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読んでやる! 読んだもの
№68 『女は男の指を見る』

 動物行動学から見た、生殖についての書籍です。男性と女性はどのようにお互いを選んで子孫を残すのかということです。本書によると、生殖の主導権は女性にあるようです。しかし、社会制度は男に都合のよいようにつくられているとも語られています。男性が女性を都合のよいように選んでいるとも言えます。もしかすると、これは錯覚で、女性が男性に選ばさせているのかもしれません。こんなことを想像しながら、楽しく拝読させていただきました。

『女は男の指を見る』

副題など
 帯には「なぜその人を選ぶのか?」「動物行動学で明かす」「色気 魅力 相性の正体-」とありました。
著者など
竹内 久美子(たけうち くみこ)氏著
出版社など
株式会社 新潮社(新潮新書) さん
版刷など
2010年4月発行。読んだものは2012年3月14刷。
ボリューム
189ページ

感じたこと

 『女は男の指を見る』。このタイトルから必ず思い出すのが、知人の母親が男性の手のことをよく言っていたことです。職人さんを見て、『あの人はいい仕事をしそうだ。手が大きい』とよく言っていました。
 本書に「女が男を厳しく選ぶという原則・・・」がありました。知人の母親の時代は、男の仕事といえば力仕事なのです。指の細い、手の小さい男は、仕事ができないと思われていたのでしょう。芸能人などは地に足のつかない浮き沈みの激しい職業で、結婚相手に求めたり、自分の子どもに勧めなかったようです。堅実に、生活を保障してくれる男性を求めていたのです。
 もう一つ、家という考えがありました。自分たちの血をつなぐということでしょう。これは自分たちの遺伝子を残していくことです。ここには、丈夫な子どもを産み育てる条件が必要です。主人が働き者で、嫁が丈夫であることが求められます。また、子孫を繁栄させるには、嫁の実家の血統も重要な条件の1つとなります。どこから嫁をもらうか、どこに嫁がせるかは家にとって一大事です。動物の「血統書付き」にどこか似ている気がします。
 おそらく、自分たちの遺伝子(血)をつなぐために、このような家の考え方が出来上がったのでしょう。ここでは、子どもの結婚相手に対して、家の厳しい目が考えられます。
 しかし、今は家という考え方はありません。欲求の満足か、遺伝子(血)を残すためかの区別する考えがあってもよさそうなものです。

 ちょっと飛躍した話になりますが。個人、一族、民族、人の範囲で遺伝子を残すことが考えられます。なぜ、この話を出したかというと、ホロコーストを考えるからです。第二次世界大戦中の収容所の中には、高圧電流の鉄条網で囲っていたところがあったそうです。あるとき、収容されている人々が次々に鉄条網に向かっていきました。一人また一人と感電死していきます。やがて、死体の山を乗り越えて脱出した人々がありました。
 どうしてこのような事態が起こったのでしょうか。みんなで打ち合わせをしたのでしょうか。確かに、食べ物が底をつきかけた村の長(おさ)が、繁殖力の旺盛な若者に食糧を持たせ助けを求めに行かせるのに似ています。村が滅亡しても、若者が他の村で血をつないでくれる可能性があるからです。
 しかし、ホロコーストとこの村の話では状況が違います。じっとしていてもやがて殺されるのであれば、主体的に生き延びる可能性にかけるのかもしれません。この考え方を収容されている全ての人が持っているとは思えません。意思に関係なく、極限状態での人の本能がでているのではないかと思うのです。本人は気づいていないかもしれませんが、民族(全体)の血を残そうとしているのではないか、ということです。
 遺伝子の継承の方法として、個人、一族、民族、人などの小から大への考え方を本能的に人はしているのではないかと思えるのです。
 ですから、宇宙人が地球人を滅ぼそうとする場合、人類は共通の敵に向かって戦うことでしょう。

 さて、今の社会は自分の欲求を叶えやすい環境だと思えます。形式上、人は平等だし、権利もある程度保障されています。そこには多様な価値観が生まれます。お互いを認めにくく、自分や他人の価値がどの程度なのかわかりづらい環境ではないでしょうか。もしかすると、自分の欲求に忠実でなければ、生きられないのかもしれません。
 このような環境下で、自分の遺伝子を残そうとするでしょうか。自他の価値がわからない場合、そう思う人が人類の遺伝子を残せばよい、と本能は考えないでしょうか。子孫を残すという実質的なものではなく、意識される欲求(たとえば快感など)だけを満たせば足りるのですから。
 未婚者の増加、少子化の問題は、決定的な対策がとれないようです。個人、社会、環境が、このような価値観になっているのかもしれません。

この書物を選んだ理由

 タイトルに興味を持ったので、3年ほど前に買って積ん読にしていました。

私の読み方

 本書は生殖に関する本ですが、研究者の性差によって、事象に対する研究の着眼点が違うのに気づきました。生殖活動で、男と女では感じ方が違うのです。ですから、より真実に迫る研究をするには、男女ともに研究者が必要だということです。
 気になったのは、研究者が仮説を統計的に裏付けたことです。しかし、それは、仮説を正しいものとしても、本当にそれが正しいかどうかはわかりません。なぜなら、必要な条件のものを集めて統計処理したに過ぎないからです。弊サイトで取り上げた『「偶然」の統計学』にある罠にはまった感じがしました。
 ある考え方をすると正しくかつ話題性もあるのですが、果たして・・・、という感じです。歴史でいう後解釈と同じように感じました。
 さて、このことから、読書にも男女差があるのでは、と思いました。要約は同じでも、感じ方、考え方、ポイントなどが性差により変わる可能性があります。男女取り混ぜて、読後の感想を交換すると、新たな気づきや発想が生まれるかもしれません。読書のみならず、家庭、職場などのあらゆる場所で、必ず男女が入る状態で意見交換すると、改善につながるかもしれません。

 今回の読み方で気をつけたのは、じっくりと読むことです。時間を気にすることなく、できるだけ文字、文章、内容を確かめながら読みました。精読でも普通読みでもありません。書籍『「読む」技術』にある「味読」という、楽しみながら読む方法です。解釈、想像、空想をしながら読みました。特に時間をかけるという意識を持たず、普通読みに、自分の見解を付き合わせながら読むような感じです。わからないことや興味のあることは調べました。時間のことをいうと、普通の読み方に比べて時間は少し多くかかる気がしました。本と対話しているようで、充実感を味わえます。

 体裁は、新書形式です。読む順番は、はじめに、目次、あとがきにかえて、本文です。読み方は、見開きページを視界に捉えて、できるだけ多くの文字をはっきりと見えるように読む方法です。味わって読もうと考えるようになったのは、この読み方が板についてきたのかもしれません。

読書所要時間など

所要時間
3日13時間18分
読み始め
2015(平成27)年12月9日(水)午前10時05分~
読み終わり
2015(平成27)年12月12日(土)~23時23分
読んだ範囲
 カバー、帯、本書。ただし、著者紹介などの奥付は軽く目を通し、広告は見ていません。

取り上げられた書物など

  • 『利己的な遺伝子』 リチャード・ドーキンス氏著
  • 『社会生物学』 E・O・ウィルソン氏著
  • 『行動生態学』 J・R・クレブス&N・B・デイビス氏共著
  • 『テストステロン』 ジェイムズ・M・ダブス+メアリー・G・ダブス氏共著

 ※ その他いくつかの書籍の紹介がありました。

出来事

 12月9日(水)作家の野坂昭如さん死去。

調べたこと

 だいたい、前置き、訳者あとがき、本文の順で調べています。

1 まじまじ
2 キャリパス(callipers)
カリパス。
3 掟(おきて)
4 乱婚(らんこん)
5 バース・コントロール(birth control)
受胎調整。
6 昔(むかし)
7 姑(しゅうとめ)
参考:「舅(しゅうと)」。
8 易易(やすやす)
9 摩訶不思議(まかふしぎ)
「摩訶(まか)」は、大きいこと。
10 異端児(いたんじ)
11 袋叩き(ふくろだたき)
12 我田引水(がでんいんすい)
13 牽強付会(けんきょうふかい)
牽強附会。
14 先入観(せんにゅうかん)
15 巧妙(こうみょう)
16 スラスト(thrust)
突っ込む。
17 ハレム(harem)
ハーレム。
18 銀灰色(ぎんかいしょく)
19 失墜(しっつい)
20 尽力(じんりょく)
21 驚愕(きょうがく)
22 華奢(きゃしゃ)
23 蟹股(がにまた)
24 件(くだり、くだん)
25 移籍(いせき)
26 恍惚(こうこつ)
27 ムード(mood)
28 惨状(さんじょう)
29 普遍(ふへん)
30 普遍的(ふへんてき)
31 数打ちゃ当たる(かずうちゃあたる)
「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる(へたなてっぽうもかずうちゃあたる)」。
32 用意(ようい)
33 万端(ばんたん)
34 洗練(せんれん)
洗煉(せんれん)。
35 ギネス(Guinness)
ギネスブック(Guinness Book)
36 パラサイト(parasite)
37 敷衍(ふえん)
布衍(ふえん)。
38 観点(かんてん)
39 真骨頂(しんこっちょう)
40 一喝(いっかつ)
41 悠久(ゆうきゅう)
42 目論む(もくろむ)
43 目論見(もくろみ)
44 うたかた(泡沫)
45 のほほん
46 補い(おぎない)
47 淘汰(とうた)
48 レトリック(rhetoric)
49 ややこしい
50 胸板(むないた)
51 顰蹙(ひんしゅく)
52 顰蹙を買う(ひんしゅくをかう)
53 小股(こまた)
54 小股が切れ上がる(こまたがきれあがる)
インターネットで画像を確認しました。
55 指比(ゆびひ)
インターネットで調べました。
56 大枚(たいまい)
57 得心(とくしん)
58 熱狂(ねっきょう)
59 利鞘(りざや)
60 ダークサイド(dark side)
61 ハンデ
ハンディキャップ(handicap)。
62 元凶(げんきょう)
63 去勢(きょせい)
64 劇的(げきてき)
65 宦官(かんがん)
66 カストラート(castrato)
イタリア語。
67 稜線(りょうせん)
68 食い扶持(くいぶち)
69 扶持(ふち)
70 一筋縄(ひとすじなわ)
71 ヴァリエーション(variation)
バリエーション。
72 シンメトリー(symmetry)
左右対称。本書では「免疫力」。
73 尻尾(しっぽ)
74 シリアゲムシ
インターネットで確認しました。
75 尾羽(おばね)
インターネットで確認しました。
76 蜜蠟(みつろう)
77 片や(かたや)
78 三竦み(さんすくみ)
79 減数分裂(げんすうぶんれつ)
インターネットで確認しました。
80 飛切り(とびきり)
81 黄体ホルモン(おうたいほるもん)
82 諸に(もろに)
83 雲散霧消(うんさんむしょう)
84 行商(ぎょうしょう)
85 四方山(よもやま)
86 四方山話(よもやまばなし)
87 ネオテニー(neoteny)
本書に解説があります。
88 僻地(へきち)
89 目の当たり(まのあたり)
90 捏造(ねつぞう)
91 巷間(こうかん)
92 安穏(あんのん)
93 完膚(かんぷ)
94 完膚無きまで(かんぷなきまで)
95 挙句(あげく)
96 子子孫孫(ししそんそん)
97 小馬鹿(こばか)
98 連綿(れんめん)
99 普通(ふつう)
100 頂戴(ちょうだい)

以下余白

更新記録など

2015年12月16日(水) : アップロード
2016年1月23日(土) : レスポンシブ様式に改装