症状の状況だけでなく、普段とは変わったことをしたとか、生活状況や身体の癖など世間話に織り交ぜて、問診が進められます。どうも医師は、その時に、病気を判断するだけでなく、患者の心身の性格までも見定めているようです。そして、患部をみて、治療方針を決定しています。いろんな情報から、どの病気なのか的を絞っているようです。
患者である私が感じるのは・・・。
問題の症状については、ちゃんと話を聴いて欲しいと思いました。話を聴いてもらうと、わかってもらえたという気持ちになり、痛みが少しは軽くなったように感じるからです。そして、医師に対して、信頼と、症状を何とかしてもらえるとの希望を持てるのです。
しかし、その一方で、器機による検査は、患者の目で確認できるため、本当に大丈夫なんだという安心感を得られます。※本当に大丈夫かどうか、患者である私にはわかりませんが、その気になります。
不快な症状を一刻も早く解消して欲しい、というのが当座の気持ちです。そして、深刻な病気でないことを確認したいのです。また、治療は、身体に負担が少なく、効果の大きいものを期待します。
私がいつも失望するのは、長い年月を費やして医学を修め、実地にキャリアも経ながら、医師が自分の専門以外は関知しないという態度をとることです。しかも、どこの診療科を受診すればいいのかのアドバイスも拒否する姿勢です。これは「行動主義」の弊害かもしれないと私は思いました。客観的にわかったことでしか診療できない、とか、自分の範囲外は勉強しない、という考え方なのでしょうか。客観的に誰でも正確に診断できるとするなら、薬で治療する病気の場合、医師は不要かもしれません。検査技師と薬剤師で対応できるはずです。
さて、心理学で「内観主義」と「行動主義」のことがあります。これについては、本書でも、『「見る」とはどういうことか』藤田一郎氏著にもありました。
問診を重視するのは「内観主義」、検査を重視するのは「行動主義」のように感じました。病気を診断するには、問診と検査はどちらも重要です。忘れてはならない主眼は、患者の症状を和らげることです。不快な症状が軽くなったとか、無くなったと、患者が実感することです。患者がどう感じるのかが問題なのです。
このように考えると、治療行為は「内観主義」を抜きにしては考えられません。不定愁訴、不治の病、助けようのない状態、終末期医療では、「行動主義」は客観的な事実の記録にとどまる気がします。
私たちは「意識」や「無意識」を駆使して生きていますが、それだけでは説明できないことがあります。ここには「内観主義」の限界があり、「行動主義」に可能性を感じます。「意識」には関係しない、人の能力、性格、状態などが存在するのです。そして、「行動主義」での発見は、病気の治療や、能力開発に役立つかもしれません。
しかし、それを適用した場合、違和感があるようでは困りものです。それを知る方法は「内観」でしかありません。
結局のところ、「内観主義」と「行動主義」の使い方によります。どちらの考え方が優れているかではありません。この2つを超越した新しい考え方が生まれるといいと思います。そして、内観を無視して、私たちの存在はありません。
いくら病気を診断し、病気のメカニズムを解明し、治療したとしても、症状が改善したと実感できなければ、患者を救ったことにはなりません。その苦しみから助けることはできないのです。
ちなみに、私は、市販の漢方薬を服用しています。医院の薬をもらうときに薬剤師に聴いたところ、漢方薬は併用できるのだそうです。そして、漢方薬は、身体全体のバランスを整えて症状を緩和するとも。改善のみられない処方箋の薬は服用をやめ、市販の漢方薬に切り替えました。すると、徐々にですが、症状が改善しています。不定愁訴に、漢方薬は使いやすい薬といえます。病気を特定できないのなら、全身の調子を整えるという考えの方が当を得ています。
この書物を選んだ理由
『目の見えない人は世界をどう見ているのか』のテーマの続きです。テーマの4冊目は、『視覚はよみがえる』の著者スーザン・バリー氏を取り上げた本書を読むことにしました。スーザン・バリー氏本人が感じたことと、医師オリヴァー・サックス氏が彼女をみて感じたことに、何か違いがあるのかを知りたいと思いました。
私の読み方
翻訳本ですが、自然な日本語になっており、読みやすいと思いました。翻訳と言えば、難しい言葉を想像しますが、本書は「のっぺり」「ぽつねん」「へばりつく」などの雑談なので使う言葉を上手に使ってありました。書いてあることをイメージしやすいように感じました。
難しそうな漢字にはルビがあり、読みを助けてくれました。図なども適宜掲載があり、理解を助けてくれました。
文字の大きさ、1行の長さ、行間、見開きページの上下左右と中央の余白は、適当で読みやすいと思いました。
読み方は、見開きページを視覚に捉え、1文字ずつ読んでいく方法です。読んだ順番は、「目次」「はじめに」「訳者あとがき」、本文です。表紙や帯にある副題や能書、「はじめに」、「訳者あとがき」は、本文を読みはじめるのに大切です。スムーズに内容に入れます。
読書所要時間など
- 所要時間
- 13日1時間57分
- 読み始め
- 2016(平成28)年3月7日(月)23時28分~
- 読み終わり
- 2016(平成28)年3月21日(月)~午前1時25分
- 読んだ範囲
- 巻末の書籍広告は見ていません。奥付、参考文献は軽く目を通しました。「注」は、その都度見ました。
取り上げられた書物など
- 『記憶とは何か』 ローゼンフィールド氏著
- 『脳を読む』 スタニスラス・ドゥアンヌ氏著
- 『奇妙な光景 片目で見る技術』 フランク・ブレイディ氏著
- 『人間の能力とその発達を探る』 フランシス・ゴルトン氏著
- 『イメージと現実 ケクレ、コップ、そして科学的想像力』 アラン・ロッケ氏著
- 『数覚とは何か?-心が数を創り、操る仕組み』 スタニスラス・ドゥアンヌ氏著
※ その他多数の書籍の紹介がありました。
出来事
3月14日(月) わが家の金魚が卵をうむ。
3月18日(金) 金魚の卵がかえる。
ひととき
家の近くの公園にいました。ムクドリ(椋鳥)です。
どこにでもいるような鳥ですが、今までなかなか撮影できませんでした。この日は運動不足解消のため自転車に乗っていました。行くときは見かけなかったのですが、帰りにいました。狙っても撮れませんが、出くわしたときにチャンスを物にするほうがよさそうです。カメラはいつも持ち歩きたいものです。
平成28年3月20日(日)撮影。
調べたこと
- 1 知覚(ちかく)
- 2 逸話(いつわ)
- エピソード(episode)。
- 3 上梓(じょうし)
- 4 予断(よだん)
- 5 大全(たいぜん)
- 6 体現(たいげん)
- 7 巧妙(こうみょう)
- 8 初見(しょけん)
- 9 訛(なまり)
- 10 土壇場(どたんば)
- 11 度忘れ(どわすれ)
- 12 即興(そっきょう)
- 13 つり索(つりさく)
- 荷物を吊すひものこと?インターネットで確認しました。
- 14 フラストレーション(frustration)
- 参考:ストレス(stress)との違いは?
- 15 惨憺(さんたん)
- 惨澹(さんたん)。
- 16 ビスコッティ(biscotti)
- イタリアの焼き菓子。インターネットでどんなものか確認しました。
- 17 作話(さくわ)
- 心理学用語。
- 18 シナゴーグ(synagogue)
- 19 臨機応変(りんきおうへん)
- 20 もどかしい
- 21 意味深長(いみしんちょう)
- 22 健忘(けんぼう)
- 23 ぽつねん
- 24 相補(そうほ)
- 25 エレガント(elegant)
- 26 キリル文字
- 27 明晰(めいせき)
- 28 剖検(ぼうけん)
- 29 逆計(ぎゃっけい、ぎゃくけい)
- 77ページ6行目にあります。難しい言葉ですね。文脈から、「計略」が「犯罪」、「逆計」が「捜査」にあたるように感じます。犯罪の計画に対して、それを予測したり対応したりする捜査ということでしょうか。相手の計略への対抗手段を講じることの意味でしょうか。
- インターネットで検索すると、コンピューターゲームに「逆計」の言葉が出ています。本書は翻訳本なので、原語は「countermine」でしょうか。軍事用語のようです。「counter」は、敵対、報復などの意味。「mine」は、地雷や機雷などです。
- 日本語の辞書には、反逆の計画とか、予測する、などとありました。
- 30 曾祖父(そうそふ)
- 31 幻字
- 調べましたがわかりませんでした。本書にそれらしき解説があります。
- 32 ヒストグラム(histogram)
- 33 信憑性(しんぴょうせい)
- 34 選好(せんこう、preference)
- 心理学用語。
- 35 勾配(こうばい)
- 36 結節点(けっせつてん)
- 37 ビューアー(viewer)
- 38 見当識(けんとうしき)
- 心理学用語。
- 39 蓋然性(がいぜんせい)
- 40 ビューマスター
- インターネットで画像を確認しました。
- 41 妙技(みょうぎ)
- 42 クオリア(qualia)
- 本書では「感覚質」。
- 43 鬱蒼(うっそう)
- 44 目眩まし(めくらまし)
- 45 目測(もくそく)
- 46 飯碗(めしわん)
- 飯椀(めしわん)。
- 47 特筆(とくひつ)
- 48 デリ(DELI)
- デリカテッセン(Delicatessen)を略した言い方のようです。お総菜を売る店。インターネットで画像を確認しました。
- 49 残像(ざんぞう)
- 50 偏頭痛(へんずつう)
- 片頭痛(へんずつう)。
- 51 謹厳実直(きんげんじっちょく)
- 52 性癖(せいへき)
- 53 数奇(すうき)
- 54 粒状(りゅうじょう、つぶじょう)
- 55 へばりつく
- 56 綯い交ぜ(ないまぜ)
- 57 引きも切らず(ひきもきらず)
- 58 燻製(くんせい)
- 薫製(くんせい)。
- 59 奇術(きじゅつ)
- 60 ルーン文字(るーんもじ)
- インターネットで画像を確認しました。
- 61 黄斑(おうはん)
- 62 壊死(えし)
- 63 断端(だんたん)
- 医学用語。インターネットで調べました。
- 64 亢進(こうしん)
- 昂進(こうしん)。高進(こうしん)。
- 65 放散虫(ほうさんちゅう)
- インターネットで画像を確認しました。
- 66 恍惚(こうこつ)
- 67 のっぺり
- 68 比類(ひるい)
- 69 黙従(もくじゅう)
- 70 正真正銘(しょうしんしょうめい)
- 71 早晩(そうばん)
- 72 憤慨(ふんがい)
- 73 陰鬱(いんうつ)
- 74 ケーシング(casing)
- 75 光輝(こうき)
- 76 霊妙(れいみょう)
- 77 晴眼(せいがん)
- 78 儚い(はかない)
- 果無い(はかない)。果敢無い(はかない)。
- 79 関の山(せきのやま)
- 80 堪え性(こらえしょう)
- 81 共在(きょうざい)
- 82 継起(けいき)
- 83 保続(ほぞく)
- perseveration。医学用語。インターネットなどで調べました。
- 84 精緻(せいち)
- 85 去来(きょらい)
- 86 首尾一貫(しゅびいっかん)
- 87 流暢(りゅうちょう)
- 88 仰天(ぎょうてん)
以下余白