『「見る」とはどういうことか』
- 副題など
- 「脳と心の関係をさぐる」
- 帯には「見ることも、心のうち?」「ワクワクする面白さ!心にせまる、脳研究の最前線へようこそ。」とありました。
- 著者など
- 藤田 一郎(ふじた いちろう)氏著
- 出版社など
- 株式会社化学同人 さん
- 版刷など
- 第1版第1刷2007年5月。読んだものは、第6刷2014年1月。
- ボリューム
- 220ページ。
感じたこと
一気に読んでしまいました。内容に圧倒されて、何を書いてよいのかわからなくなりました。
さて、本書には、レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』が、「単眼性奥行き情報」が含まれ、片目でも三次元で見られるとありました。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、絵画、デッサン、飛行機の設計図のようなものなどを描いています。その絵は正確なデッサンが基のようです。飛行機の設計図のようなものも何かを観察した結果のようです。実際に存在する、人や動物、物を見て、忠実に紙面に書き写すことができた、と思うのです。彼の目と意識の使い方はどうなっていたのでしょうか。
静止画だけなら、対象物をいろんな角度、光を当てる角度などを工夫して、描くことはできるかも知れません。現に、光と影、奥行きを感じる技法などを使って、すばらしい作品を残しています。
気になるのは、飛行機やヘリコプターのような設計図のような絵です。この絵を見ていると飛行機は鳥に、ヘリコプターに似たものは鳥の飛ぶ原理を応用した物に見えます。この飛行機やヘリコプターの絵は、鳥など空を飛ぶ生き物を観察して得られた結果ではないかと推測します。当時に十分な動力と素材があれば、絵に近い形で空を飛んだだろうと思うからです。
さて、彼はどのように羽ばたく鳥を見ていたのでしょうか。憶測に過ぎませんが、高速度撮影(または、ハイスピード撮影)ができるハイスピードカメラ(または、スーパースローカメラ)で取った映像を再生するかのように見ていたのでしょうか。しかし、彼は生身の人間ですから、現在のカメラのように一度にすべてを記録できたとは考えられません。
私の記憶が間違っていたらゴメンなさい。インターネットで検索しましたが、残念ながら、私の思う画像には至りませんでした。確か、飛んでいる鳥の羽のデッサンがあったように思うのです。それは、前から後ろにうねるように羽が描かれていたと思います。この絵を見たとき、ウソではないかと思いました。あれだけ速く動く羽の動きをつまびらかに見られるはずはない、と。そして、小学校高学年の私は、スズメやヒヨドリなどの羽ばたきを見ましたが、羽がどのような動きをしているのか全然わかりませんでした。
社会人になってから、ハイスピードカメラの映像がテレビで流れるようになりました。そこで見た、飛ぶ鳥の羽の動きは、彼のデッサンと同じだったのです。彼がキチンと観察していたことを知りました。その後、宮本武蔵が飛ぶハエを箸でつまむことや、卓球選手が飛んでくるピンポン球に書かれた文字を読むのを見て、人によっては速い動きに対応した目の動きができると思いました。
それから、機会あるごとに飛ぶ鳥を見て、羽の動きが見えるかどうか、試しました。ほんの一瞬の一点に鳥の羽が止まったように見えたときがありました。それは、確か、ヒヨドリがエサをついばむための一瞬のホバリングの前後の出来事だったと思います。羽がうねっていたのです。ほんの少し動きもありました。それは、ほんの一瞬で、連続で見られるようなものではありませんでした。
もしかすると、一瞬であれば、動いている物が止まって見えるのかもしれません。落ちてゆく物がスローモーションのように見えたり、野球のバッターのボールが止まって見えたという発言が、羽の素早い動きを見られる可能性があることをさらに示しているようです。一瞬でも止まって物が見えるなら、その一つ一つを描いておいて、後でつなぎ合わせれば、一連の動きを再現できます。しかし、これは私の想像に過ぎません。
ところで彼はどのように目を使っていたのでしょうか。ハイスピードカメラのように、一瞬ですべての動きを記憶に留めることができたのでしょうか。「単眼性奥行き情報」を含む絵を描けることから、彼は様々な目の使い方をしていたはずです。それは、動きのあるものについても同じです。彼は、多彩な目の使い方、物の見方をしていたはずです。それとも、彼だけが特別なニューロン(神経細胞)を持っていたのでしょうか。
今の私たちは、文明の利器により、目の使い方が一本調子なのかもしれません。彼らが生きた時代は、目の使い方、物の見え方を工夫するしかなかったことでしょう。そして、彼らが具体的にどのようにしていたのかわかりません。しかし、目の使い方、物の見え方を工夫することで、私たちの観察や洞察する力は向上するかもしれません。
余談ですが。私は今も時々挑戦していますが、飛んでいる鳥の羽の動きを見るのはやはり難しいです。しかしながら、スズメよりは、カラスなどの大きい鳥の方が、羽の動きは見やすいように感じます。
この書物を選んだ理由
『目の見えない人は世界をどう見ているのか』のテーマの続きです。前回は『視覚はよみがえる』でした。この本では、斜視につきものの平面的な見方から、視能訓練により立体視を得た体験と、その神経細胞(ニューロン)について記述がありました。インターネットで検索していたところ、この本を見つけました。副題である「脳と心の関係をさぐる」に引かれてしまいました。
私の読み方
すばらしい本です。ご一読をお勧めします。
研究者の対象と研究についての考えに、魅力を感じました。
特に、通して読んで、「第7章脳、心、脳科学と私」の中の「石仏の心」は、本書の締めとして最高でした。著者の主張をとんちでまとめたようで、味を感じました。
本書の内容は、弊サイトで取り上げた『意識と脳』スタニスラス・ドゥアンヌ氏著、『その〈脳科学〉にご用心』サリー・サテル氏&スコット・O.リリエンフェルド氏共著と関係があります。ニューロンに関しては『意識と脳』が、心の感じ方は『その〈脳科学〉にご用心』に詳しく書かれています。しかし、これらは現在における状況であり、今後どのような発見があるかわかりません。この点は注意が必要です。
さて、形式です。文字の大きさ、行の長さ、行間、余白、図などどれも見やすく感じました。文字は小さめですが、文字間を十分に取っていた気がします。
脳や神経を扱っていますが、本文の説明に合う名称が示された図を提示しているため、どの部分かがわかりやすかったです。もしかすると、『意識と脳』で図に慣れたのかもしれません。脳について、私の理解には怪しい部分があります。
文章の表現、使っている言葉は、わかりやすいものでした。専門用語は解説をしながらの表記なので、内容がわかりやすく調べる手間が省けて、読みの中断が少なかったように感じました。内容を理解することに集中できた感じです。それでも、語られている研究内容は緻密で複雑なものでした。私に理解できたとは思えませんでした。
巻末の「参考文献とウェブサイト」は参考になりました。さらに、索引や、くどくなるかもしれませんが専門用語の解説があれば、便利な本だと思いました。読後も、開く可能性のある本だと感じたからです。
読み方は、見開きページを視界に捉え、1文字ずつ読んでいく弊サイトの方法です。興味があり、面白かったので、次から次へと文字が目に流れていきました。当然わからないところはありますし、そういうところは何回も読み返しています。
読む順番は、カバー、帯、本書「口絵」「まえがき」「目次」「あとがき」本文、その他です。読後には、本文の前に「「参考文献とウェブサイト」に目を通しておけばよかったと感じました。「まえがき」と「あとがき」は、本文を読むうえでの導入と注意点になっているので、はじめに読むと効果的です。
体調がよくないため、横になって、眼鏡を外して読みました。老眼であるせいか、眼鏡を外す方が、広範囲にはっきりと見え、読みやすかったです。しかし、体調不良は厳しくて、雑念が多く、集中できない感じでした。短めに区切って読み、その間、寝返りを打ったり、目を閉じたりしました。そうすると、結構、読めました。問題は、どこまで、いつまで内容を覚えているかですが。
本書は、体調不良と寝ながらの読書に適していました。本の軽さ、柔らかく手触りのよい表紙は、寝返りの際や様々な位置で読んでも、不自由さを感じませんでした。
最後に、口絵の動きのある錯視図の見え方です。読み始めたときは、図に動きがありました。ところが、朝起きて図を見てみると動かないのです。しばらくすると、また、動き始めました。目の使い方で、動き方が微妙に違うような気がしました。
読書所要時間など
- 所要時間
- 3日0時間40分
- 読み始め
- 2016(平成28)年3月3日(木)13時32分~
- 読み終わり
- 2016(平成28)年3月6日(日)~14時12分
- 読んだ範囲
- 巻末の書籍広告は見ていません。著者の紹介のある奥付は、軽く目を通しました。
取り上げられた書物など
- 『禅と生命科学』 盛永宗興氏編
- 『視覚の冒険』 下條信輔氏著
- 『脳と視覚-何をどう見るか』 福田淳氏、佐藤宏道氏共著
その他、多数の本などの紹介がありました。
出来事
3月1日(火) 認知症男性の列車死亡事故で、家族の監督義務を総合的に判断するとし、鉄道会社の敗訴が確定。最高裁判決。
調べたこと
- 1 渉猟(しょうりょう)
- 2 ニューロン(neuron)
- 神経細胞。
- 3 外界(がいかい)
- 4 忽然(こつぜん)
- 5 デモンストレーション(demonstration)
- 6 一夕(いっせき)
- 7 同定(どうてい)
- 8 内観(ないかん)
- 9 正立像(せいりつぞう)
- 対義語は「倒立像(とうりつぞう)」。インターネットで調べました。
- 10 気の毒(きのどく)
- 11 口角(こうかく)
- 12 投函(とうかん)
- 13 ちぐはぐ
- 14 乖離(かいり)
- 15 喝破(かっぱ)
- 16 遮蔽(しゃへい)
- 17 擬人(ぎじん)
- 18 スキーム(scheme)
- 図式。他に、設計、計画、案、概要などの意味があります。よく見かける言葉ですが、意味の区別に注意が必要です。
- 19 クオリア(qualia)
- 本書85ページ5行目あたりに解説があります。
- 20 コミュニティー(community)
- 21 スクリーニング(screening)
- 選別。
- 22 刺入(しにゅう)
- 医学?用語のようてす。インターネットで調べました。
- 23 弁別(べんべつ)
- 24 知見(ちけん)
- 25 早計(そうけい)
- 26 先鋭(せんえい)
- 尖鋭(せんえい)。
- 27 フロンティア(frontier)
- 最前線。
- 28 世迷言(よまいごと)
- 29 大それた(だいそれた)
- 30 領野(りょうや)
- インターネットで調べました。
- 31 布置(ふち)
- 32 そうは問屋が卸さない(そうはとんやがおろさない)
- 33 ストラテジー(strategy)
- 方法、手順。国語辞典には「戦略(せんりゃく)」の掲載が多いようです。英和辞典でも、意味を確認しておいた方がよさそうです。
- 34 紆余曲折(うよきょくせつ)
- 35 テクスチャー(texture)
- 本書の括弧書きに解説があります。
- 36 ポスドク(postdoctoral fellow)
- 37 エキゾチック(exotic)
- 風変わりな。
- 38 耳を欹てる(みみをそばだてる)
- 参考:聞耳を立てる(ききみみをたてる)。
- 39 書割(かきわり)
- 40 プロット(plot)
- 図示する。「筋書き(すじがき)」の意味でよく使われます。英和辞典には、「グラフにする」とか「図で示す」などの意味が載っています。
- 41 森羅万象(しんらばんしょう)
- 42 怪訝(けげん)
- 43 言下(げんか)
- 44 狼狽える(うろたえる)
- 45 夭折(ようせつ)
以下余白