中国の思想[Ⅰ] 『韓非子』
- 副題など
- 帯には「非常の書。」「冷徹なる人間支配の論理。」「卓越した人間観察と『法術』理論を核に展開される、激烈な政治的論策。その冷徹、非常な論理は秦の始皇帝を感嘆させ、乱世統一の思想的基盤として不滅の光芒を放つ!」とありました。
- 著者など
- 西野 広祥(にしの ひろよし)氏訳
- 市川 宏(いちかわ ひろし)氏訳
- 出版社など
- 株式会社徳間書店 さん
- 版刷など
- 1996年3月第3版第1刷。読んだものは、2009年6月第3版第9刷。
- 株式会社徳間書店さんの中国古典シリーズ。『中国の思想』全12巻の1巻目。 松枝茂夫氏・竹内好氏監修。
- ボリューム
- 290ページ
- (※ 訳文しか読んでいないので、実際のボリュームはかなり少ないと思います。)
感じたこと
法で統治する組織には、申告と成果の一致が求められる、ということでしょうか。
よく話題になる残業問題、組織につきものの残業が頭に浮かびました。
サラリーマンで残業を経験した人は多いはずです。そして、残業の申告は組織によって違うようです。たとえば、係長以上の管理監督職が、社員の働きの質と量を評価して、残業代をつけるかどうか決める。また、社員が、残業の予定を申告し、認められれば実施し、その結果を報告し、それを評価して管理監督職が残業代をつけるかどうか決める。さらに、社員の自主性に任せて、残業を申告させるが、管理監督職がそれを評価し残業代をつけるかどうか判断する。これ以外のやり方をしているところもあると思います。
残業代を出すかどうかで難しいのは、それに見合う仕事をしたのか、というところです。就業時間内に片付けられるものをワザと残したり、家に帰りたくない理由で職場に残る場合に、残業代を申告するケースです。本来払わなくてもよい費用を組織が負担することになります。故意に注目すると、申告者のマナーや詐欺的行為が疑われます。
韓非子の考え方からいうと、申告と成果が一致していればいいことになります。ある仕事をするのに申告をします。その中には、期限、要する時間、費用、人員、もたらされる成果があるはずです。申告と成果が一致すれば、組織を運営する者にとってこれほどやりやすいことはありません。なぜなら、正確な判断ができるからです。突然の、出費や、人員の増強や削減などの手当をしなくていいからです。営利企業なら申告以上の利益が出た場合は歓迎ムードでしょうが、結果として正確な申告ではなかったことになります。この場合の正確さは、計画を実行した場合の成否を予測することにあります。想定外の利益が示すのは、立案する際に何らかの調査項目が欠けていたか、その能力がなかったことを意味します。原因はこの限りではありませんが、何らかの改善の余地を示しています。
余談になりますが。想定外の利益が出たからいいじゃないかと、不問に付す向きがあります。しかし、競争市場では、需要を十分に満たせない場合、致命傷になることがあります。ライバル企業に類似製品やサービスを開発され、販売力の弱い地域の市場を奪われることになります。ユーザーははじめに使った製品やサービスを使い続ける傾向にあるため、ライバル企業から市場を奪い返すのに苦戦することになります。立案が完璧(かんぺき)であれば、想定外の事態は起こらなかったはずです。本来得られるべき、将来得られたはずの利益を失わずに済むのです。
従業員には異動や転勤があります。これにともなう労力は少ないとはいえません。これにかかる時間を本来の業務とは違うとして、残業を申告しない同僚がいました。組織の命令なのだから残業代を請求すべきだ、という正論はここでは扱いません。問題なのは、従業員の異動にともなう労力がどれほどなのか、組織が把握しているのかどうかです。従業員の疲労が多く蓄積している場合、いくらよい計画を実施したところで、十分な成果を得ることはできません。たとえば、土日完全週休制なのに出勤し、毎日5時間の残業をする従業員が、十分に能力を発揮しているとは考えられません。ミスによる損失を予測する必要があります。疲労を計る尺度を何にするのかは難しいものがあります。しかし、その1つに残業があります。仕事にかかった正確な時間を申告しないと、組織のトップは適切な判断ができません。残業代が支払われるかどうかは別にして、正確な残業時間を申告することは必要なのです。
残業したのに、申告をさせないことや残業を認めないサービス残業はどうでしょうか。これを歓迎する組織の運営者もいるかもしれません。費用が少なくて済むからです。しかし、ここで注意することがあります。残業を把握しておきながら、これを無視するのは、運営者として何ら改善をしていないことを示しています。その結果、労働意欲と質の低下、経済環境の変化に対応できない状態が予想されます。
また、費用とすべき残業を把握していないことは、財務諸表が正確でないことを意味します。実際の費用を少なくして利益が多くでているように見えるからです。実質は、利益は少ないのです。投資家から見れば、羊頭狗肉(ようとうくにく)です。取引先にとっても、不安材料のある組織となります。組織として脆弱(ぜいじゃく)であるため、破綻する可能性があります。破綻すれば、売上金が回収できません。これは、従業員にとっても同じことです。組織が破綻すれば、失業します。
現実問題として、申告と成果が一致することは、なかなかありません。しかし、その努力をすることは、自分たちの仕事や、置かれた環境、時代の流れを知ることにつながります。申告と成果が一致に近づくにつれ、あらゆる面で組織は強くなっていくことでしょう。
申告と成果の一致がない場合でも、正確な報告は組織運営の判断を適切な方向に導きます。これが叶わないのは、従業員や運営者の個人の勝手な基準や振る舞いにあります。組織には、カラーとか社風とかいう風土があります。現実に目をつぶって、理想や教科書どおりの成果を求める風土は、韓非子の考え方に反します。すなわち、現状を打破できず、破綻への道を歩んでいることになります。
たかが残業、されど残業です。残業から、企業の風土や運営の実力、投資してよい企業かどうか、労働が報われるかどうか、などいろいろなことが見えてきます。そして、私たちの行動の指針となりそうです。
この書物を選んだ理由
今まで本を読んできて、これらが中国の思想の影響を受けていることを知りました。特に『日本政治思想史』丸山眞男氏著でそれを感じました。そこで、中国の思想を取り上げることにしました。
株式会社徳間書店さんはシリーズで中国の思想を12巻で取り上げています。違う思想をみる場合、価値観や観点というか、基準を一定にするために、シリーズ本を読むことにしました。一気に12巻を読むのは無理だと思っています。間に別の本を入れながら、全巻を見ていく予定です。
このたびは1巻目の『韓非子』を読むことにしました。
私の読み方
本書の「『中国の思想』刊行にあたって」の「三」に、「訳文が本文」との記述がありました。この記述のとおり、訳文を読みました。原文、読み下し文は、見ていません。
読み方は、本全体が視界に入るように見て、文字を読んでいく方法です。1行の長さは50文字弱、1ページ18行程度で、読みやすかったです。
人名やあまり使われない言葉にルビがあったのは、読みを助けてくれました。さらに、索引があれば便利だと思いました。
全部を読まないと気が済まないから、読みたいところだけを読むという感情の練習ができそうです。
読書所要時間など
- 所要時間
- 12日9時間17分
- 読み始め
- 2016(平成28)年2月2日(火)14時10分~
- 読み終わり
- 2016(平成28)年2月14日(日)~23時27分
- 読んだ範囲
- 原文、読みくだし文、広告は読んでいません。訳者紹介などの奥付は、軽く目を通しました。
取り上げられた書物など
- 『中国古代の思想家たち』 郭沫若氏著
お知らせ
2016年5月14日(土)訂正(アップデート日は別)
「版刷など」で、「全13巻」(誤)を「全12巻」(正)に訂正しました。
出来事
2月6日(土) 台湾南部で大地震。
2月11日(木) 重力波の初観測を米チームが発表。
調べたこと
- 1 思想(しそう)
- 2 冷徹(れいてつ)
- 3 支配(しはい)
- 4 論理(ろんり)
- 5 光芒(こうぼう)
- 6 非情(ひじょう)
- 参考:非常(ひじょう)。
- 7 還帰(かんき)
- 漢和辞典に掲載がありました。
- 8 旧套(きゅうとう)
- 9 郷愁(きょうしゅう)
- 10 憾み(うらみ)
- 11 刻下(こっか)
- 12 叢書(そうしょ)
- 13 凡例(はんれい)
- 14 師承(ししょう)
- 15 通用(つうよう)
- 16 寸評(すんぴょう)
- 17 博学(はくがく)
- 18 目をつむる(めをつむる)
- 目をつぶる。
- 19 繙読(はんどく)
- 20 例言(れいげん)
- 21 盟主(めいしゅ)
- 22 卿(けい)
- 23 大夫(たいふ)
- 卿(けい)の下の位(くらい)。
- 24 復古(ふっこ)
- 25 妾腹(しょうふく)
- 26 衰落
- 調べましたがわかりませんでした。インターネットによると、意味は、衰えることのようです。
- 27 風前の灯(ふうぜんのともしび)
- 28 公子(こうし)
- 29 遊学(ゆうがく)
- 30 宰相(さいしょう)
- 31 弁舌(べんぜつ)
- 32 吃音(きつおん)
- 33 臣下(しんか)
- 34 言行(げんこう)
- 参考:言行一致(げんこういっち)。
- 35 空理空論(くうりくうろん)
- 36 悪名(あくめい、あくみょう)
- 37 額面どおり(がくめんどおり)
- 38 高弟(こうてい)
- 39 方士(ほうし)
- 40 殿(しんがり)
- 41 純雑
- 純(じゅん)と雑(ざつ)。
- 42 説話(せつわ)
- 43 寓話(ぐうわ)
- 44 権柄(けんぺい)
- 45 群臣(ぐんしん)
- 46 腹黒い(はらぐろい)
- 47 簒奪(さんだつ)
- 48 悪巧み(わるだくみ)
- 49 女色(じょしょく)
- 50 隠者(いんじゃ)
- 51 安閑(あんかん)
- 52 容色(ようしょく)
- 53 院政(いんせい)
- 54 讒言(ざんげん)
- 55 明君(めいくん)
- 56 功伐(こうばつ)
- 57 知行(ちこう)
- 智行(ちこう)。
- 58 参伍(さんご)
- 59 廷(てい)
- 60 排斥(はいせき)
- 61 仇敵(きゅうてき)
- 62 侍従(じじゅう)
- 63 古顔(ふるがお)
- 64 勝ち目(かちめ)
- 65 刺客(しかく)
- 66 苦言(くげん)
- 67 刑吏(けいり)
- 68 曲言(きょくげん)
- 69 節穴(ふしあな)
- 70 轍を踏む(てつをふむ)
- 71 非凡(ひぼん)
- 72 礼遇(れいぐう)
- 73 清廉潔白(せいれんけっぱく)
- 74 失策(しっさく)
- 75 爵禄(しゃくろく)
- 76 手下(てした)
- 77 姦臣(かんしん)
- 奸臣(かんしん)。
- 78 取り巻き(とりまき)
- 79 気を回す(きをまわす)
- 80 単刀直入(たんとうちょくにゅう)
- 81 逆鱗(げきりん)
- 82 及第(きゅうだい)
- 83 重層的(じゅうそうてき)
- 84 待ち惚け(まちぼうけ)
- 85 朝貢(ちょうこう)
- 86 帰順(きじゅん)
- 87 険しい(けわしい)
- 88 盗跖(とうせき)
- 盗賊の名前。
- 89 教条主義(きょうじょうしゅぎ)
- 参考:原理主義(げんりしゅぎ)。
- 90 火急(かきゅう)
- 91 無用の長物(むようのちょうぶつ)
- 92 ならず者(ならずもの)
- 93 合従(がっしょう)
- 94 連衡(れんこう)
- 95 合従連衡(がっしょうれんこう)
- 96 愚挙(ぐきょ)
- 97 為政者(いせいしゃ)
- 98 独善(どくぜん)
- 99 諫言(かんげん)
- 100 生え抜き(はえぬき)
- 101 嫡出(ちゃくしゅつ)
- 102 併呑(へいどん)
- 103 ずぼら
- 104 過酷(かこく)
- 105 使役(しえき)
- 106 執念(しゅうねん)
- 107 唯唯諾諾(いいだくだく)
- 108 おべんちゃら
- 109 朝令暮改(ちょうれいぼかい)
- 110 軽挙妄動(けいきょもうどう)
- 111 せっかち
- 112 見境(みさかい)
- 113 羽振り(はぶり)
- 114 羽振りを利かせる(はぶりをきかせる)
- 115 誅罰(ちゅうばつ)
- 参考:誅伐(ちゅうばつ)。
- 116 冷飯を食う(ひやめしをくう)
- 117 市井(しせい)
- 118 金が唸る(かねがうなる)
- 119 古参(こさん)
- 120 婿(むこ)
- 121 稀代(きたい)
- 希代(きたい)。
- 122 実理(じつり)
- 123 実論(じつろん)
- 辞書に掲載がありませんでした。
- 124 屈原(くつげん)
- 人の名前。
- 125 専断(せんだん)
- 126 車裂き(くるまざき)
- 127 論客(ろんかく、ろんきゃく)
- 128 他人事(ひとごと)
- 129 旗色(はたいろ)
- 130 伐つ(うつ)
- 131 幽閉(ゆうへい)
- 132 遠征(えんせい)
- 133 クーデター(coup d’État)
- フランス語。
- 134 憂き目(うきめ)
- 135 僻(へき)
- かたよった。
- 136 幕舎(ばくしゃ)
- 137 楽師(がくし)
- 138 闌(たけなわ)
- 酣(たけなわ)。
- 139 軒端(のきば)
- 140 横車(よこぐるま)
- 141 横車を押す(よこぐるまをおす)
- 142 生垣(いけがき)
- 143 活路(かつろ)
- 144 暴虐(ぼうぎゃく)
- 145 再拝(さいはい)
- 146 交趾(こうし)
- コーチ。国の名前。
- 147 幽都(ゆうと)
- 都市の名前? 調べましたがわかりませんでした。
- 148 伐る(きる)
- 149 出仕(しゅっし)
- 150 適任(てきにん)
- 151 武威(ぶい)
- 152 甘言(かんげん)
- 153 亡命(ぼうめい)
- 154 訝しい(いぶかしい)
- 155 累卵(るいらん)
- 156 累卵の危うき(るいらんのあやうき)
- 157 出奔(しゅっぽん)
- 158 警句(けいく)
- 159 旄牛(からうし、ぼうぎゅう)
- 160 佯狂(ようきょう)
- 陽狂(ようきょう)。
- 161 甲子(かっし)
- 162 手合い(てあい)
- 163 口添え(くちぞえ)
- 164 士人(しじん)
- 165 左史(さし)
- 166 訳載(やくさい)
- 167 詭計(きけい)
- 168 恭しい(うやうやしい)
- 169 急き立てる(せきたてる)
- 170 誑かす(たぶらかす)
- 171 あくどい
- 172 権勢(けんせい)
- 173 小間使い(こまづかい)
- 174 煙に巻く(けむにまく)
- 175 男色(だんしょく、なんしょく)
- 176 明察(めいさつ)
- 177 謀略(ぼうりゃく)
- 178 寓意(ぐうい)
- 179 屈服(くっぷく)
- 屈伏(くっぷく)。
- 180 長広舌(ちょうこうぜつ)
- 181 でたらめ
- 当て字は「出鱈目」。
- 182 口先(くちさき)
- 参考:舌先三寸(したさきさんずん)。
- 183 食客(しょっかく、しょっきゃく)
- 184 不老長寿(ふろうちょうじゅ)
- 185 郢書燕説(えいしょえんせつ)
- 186 零す(こぼす)
- 溢す(こぼす)。
- 187 信賞必罰(しんしょうひつばつ)
- 188 毀る(そしる)
以下余白