『ビジョントレーニングで脳力アップ』
- 副題など
- 「集中力、記憶力が高まる目のトレーニング」
- 「簡単トレーニングで目と脳の老化を防止」
- 著者など
- 内藤 貴雄(ないとう たかお)氏著
- 出版社など
- 株式会社 法研さん
- 版刷など
- 平成27年7月第1刷。
- ボリューム
- 159ページ
感じたこと
「押してもダメなら、引いてみな!」 でしょうか。
すばらしい! もっと早くこの本に出会いたかったです。しかしながら、平成27年7月27日第1刷発行なので、私が本書を手にするのは最速だったかもしれません。運よく、私の思う書籍に巡り会えました。
小学生からはじまった本の読めなかった苦しい気持ちを私の代わりに語っていました。やっとわかってもらったという、胸のすく思いがしました。
宮本武蔵と柳生石舟斎
1984(昭和59)年4月から翌年3月まで、NHK新大型時代劇『宮本武蔵』の放送がありました。吉川英治氏原作、役所広司さん主役で、いつもワクワクして見ていました。
ドラマの中で、宮本武蔵(みやもとむさし)が柳生石舟斎(やぎゅうせきしゅうさい)の庵に忍び込み、対峙(たいじ)する場面がありました。武蔵は、一手(ひとて)ご教示をと言って、教えを請う。その時、家臣が現れて武蔵を庵から追い出そうとします。ところが、石舟斎は家臣の動きを抑えます。芍薬の切り口について、武蔵はたずねます。そして、石舟斎の答えに、武蔵ははぐらかされたように感じます。らちのあかない会話に、武蔵は刀を抜いて、石舟斎に構えます。刀を持たない石舟斎は、穏やかな表情で、ひょいと立っています。それを見た武蔵は、隙(すき)だらけだが、なぜか隙がまったくない、と感じ困惑します。打ってかかれば、石舟斎の思うつぼになる。そう感じた武蔵は、刀を打ち込むことなく、逃げ去るように庵を後にします。
ドラマのこの部分が史実かどうかはわかりません。私が注目したのは、武蔵と石舟斎の目と意識の使い方です。これから述べるのはあくまでも私の想像です。
武蔵というと力で相手をねじ伏せるイメージが私にはあります。武蔵の自画像を見たことがありますが、目つきが鋭く、力が入っているように見えます。それとは対照的にドラマの石舟斎は余分な力が抜けて、素の状態です。
恐らくどちらも、動体視力、剣術について、ずば抜けているはずです。相手の目を見つつ、全身、その周囲までも視野に入れていたと思います。脳に映る映像は、それほど違わなかったでしょう。この時の眼球の使い方はどのようになっていたのでしょうか。自画像から察するに武蔵は眼球に力を入れて、石舟斎は眼球の力を抜くことによって、その状態にしたと思います。眼球に力を入れても抜いても、このような動体視力、視野を実現できるのです。
対戦相手に勝利する意識の違いもあります。この時の武蔵は、勝利とは相手を倒すことと考えているようです。石舟斎は刀が当たらなければよしとする、といった感じです。至近距離で刀が当たらないというのは、刀をかわすか受けるしかありません。受けたときに、ケガをしていたのでは話になりません。しっかりと相手の刀の動きを把握することが必要です。打ってくる刀の動きを予想するのではありません。動く刀がその瞬間どこにあるのかを見ることです。言い換えると、打ってかかる刀がスローモーションか、止まって見えることです。そうすれば、刀を素手でとる可能性は高まります。もしこのように見えるなら、相手を倒す確率はグンと上がるはずです。
武蔵の力を入れて、動体視力や広い視野を得るには、かなりの訓練が必要でしょう。眼球に力を入れることは、脳に負担をかけるので、刀の制御にブレーキをかけることになると思います。武蔵の剣は野性的なのです。個人が持つ強さと言えます。ですから、武蔵のような剣豪は二度とは現れないし、弟子を育てることもできないと思います。二刀流の形を真似はできても、その極意を悟る者はいないと思います。そして、年齢とともに衰えていく目と意識の使い方です。
一方の石舟斎はどうでしょうか。眼球の力を抜いても視野は広くなります。しかし、力を抜く感覚は、力を入れる感覚以上に難しいことです。特に、若いときは力を入れることはわかりますが、力を抜く意味がわかりません。力を抜く特徴として、脳に余分な負担をかけないことがあります。自然に手や足がスムーズに動くようになるのです。野球などで、気持ちで打て、と言います。これは、見えたものに素直に体が動いているのです。眼球の力を抜くことは、恐怖心を遠ざけることにもなります。動くものも、その瞬間をはっきり捉えやすくなるはずです。年を取っても、力を抜くことはできます。
武蔵であれ石舟斎であれ、どちらも習得には時間がかかるのです。そして、どちらの方法をとっても、極意の域に達することはできないかも知れません。才能にも恵まれていなければならないからです。
しかしながら、疲れにくさから言えば、力を抜く方法がいいのです。疲れにくいことは、集中力を高め、平常心をより長く維持するのに適しているからです。力を抜く感覚は、力を目一杯入れてから脱力したり、寝る時に誰もが感じることができます。
刀を打つことができなかったのは、武蔵が石舟斎の方法を理解できなかったからです。武蔵は力を入れることが勝つことであり、力を抜くという発想がないのです。しかし、力を抜くことが刀の鋭さを生むということを、武蔵は本能的にわかっていたはずです。もし、石舟斎が武蔵と同じ力を入れる方法を取っていたなら、武蔵は刀を振り下ろしていたでしょう。
今も昔も、人が何かをしようとすると、力を入れることばかり考えてしまうようです。力を入れても達成できなかった場合、さらに力を入れようとするのが人の常です。できた場合はいいのですが、限界を感じたときにとる方法は、2つあります。1つはあきらめる。もう一つは精神論に傾倒することです。不思議なことに、力を抜くという発想がありません。精神論に傾きはじめると、思考停止に陥り、隘路(あいろ)を突き進むことになります。まだ、あきらめるのは、その瞬間に気持を入れ替えるため、発想の転換の可能性があります。力を抜くことは、口で言うほど簡単なことではありません。
この書物を選んだ理由
9月の新聞の書籍の広告欄にありました。目と意識、ビジョントレーニングの言葉にひかれました。おそらく弊サイトが試行錯誤しているのは、これだ! と感じました。早速、読んでみることにしました。
私の読み方
「簡単トレーニングで目と脳の老化を防止」と謳(うた)っています。しかし、その理由は詳しく書かれていません。目から受ける刺激が、果たして人間にとっていいのか悪いのか知りたいところです。目に強い光を受けるとどうなのか、色は? 点滅する光はどうなのでしょうか。生まれてから死ぬまで、人間の全ての期間で効果があるのでしょうか。
「第1章 人は脳で見ている」ことは、よくわかります。弊サイトもそのことを中心に眼球と意識の使い方を工夫しようとしています。
「やってみよう ビジョントレーニング」が本書後半にあります。この中に、学校で実際に経験したものが、いくつかありました。当時、本を読めない私は、このトレーニングを胡散臭(うさんくさ)く思っていました。そして、私も含めほとんどの生徒が、それを続けていなかったようです。
なぜ、そうなるのでしょうか。1つには、生まれたときから、そのような目と意識の使い方になっている人がいることです。もう一つは、トレーニングをしても脳で見ているという実感がないことです。見えていることが当たり前なのに、今さらなぜそんなトレーニングをするのか、ということです。眼球と脳の働きを意識して区別できないのです。
今の私が本書を読むと、たいへんよくできた優れた書籍だと思います。私が今までに経験したいくつかのことをコンパクトに丁寧に解説しています。特に私が重要だと感じる部分は、「中心視野」と「周辺視野」です。このことを意識して、ビジョントレーニングをすると、脳が見ているという感触を味わえます。残念ながら、本書では、トレーニングをするうえで、視線と意識の使い方のガイドがありません。
弊サイトは、「眼球」と「脳」の働きを意識して区別することが大切だと考えています。この区別がなければ、トレーニングの十分な効果を得られないからです。
たとえば、本書には、仲間はずれ探しのトレーニング」があります。このトレーニングの目的は、視野を広く取ることと識別眼を養うことにあります。1行に7つの言葉があり、そのうちの違う1つを探すというものです。これを、弊サイト方式で解釈すると、次のようになります。
トレーニングの際の眼球の使い方です。
はじめは2つの言葉を一組に同時に見ます。さらに、3つの言葉を一組、・・・、1行、1ページ、見開き両ページ、というように言葉の数をだんだん増やして、同時に見てゆきます。この時の眼球への力の入れ具合です。言葉の数が少ないと目に力を入れて焦点を合わせようとします。言葉の数が多くなると、力を入れて見える範囲を広げようとします。言葉の数を意識せずに、ページを見るといくつかがはっきり見えます。この時、眼球に力が入ってないことに気づきます。
眼球と脳の働きの違いの感じ方です。
見る言葉を2つから3つ、1行に増やしたとき、眼球の使い方の変化に気づきます。そして、言葉が複数組でも、1行でも、脳は2つか3つの言葉を意識して違いを探そうとしています。これは「眼球の動き」と「脳が違いを探すという意識」の違いであり、これが「眼球」と「脳」の働きの違いです。眼球は脳に映像を送っているだけで、違いを探すという見る働きをしているのは脳だということがわかります。
はっきりと見えている範囲が広いほど、脳は違いを探すのに効率がよいのです。目に力を入れなくても、かなりの範囲がはっきりと見えます。まぶたを開き、見るところに視線を向けるだけで十分です。
目に力を入れることは、脳の働きを邪魔することがあります。本書には傍目八目(おかめはちもく)という項がありました。本書とのニュアンスは違いますが、熱くなっている当事者は、眼球に何らかの刺激があり、視野が狭くなっていることが考えられるのです。彼らを囲む人々は、勝敗に影響がないので、リラックスした状態でものを見ているのです。その状態では、視野が広くなるのです。碁や将棋の盤面の全体を見ているということです。目や脳の余分な刺激を取り除けば、私たちの可能性を解放できるかもしれません。
拙(まず)いやり方として、最初に言葉を覚えて、記憶をもとに、一つ一つ言葉をチェックする方法があります。違いに気づかなかったり、何度も言葉を見返すことになります。人間の記憶が、いかにいい加減で変形しやすいのか、がわかります。実際に見える状態で、比べることほど確かなことはありません。一字一句を目で追う読書が、これに当たります。眼球が一字一句しか映像を送らないので、脳もその一字一句を読むしかありません。その一字一句を覚えなければ、次の一字一句を読めないということになるのです。
視野を広く取ることは大切です。その前に、力を抜いて見ることをお勧めします。力を入れるよりも、力を抜いて視野を広くする方が、いろんな可能性に満ちています。それは、読書に限らず、私たちの生活全てに関わることだからです。
体裁です。文字、行間、図、絵など適当で読みやすかったです。1行が42文字くらいあるのでしょうか。もう少し、短めの35~37文字くらいが見やすいように思います。できれば、横書きの方がいいように思います。
取り上げた内容のバランスがいいので、機会のあるごとに本書を開くと思います。ヒントを与えてくれる良い本です。
読書所要時間など
- 所要時間
- 6日16時間49分
- 読み始め
- 2015(平成27)年9月2日(水)22時11分~
- 読み終わり
- 2015(平成27)年9月9日(水)~15時00分
- 読んだ範囲
- 全部。ビジョントレーニングをしましたが、うまくいかないところもありました。
出来事
9月3日(木) 改正マイナンバー法が衆議院本会議で可決、成立。銀行口座と連動させるなど情報利用の拡大を図る。正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」。2013(平成25)年5月に国会で可決、成立しています。
調べたこと
- 1 オプトメトリスト(optometrist)
- 本書に解説があります。辞書にはいろんな訳があるようですが、この中では「視力矯正士」の言い方がわかりやすいように思います。
- 2 ビジョン(vision)
- 本書に解説があります。辞書の意味としては「視野」でしょうか。
- 参考:「ビジョン・セラピー(vision therapy)」。
- 3 公益社団法人 日本眼鏡技術者協会
- インターネットでホームページを確認しました。認定眼鏡士さんのための内容が主です。読書用の眼鏡は何かとか、眼鏡の適切な合わせ方、選び方などの情報がありません。消費者向けの情報が少ないように感じました。
- 4 眼鏡技術者国家資格推進機構
- インターネットでホームページを確認しました。眼鏡技術者かそれを目指す人のサイトのようです。消費者などの一般の人向けのサイトではないようです。
- 5 切磋琢磨(せっさたくま)
- 6 推進(すいしん)
- 7 何故(なぜ)
- 8 オプトメトリー(optometry)
- 本書に解説があります。インターネットで調べました。
- 9 リハビリテーション(rehabilitation)
- 社会復帰に向けた訓練などのこと。
- 10 太鼓判(たいこばん)
- 11 セラピー(therapy)
- 治療。療法。
- 12 理論(りろん)
- 13 ディテール(detail)
- 14 識別(しきべつ)
- 15 親御(おやご)
- 16 本末転倒(ほんまつてんとう)
- 17 適切(てきせつ)
- 適切、適当(てきとう)、適合(てきごう)は、どの順番にピッタリとしているのでしょうか。一番良く当てはまる順から、適合←適切←適当、となるのでしょうか。具体的なものか抽象的なものによっても、表現が変わるような気がします。
- 18 巷(ちまた)
- 19 潜む(ひそむ)
- 20 緩慢(かんまん)
- 21 ケア(care)
- 世話。
- 22 臨機応変(りんきおうへん)
- 23 近業(きんぎょう)
- 辞書には、最近した仕事とか著作物の意味でした。
- インターネットで調べていると、「HOYAビジョンケアカンパニー」さんのホームページに「近業目的距離」という言葉がありました。読み方がわからないので、電話で問い合わせたところ、「きんぎょうもくてききょり」と読むそうです。眼鏡業界では、本を読むときなど近くを見ることにこの言葉を使うそうです。応対して頂いた担当の方の説明は、丁寧でわかりやすかったです。ご担当者様、ありがとうございました。
- 本書の場合は、仕事、近距離の作業のどちらの意味でしょうか。どちらでも、意味が通じますが。
- 24 気味悪い(きみわるい)
- 25 利器(りき)
- 26 イメージ(image)
- 27 イマジネーション(imagination)
- 28 オリエンテーション(orientation)
- 位置。姿勢。定位。国語辞典の意味とは、違っていました。
- 29 相殺(そうさい)
- 30 立ち居振る舞い(たちいふるまい)
- 31 ナビゲーター(navigator)
- 32 コーディネート(coordinate)
- 33 対照的(たいしょうてき)
- 34 傍目八目(おかめはちもく)
以下余白