『「読む」技術』
- 副題など
- 「速読・精読・味読の力をつける」
- 著者など
- 石黒 圭(いしぐろ けい)氏著
- 出版社など
- 光文社新書 452
- 株式会社 光文社さん
- 版刷など
- 2010年3月初版1刷。読んだものは、2014年11月2刷。
- ボリューム
- 262ページ
感じたこと
読書についてのすばらしい書籍です。速読、精読、味読などの解説があり、言葉の定義もしていました。こんな学問もあるんだな、といった感じでした。弊サイトを始める前に読んでおきたかった1冊でした。
本書で目につくのが「ストラテジー(strategy)」という言葉です。意味は「戦略」です。
私が以前務めていたある組織では、毎年、決算報告書のような概要書が作られていました。それには、当期の当初計画と業績、その評価の記載がありました。特に、計画には「戦略」という文字が数多く使われていました。
あるとき、組織の来期以降の目標や戦略を提案してください、との回覧が来ました。私が回覧をチェックしていると、先輩の同僚が言いました。「戦略、戦略、戦略言うて、戦争でもするんかいな」と。本来、戦略とは、軍事に使われるものです。対戦相手のあるゲーム、スポーツなら、戦うという点では、まだ理解は得られる。しかし、はっきりとした敵が見当たらない経済活動や組織再編でも、この言葉が使われるのに、違和感を覚えるというのです。
この先輩の同僚の発言に、思わず、辞書、インターネットなどで「戦略」の意味を調べました。結果、使い方は間違っていませんでした。私もそうですが、ほとんどの人がこの言葉に抵抗を感じていないようです。それだけ、私たちの日常に「戦略」という言葉が浸透しています。「◯△□攻略」「◯◯への戦略」という名の受験参考書や問題集もあります。子ども時から慣れっこになっているようです。
あらためて指摘されると、気になってきます。それでは、「戦略」に代わる言葉は何でしょうか。心理学用語に「方略(ほうりゃく)」という言葉がありますが、「strategy」を翻訳したもののようです。軍事と違うので、翻訳する過程でこのような言葉を作ったのだろうと想像できます。翻訳者は、先輩の同僚と同じ感覚ではなかったでしょうか。
「strategy」の意味を調べてみると、軍事だけでなく、目的を達成するための考えや工程なども意味しているようです。具体的には、「◯◯策」「◯△法」「△◯の方針」「△△計画(plan)」「ビジョン(vision)」「メソッド(method)」などです。しかし、これらの言葉を代わりに使うと、しっくりこないことがあります。
ところで、なぜ、軍事に使われる言葉が、私たちの日常に使われるようになったのでしょうか。軍隊は、兵器、兵力、兵站(へいたん)、戦術など総合的な視点が必要です。そして、自分の国を守るのに、現況を判断し、将来を予想し、それに備えることになります。ここから、総合的に考えて生き抜くことが「戦略」の表す意味だと感じます。
営利企業などの組織も、生産設備、人事、待遇、経営計画と、軍隊とよく似ています。生き残るためには、総合的な視点で計画を練る必要があります。しかし、このことを一言で表す言葉が見当たりません。
このように「生き抜く」と「総合的な判断」を考えたとき、「戦略」という言葉が最も意味が近いように思います。総合的なものだけに、意味の幅を広く感じます。その曖昧さが、この言葉を使いやすくしているのでしょう。組織や個人、目的の種類を問わず、使えます。また、「戦」を見ると、意気を高揚させるイメージがあるので好んで使われるのかもしれません。
ところで、最近、「ガバナンス(governance)」という言葉をよく聞きます。「統治」という意味ですが、どうも、この言葉も独(ひと)り歩きをはじめたようです。経済、経営分野の専門用語になりつつあるようです。もしかすると、もうなっているかもしれません。「コーポレートガバナンス(企業統治)」は、企業のホームページに記載のあるものがあります。
そのうち、◯◯+ガバナンス、と何にでもガバナンスをつけるようになるかもしれません。セルフ-コントロールをセルフ-ガバナンスと言い出すかもしれません。ホーム-ガバナンスというのも、出てくるかもしれません。言葉の使われ方や意味は、流行や時の経過の中で変化していきます。今はナンセンスと感じることでも、何年後かには市民権を得ているかもしれません。
そんなことを感じさせたくれた本書のストラテジーでした。
この書物を選んだ理由
読む技術、速読、精読、味読など、読むことについて、様々な角度から語られているのではないか、との期待から読むことにしました。
私の読み方
本書に、眼球と意識の使い方についての記述はありませんでした。目で見たものと脳に映ったものが同じであることを前提として、読む技術が語られています。現在、本の読める人がさらに質の高い読書ができるのを目標としています。国語の授業で、読むコツを習うような感じがします。教科書には書いていませんが、知っていると役に立つ技術です。受験勉強に近い技術とも言えます。即効性があります。
本書の「おわりに」に、「枠を外すために書かれた本」で「書かれた言葉は理解のためのヒントに過ぎず、答えは私たちの頭の中にある」とあります。しかし、本書は、速読、精読などの読み方や、解釈にいたるまで、解説しています。書かれたことを意識すると、本なんて読めそうにありません。「ここは速読、ええっと、どうやって読むんだったっけ」となるからです。
漢字を習うとき、筆順を覚えます。どうして筆順があるのでしょうか。その最大の理由は、教えやすく習いやすい、からだと私は思っています。ある書物によると、筆順は書の大家の筆跡から推定したそうです。大家によって、筆順が異なることもあるようです。筆順は別として、文字を誰が見ても読めるように書ければよいということになります。ところが、あらためて書き順を意識すると、書き方がぎこちなくなり、いつもの違う字になったりすることがあります。
これと同じで、あらためて言われると、ぎこちない読み方になり、文意をつかみにくい感じがします。意識しなくなるまで、その状態は続きそうです。しかし、これを乗り越えると、読み方が向上しているような気がします。
文学作品が多く取り上げられており、その読み方をはじめて知りました。たいへん奥が深いと感じました。小説がすばらしいものだとわかりました。
私の読み方です。はじめに目次、序章、おわりにを読み、主要参考文献に目を通してから、本文を読みました。「おわりに」を先に読んでいたので、著者の意図がどこにあるのかに注意して読めました。はじめから順序よくよんでいたら、決められたことを実践するという枠にはめた読書を目指していたでしょう。
体裁です。新書の形式です。文字は小さめで、1行が少し長いように感じます。図が文章に割り込み、1行の長さが短くなっています。これが、少し読みづらく感じました。
章末に枠で囲ったところがあり、要点が書かれており内容を確認できました。巻末に「主要参考文献」の掲載があり、参考になりました。索引があれば、便利だと思いました。
読まない期間が長かったので、前の内容を忘れているのではと思いました。しかし、途中から読み始めても、前の内容が思い浮かびました。記憶に残る記述なのでしょう。
読書所要時間など
- 所要時間
- 19日1時間26分
- 読み始め
- 2015(平成27)年9月16日(水)21時24分~
- 読み終わり
- 2015(平成27)年10月5日(月)~22時50分
- 読んだ範囲
- カバー、帯、本書。ただし、著者などを紹介している奥付は軽く目を通し、書籍などの広告は読んでいません。
取り上げられた書物など
- 『文章理解の心理学 認知、発達、教育の広がりの中で』 大村彰道氏監修
- 『文章は接続詞で決まる』 石黒圭氏著
※ その他、たくさんの小説が取り上げてありました。
出来事
10月5日(月) マイナンバー法が施行。正式名称は『行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律』。
調べたこと
- 1 言語(げんご)
- 2 基盤(きばん)
- 3 プレゼンテーション(presentation)
- 4 巧拙(こうせつ)
- 5 享受(きょうじゅ)
- 6 アール・デコ(art déco)
- フランス語。インターネットでどんなものか、形を確認しました。
- 7 大佛 次郎(おさらぎ じろう)氏
- 中学生くらいの時に私が「だいぶつじろう」と言うと、父から怒られたことがあります。どうも、父は大佛次郎氏や中山介山氏などの小説が好きだったようです。そういえば、父は子ども時に、塚原卜伝(つかはらぼくでん)などの三文時代小説をたくさん読んだと言っていました。父の読書のスピードは速く、内容もしっかりとつかんでいました。子どもの時から多くの文字を読み込むことは、読書の技量の向上には欠かせないのかもしれません。そんな父ですが、晩年は、速読の本を読んでいました。
- 8 付与(ふよ)
- 附与(ふよ)。参考:「賦与(ふよ)」。
- 9 地道(じみち)
- 10 表象(ひょうしょう)
- 11 辻褄が合う(つじつまがあう)
- 12 馳せる(はせる)
- 13 平読
- 「へいどく」と読むのでしょうか。「平読み」だと「ひらよみ」と読むのでしょうね。本書に「普通の読み方」と解説があります。ちなみに、私の持っている辞書に「平読」はありませんでした。参考:「併読(へいどく)」。
- 14 大雑把(おおざっぱ)
- 15 スキャニング(scanning)
- 本書に解説があります。
- 16 スキミング(skimming)
- 本書に解説があります。
- 17 倒置(とうち)
- 18 効能(こうのう)
- 19 水掛け論(みずかけろん)
- 20 身土不二(しんどふじ)
- 本書に解説があります。
- 21 一物全体(いちぶつぜんたい)
- 本書に解説があります。
- 22 医食同源(いしょくどうげん)
- 23 ストラテジー(ストラテジー)
- 24 戦略(せんりゃく)
- 主に戦争で使われる言葉のようです。その他では、敵と味方に分かれる場合にも、使われているようです。
- 25 TPO(ティー・ピー・オー)
- 和製英語。
- 26 手子摺る(てこずる)
- 梃摺る(てこずる)。
- 27 後の祭(あとのまつり)
- 28 没頭(ぼっとう)
- 29 殊勝(しゅしょう)
- 30 縞目(しまめ)
- 31 起承転結(きしょうてんけつ)
- 32 疎か(おろそか)
- 33 正書法(せいしょほう)
- orthography。
- 34 微温湯につかる(ぬるまゆにつかる)
- 35 破綻(はたん)
- 36 目配り(めくばり)
- 37 斬新(ざんしん)
- 38 視座(しざ)
- 辞書を引くと「視点」と同じ意味とあります。本書は「視座」「注視点」を区別しています。
- 39 注視(ちゅうし)
- 40 視点(してん)
- 本書に「図・視点の多義性」でわかりやすい説明があります。
- 41 追体験(ついたいけん)
- 42 縦横無尽(じゅうおうむじん)
- 43 顫える(ふるえる)
- 参考:「顫動(せんどう)」。
- 44 てんでに
- 45 リアリティ(reality)
- 46 圧巻(あっかん)
- 47 オノマトペ(onomatopoeia)
- オノマトペア。
- 48 胡坐をかく(あぐらをかく)
- 49 眩しい(まぶしい)
- 50 迅速(じんそく)
- 51 芋蔓式(いもづるしき)
- 52 俯く(うつむく)
- 53 駄目押し(だめおし)
- 54 率直(そっちょく)
- 55 吐露(とろ)
- 56 貢献(こうけん)
- 57 精も根も尽き果てる(せいもこんもつきはてる)
- 58 弄ぶ(もてあそぶ)
- 59 嚥下(えんか、えんげ)
- 咽下(えんか、えんげ)。病院では「えんげ」をよく聞きます。
- 60 茫然(ぼうぜん)
- 呆然(ぼうぜん)と同じ意味があります。
- 61 冷酷(れいこく)
- 62 ショートショート(short-short)
- 掌編(しょうへん)。
- 63 感傷(かんしょう)
- 64 格別(かくべつ)
- 65 失望(しつぼう)
- 66 栄誉(えいよ)
- 67 悲壮(ひそう)
- 68 切迫(せっぱく)
- 69 貫禄(かんろく)
- 70 固唾を呑む(かたずをのむ)
- 71 承ける(うける)
- 後を継いで。
- 72 偏見(へんけん)
- 73 警句(けいく)
- アフォリズム(aphorism)。箴言(しんげん)。
- 74 半信半疑(はんしんはんぎ)
- 75 肩透かし(かたすかし)
- 76 通(つう)
- 77 にんまり
- 78 茫漠(ぼうばく)
- 79 一目散(いちもくさん)
- 80 互譲(ごじょう)
- 81 唐突(とうとつ)
- 82 帰着(きちゃく)
- 83 喚起(かんき)
- 84 孔(あな、こう)
- 85 切ない(せつない)
- 86 見下す(みくだす)
- 87 快哉(かいさい)
- 88 溜飲が下がる(りゅういんがさがる)
- 89 莫迦(ばか)
- 90 兎に角(とにかく)
- 91 所謂(いわゆる)
- 92 欣然(きんぜん)
- 93 的を射る(まとをいる)
- 参考:「当を得る(とうをえる)」。
- 94 了う(しまう)
- 95 朦朧(もうろう)
- 96 杓子定木(しょくしじょうぎ)
- 97 混濁(こんだく)
- 98 健気(けなげ)
- 99 正気(しょうき)
- 100 両刃の剣(もろはのつるぎ)
- 諸刃の剣(もろはのつるぎ)。
- 101 吟味(ぎんみ)
- 102 学際(がくさい)
- 参考:「学祭(がくさい)」。
- 103 イデオロギー(ideology)
- 104 メディア・リテラシー(media literacy)
- 105 嘯く(うそぶく)
- 106 敢行(かんこう)
- 107 毅然(きぜん)
- 108 失脚(しっきゃく)
- 109 術中(じゅっちゅう)
- 110 補填(ほてん)
- 111 工合(ぐあい)
- 具合(ぐあい)。
- 112 衆愚政治(しゅうぐせいじ)
- 113 含蓄(がんちく)
- 114 最早(もはや)
- 115 ジェンダー(gender)
- 116 通俗的(つうぞくてき)
- 117 依怙贔屓(えこひいき)
- 118 師表(しひょう)
- 119 徳化(とっか)
- 120 野だ
- ???。
- 121 好悪(こうお)
- 122 整合(せいごう)
- 123 綻び(ほころび)
- 124 牽強付会(けんきょうふかい)
- 125 プロバビリティー(probability)
- 126 いとおしい
- 127 垂涎(すいぜん)
- 128 筆致(ひっち)
- 129 唯一無二(ゆいいつむに)
- 130 洒落(しゃれ)
- 131 自問自答(じもんじとう)
- 132 微笑(びしょう)
- 参考:「微笑む(ほほえむ)」「笑み(えみ)」。
- 133 型破り(かたやぶり)
- 134 憑かれる(つかれる)
- 135 間柄(あいだがら)
- 136 鬼気(きき)
- 137 咀嚼(そしゃく)
- 138 融通無礙(ゆうずうむげ)
以下余白