『目の見えない人は世界をどう見ているのか』
- 副題など
- 帯には「『見る』ことそのものを問い直す、新しい身体論」とありました。
- 著者など
- 伊藤 亜紗(いとう あさ)氏著
- 出版社など
- 株式会社光文社 さん 光文社新書
- 版刷など
- 2015年4月初版。読んだものは、2015年6月3刷。
- ボリューム
- 216ページ
感じたこと
中学生の時、国語の先生が、柔道や相撲をする人は、人と上手に接するように感じる、とおっしゃっていたのを思い出しました。
球技などのスポーツは、自己主張の強い人が多いように感じるとも。先生が、生徒を見てそう感じたのか、それとも、本を読んだ内容を生徒に話されたのかはわかりません。
組み合ってするスポーツは、肌と肌を触れあわせ、その感覚で相手の動きを察知するからだろう、ということです。適切な技を掛けて勝つためには、相手の動きを予想する力が必要なのです。相手の感情、考えを読むことが勝負の行方を決めることになります。組み合うスポーツは、これを読む力を比べているとも言えます。
ところで、相撲や柔道は相手のどこを見て、競技をしているのでしょうか。相手を手でつかんでも距離がある場合、できるだけ相手の身体の広い範囲を見ているはずです。相手や自分の技をかわしたり掛けたりするのに必要だからです。お互いの首が交差して組み合った場合、相手を見ることはできません。背中を見ても仕方がありません。そうかといって、相手の背中越しに見える客や景色を見ているわけでもないようです。目をつぶっているわけでもありません。
相撲なら相手の回し、柔道なら衣を手でつかんでいます。お互いの身体や衣が接する部分が少なからずあります。この接した感触で、相手の動きを感じているはずです。手や相手と触れた部分に神経を集中させているのです。
話は変わりますが、自動車の運転中に携帯電話を使わないルールになっています。使うと会話に気を取られて、前方へ注意が向かなくなるからです。この時、目はあいています。
これと同じことが、相撲や柔道の選手に起こっていると考えます。相手に触れた部分に集中しているのです。
相手が見えないにもかかわらず、目をあけて競技をする。相手と触れた部分に神経を集中させるが、外界にある具体的なものを見ているわけでもない。こんな感覚が、目の見えない人の感覚なのかな、と想像してしまいました。あけた目を使わずに、その他の感覚で何かを知ろうとする状況ということです。
この書物を選んだ理由
この本を知ったのは、新聞の書評欄です。売れている本として紹介されていました。
見た瞬間、弊サイトにピッタリな話題の書籍だと感じました。早速、購入しました。
私の読み方
本書で私が注目したのは、「情報」と「意味」です。本書は、目の見えない人の中で論を展開しています。しかし、これは晴眼者についても同じことです。
「『情報』と『意味』」の関係が、読書にも存在します。「情報」というのは、誰もがわかる共通して持つものと言えます。その情報を得て、読者には様々な感想や考え方が生まれます。これが「意味」にあたります。「意味」だとわかりにくいので、私はこれを仮に「感性」とします。
読書でいう「情報」とは、タイトル、著作者、具体的な記述にあたります。誰が見ても聞いても同じものです。「感性」とは、それを読んで、楽しいとか、このようにしたいという読み手によって違うものです。
読書を離れてもこれはあります。たとえば、野球観戦をしたとします。
これが実際に起こったこととして。7回表YOMOチームの攻撃。バッター5番・サトミが3球目をライトスタンドへホームラン。3点が入って、逆転。とします。
スタンドで観戦していた人に質問します。7回表にサトミが打ったホームランはどこに入りましたか? 答えは「ライトスタンド」とか「一塁側の外野観客席」など言い方は違っても内容は同じ情報です。
どんなホームランでしたか? この質問はどうでしょう。「外角低めのカーブを上手く流した技ありのホームランだよ」「ライナーで、スタンドに突き刺さるようなホームランだった」とか「勝負の流れを変えた一発だね」といろいろな答えが返ってきそうです。野球経験者、デザイナー、指導者などいろいろな立場や経験により答えが変わります。目の見えない人なら、「どよめきの大きいホームラン」とか「スタントが揺れるホームラン」という感じ方をするかもしれません。感じ方は人によって違います。これが「感性」です。
読書に求められる1つに、誰もが共通する「情報」を獲得し、自分にしかない「感性」を発展させることがあります。発展させることは、読んだ本を自分なりに書き直しているとも言えます。このことも、読書に限ったものではありません。
試験で出されるのが「情報」です。商品開発や研究に関係するのが「感性」です。開発や創造という面で、「情報」の錯誤や誤解が「感性」の役割を果たすことがあります。本書でいう、自虐的な笑い、でしょうか。そして、「感性」を「情報」と同じように扱うと、価値観の押しつけになります。答えが1つしかない受験社会は、「情報」と「感情」を区別できない人を生むのかもしれません。
読書を向上させる1つに、「情報」の正確な把握、「感情」の発展があり、それは大切なことです。しかし、その前に、これを効率的に習得する方法を考える必要があります。
もう一つ気になったのが、晴眼者は二次元的に、目の見えない人は空間的にものを捉えているということ。
確かに、目の見えない状態では、意識の中心に対象とするものを置かざるを得ません。なぜなら、対象物を眼球で見るという方向性がないからでしょう。頭の中の認識しかないので、空間的に捉えることは理解できます。
晴眼者は、前面かつ表面、上下左右を固定して見ている。平面の二次元的な見方であり認識です。しかし、静止したものと動的なものでは、晴眼者でも見方は変わるように感じます。弊サイトのケーススタディのバッターのボールの見方がそれです。視線を固定しているのに手元に来たボールを打つという、奥行きのある見方をしています。その空間を意識ではなく、無意識で捉えているはずです。
対極に位置づけた「目の見えない」「目の見える」という二分法的なものの見方は、その差異を浮かび上がらせるには優れた方法です。しかし、この方法が果たして、「見る」の本質に迫る適切な方法かどうかはわかりません。「眼球で捉える光り」や「脳で捉えた光りの認識」は、人それぞれだからです。晴眼者にとって、「目の見えない」人の世界は未知の世界です。だからといって、見えることが当たり前の晴眼者が、「目の見える」ことについて、十分な認識を持っているとは限りません。
研究者の中には、空間認識が大切であることを主張する方がいます。しかし、空間認識力が向上する理論や方法は示されていないように思います。しかし、この認識は経験によってなり立つものです。見たり触ったりなど五感によるところが大きいはずです。ものをどのように見るのか、それをどう認識するのかは、私たちの生き方に影響を与えているはずです。
私たちの視界は、平面的なものではありません。幅があり距離があるのです。二次元的なものではなく、奥行きのある空間的なものです。「平面的」から「空間的」なものの見方に変えることによって、新たな認識の可能性があるはずです。
驚いたのは、本書64ページにある神経生物学者のスーザン・バリー氏の経験談です。彼女は目に不都合を抱えていましたが、特殊な訓練により立体視能力を獲得したとありました。その結果得られたものは、すばらしい感覚でした。
晴眼者である私が本を読めなかったは、一字一句に眼球の焦点を合わせて見ていたからです。眼球の力を抜き、全体を視界に捉え、一字一句を見ると本を読めるようになってきています。この体験は、スーザン・バリー氏の体験と似ている気がします。
私の視力や眼球は正常です。しかし、私のように健常者であっても、十分なものの見方をしていない人もいるはずです。
立体視能力を獲得したということは、理論や導く方法が確立されているはずです。スーザン・バリー氏著の『視覚はよみがえる』に興味が湧いてきました。
形式は新書です。わかりやすい表現で読みやすかったです。内容は、著者の実体験があり、また、専門の知識も活用されていたようです。本書の最後の方で、こういう風に構成したのかと、はっと気づかされることがありました。読み終わりまでの期間が長かったのですが、一気に読んだという感覚でした。「見る」と「認識」の相関関係を考えるのに、きっかけをくれる本だと思いました。
読書所要時間など
- 所要時間
- 9日6時間12分
- 読み始め
- 2016(平成28)年2月12日(金)17時08分~
- 読み終わり
- 2016(平成28)年2月21日(日)~23時20分
- 読んだ範囲
- 巻末の書籍広告は見ていません。カバー、帯、著者の紹介のある奥付は軽く目を通しました。
取り上げられた書物など
- 『ゾウの時間ネズミの時間』 本川達雄氏著
- 『動物と人間の世界認識』 日高敏隆氏著
- 『視覚はよみがえる』 スーザン・バリー氏著
調べたこと
- 1 相貌(そうぼう)
- 2 晴眼(せいがん)
- 参考:盲目(もうもく)。
- 3 フォーカス(focus)
- 焦点をあてる、そちらの方に向けるという意味でしょうか。英和辞典と日本で流通している「フォーカスする」は、ちょっと違うような気がするのですが。
- 4 フェーズ(phase)
- フェイズ。状態。段階。
- 5 啓発(けいはつ)
- 6 素敵(すてき)
- 7 リサーチ(research)
- 8 文転(ぶんてん)
- インターネットで調べました。
- 9 怪訝(けげん)
- 10 見目麗しい(みめうるわしい)
- 11 白羽の矢が立つ(しらはのやがたつ)
- 12 不謹慎(ふきんしん)
- 13 好奇(こうき)
- 14 一石を投ずる(いっせきをとうずる)
- 15 遮る(さえぎる)
- 16 石頭(いしあたま)
- 17 吐露(とろ)
- 18 イリュージョン(illusion)
- 19 福祉(ふくし)
- 20 インフラ
- インフラストラクチャー(infrastructure)の略。
- 21 アクセシビリティー(accessibility)
- アクセシビリティ。本書に解説があります。
- 22 情報格差(じょうほうかくさ)
- information gap。時事用語。本書に解説があります。
- 23 包摂(ほうせつ)
- 24 ワークショップ(workshop)
- 25 嗾ける(けしかける)
- 26 劣位(れつい)
- 対義語は「優位(ゆうい)」。
- 27 和気藹藹(わきあいあい)
- 28 逆手(さかて)
- 参考:「逆手(ぎゃくて)」。
- 29 痛快(つうかい)
- 30 シェア(share)
- 31 アンタッチャブル(untouchable)
- 手を触れないこと。
- 32 俯瞰(ふかん)
- 33 シャットアウト(shutout)
- 34 開放的(かいほうてき)
- 35 白杖(はくじょう)
- 36 設える(しつらえる)
- 37 トリガー(trigger)
- 引き金。きっかけ。
- 38 導線(どうせん)
- 39 舞踏譜(ぶとうふ)
- 舞踊譜(ぶようふ)と同じものなのでしょうか。
- 40 縦横無尽(じゅうおうむじん)
- 41 記憶喪失(きおくそうしつ)
- 42 失明(しつめい)
- 43 我武者羅(がむしゃら)
- 44 途絶える(とだえる)
- 跡絶える(とだえる)。
- 45 飢餓(きが)
- 46 頓智(とんち)
- 頓知(とんち)。
- 47 ランドマーク(landmark)
- 48 エントロピー(entropy)
- 49 アウトソーシング(outsourcing)
- 50 着こなし(きこなし)
- 51 真っ新(まっさら)
- 52 デフォルメ(déformer)
- フランス語。
- 53 造詣(ぞうけい)
- 54 ヒエラルキー(hierarchy)
- 55 ファサード(facade)
- 56 いかがわしい
- 57 リバーシブル(reversible)
- 58 スリリング(thrilling)
- 59 モットー(motto)
- 60 杓子定規(しゃくしじょうぎ)
- 61 エンボス(emboss)
- 62 触察
- 「しょくさつ」と読むのでしょうか。インターネットで調べました。解説は本書にあります。
- 63 ディスコミュニケーション(discommunication)
- 情報の伝達ができないこと。
- 64 ボーカロイド(VOCALOID)
- 株式会社ヤマハさんのホームページでどのような製品なのか見させていただきました。
- 65 デモンストレーション(demonstration)
- 66 インターフェース(interface)
- インターフェイス。
- 67 サブ(sub)
- 下位の。
- 68 口を噤む(くちをつぐむ)
- 69 重重(じゅうじゅう)
- 70 墨字(ぼくじ)
- 71 解す(ほぐす)
- 72 底力(そこぢから)
- 73 眼差す(まなざす)
- 74 外界(がいかい)
- 参考:「下界(げかい)」と区別する。
- 75 絨毯(じゅうたん)
- 絨緞(じゅうたん)。カーペット。
- 76 ボルダリング(bouldering)
- boulderは、丸石、玉石のこと。インターネットでどんなものか確認しました。
- 77 オフバランス(off-balance)
- 調べると、会計上の帳簿から外すこととありました。これでは意味が通りません。英訳から考えると。「off」は「ない状態」を表しているので、「off-balance」はバランス(平衡や均衡)を失った状態、という意味でしょうか。そして、on-balanceは平衡や均衡のとれた状態となります。
- 78 面目躍如(めんぼくやくじょ、めんもくやくじょ)
- 79 座頭市(ざとういち)
- 座頭(ざとう)で名前を「市(いち)」。座頭(ざとう)は盲人の意味で使われているようです。『座頭市』は、時代劇のタイトルです。そういえば、『佐武と市捕物控(さぶといちとりものひかえ)』というアニメがありましたね。
- 80 押っ魂消る(おったまげる)
- 81 醍醐味(だいごみ)
- 仏教から来ている言葉のようです。
- 82 格別(かくべつ)
- 83 タイムトライアル(time trial)
- 84 体捌き(たいさばき)
- 柔道における、身体の動かし方。インターネットで調べました。
- 85 表裏一体(ひょうりいったい)
- 86 ドローイング(drawing)
- 87 介助(かいじょ)
- 88 はぐらかす
- 89 ふっと
- 90 ちゃんばら
- 91 シンクロ
- シンクロナイズ(synchronize)。同時に起こること。
- 参考:シンクロニシティ(synchronicity)。心理学者・ユングの言葉。本書では「気」を取り扱っていることもあり、注目したい現象だと思います。
- 92 輪郭(りんかく)
- 輪廓(りんかく)。
- 93 毛色(けいろ)
- 94 コーラー
- 特定非営利活動法人日本ブラインドサッカー協会の公式サイトを閲覧しました。コーラー(ガイド)の立つ位置が図で描かれています。
- 95 炸裂(さくれつ)
- 96 目明き(めあき)
- 97 先触れ(さきぶれ)
- 98 トラップ(trap)
- 参考:ストッピング(stopping)
- 99 面食らう(めんくらう)
- 面喰らう(めんくらう)。
- 100 半信半疑(はんしんはんぎ)
- 101 個展(こてん)
- 個人展覧会の略。
- 102 鑑賞(かんしょう)
- 参考:観賞(かんしょう)を区別する。
- 103 大所帯(おおじょたい)
- 104 主旨(しゅし)
- 105 御洒落(おしゃれ)
- 106 つゆ・・・ず
- 107 トピック(topic)
- 108 直観(ちょっかん)
- 哲学用語。参考:直感(ちょっかん)。
- 109 モチーフ(motif)
- フランス語。
- 110 遅遅(ちち)
- 111 印象派(いんしょうは)
- 112 捨象(しゃしょう)
- 113 御利益(ごりやく)
- 114 処世術(しょせいじゅつ)
- 115 物騒(ぶっそう)
- 116 オルターナティブ(alternative)
- 代わりになるもの。
- 117 的確(てきかく、てっかく)
- 適確。
- 118 変幻自在(へんげんじざい)
- 119 アップデート(update)
- 120 親和性(しんわせい)
- 121 アクティブ・ラーニング(Active learning)
- インターネットで調べました。
- 122 触媒(しょくばい)
- 123 障害(しょうがい)
- 障碍(しょうがい)。
- 124 解放(かいほう)
- 参考:開放(かいほう)。
- 125 ユーモア(humor〔米〕、humour〔英〕)
- 126 独善(どくぜん)
- 127 ラディカル(radical)
- ラジカル。自然科学は「根本的な。基の」を、政治や思想は「急進的。過激な」の意味としてよく使うようです。
- 128 強がり(つよがり)
- 129 ロシアンルーレット(Russian roulette)
- 130 ユーモラス(humorous)
- 131 捏ち上げる(でっちあげる)
- 132 環世界(かんせかい)
- ドイツのヤーコブ・フォン・ユクスキュル氏が提唱したもの。インターネットで調べました。
- 133 幸先(さいさき)
- 134 マゾヒズム(masochism)
- 135 疾しい(やましい)
- 疚しい(やましい)。
- 136 以ての外(もってのほか)
- 137 タブー(taboo、tabu)
- 138 突っ込み(つっこみ)
- 139 ポリティカル・コレクトネス(political correctness)
- インターネットで調べました。
- 140 端緒(たんしょ、たんちょ)
- 141 エンタメ
- 「エンタ」とも。エンターテイメントを短くした言い方。
- 142 感服(かんぷく)
- 143 MC(master of ceremonies)
- 司会。
- 144 端的(たんてき)
以下余白