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読んでやる! 読んだもの
№54 『セルフケア24のアプローチ』

 身体への疲労については、予防やアフターケアを工夫する人は多くいます。しかし、心理的な疲労は、あまり注目されていないようです。人が健康であるには、心身一如(しんじんいちにょ)の言葉のごとく、心身の維持管理が大切です。本書には、心の維持管理だけでなくパワーアップするヒントまでも、簡潔明瞭に書いてあります。後は、工夫して疲労回復、英気の涵養(かんよう)ができるよう、自分の方法を作り上げるだけです。

『セルフケア24のアプローチ』

著者など
串崎 真志(くしざき まさし)氏著
出版社など
風間書房さん
版刷など
2012年2月初版第1刷。
ボリューム
138ページ

感じたこと

 今の自分の状態、それを知る具体的かつ的確な方法はあるのでしょうか。また、メンタルヘルスに関する資料や書籍を見ると、普通の人間とはどんな状態なのだろうといつも考えてしまいます。そして、これらを考える必要はあるのでしょうか。

 不安を考えたとき、「わからないこと」が原因のことがあります。この「わからないこと」には、知識、理解、予見などがあります。書物の中には、不安を感じたらそのことについて調べることを勧めるものがあります。そして、知識を得ることで、ほとんどの不安は解消すると主張します。そして、その効果は絶大です。人間社会は、人間がルールを決めた社会です。ほとんどの試験問題には答えがあります。この場合、どこかにそれに関する資料や書籍があるので、調べれば何とかなります。理解についても、書籍や資料でわからなければ、人に教えてもらう方法があります。この場合、全てのことを理解できないかもしれません。予見では、経験が不安の程度を決めるようです。未経験のことは、大きなエネルギーを必要とします。経験を積むにしたがって、不安要素は軽くなっていきます。しかし、経験を積んだからといって、予想が当たるとは限りません。
 できることを見つけて、それを実行すること。自分に理解できるもので行動を考える。人に協力を得られるようにする。落ち着いて現実にできることを一つ一つ片付けていくことがいいそうです。将来の結果は誰にも予想がつきません。何が起こるかわからないからです。このことは自分でコントロールのしようがないので、思い続けることは不安をあおります。将来の成否を無視するか、それを受け入れる覚悟をします。それができれば、妄想から現実の世界に気持ちを戻せます。気持ちが安定するので、すべきことを処理できるようになるそうです。
 全てが順調で、周囲から見てその原因がないときでも、不安を感じる人があるそうです。不安を感じることが習慣になっているのかもしれません。この場合、周囲から見て異常なわけですから、専門のお医者さんに診てもらった方がいいかもしれません。脳の病気かもしれないからです。

 さて、人間の気持ちは状況に応じて様々に変化します。人から聞いた話に「昨日の自分と今日の自分、どちらが本当の自分か」があります。ご覧の方は、どのように答えますでしょうか。もっとも直近の自分である「今日の自分」と答えるでしょうか。しかし、自分は1つのものであり、古い新しいで決められません。過去の行いは自分がしたのではない、と言えるでしょうか。過去であれ今であれ、いずれの時も本当の自分なのです。
 人は、成長し、老化し、楽しみ、苦しみ、悩みなどいろんなことを経験します。時、状況などに様々に変化するのが人なのです。そして、そのいずれの時も本当の自分なのです。

 では、普通の人、または、人の普通の状態とは、どんな人のことをいうのでしょうか。
 ところで、この評価を誰がするのでしょうか。他者、自分、または、両者のいずれなのでしょうか。人に「あの人はどんな人」と聞かれると、「普通の人」と答えることがあります。しかし、よく話をしてみると、その人に個性があることがわかります。自分で見る場合、1人の他人、2人以上の他人、自分を入れて他人2人以上、自己のみを見る場合にそれぞれ感じ方が変わってきます。しかし、いずれの場合も、他人同士や、自己を入れても人はそれぞれ違うことに気づきます。普通の定義は難しいのです。人はそれぞれ違うのが普通で、まったく同じ人がいる方がおかしいのです。
 自分に意識が向かうとメンタルヘルス不調の方向で、自分を意識せず周囲を意識するのがメンタルヘルス良好の状態と聞いたことがあります。そして、一度、自己に意識が集中し始めると、負の連鎖を引き起こすことがあるそうです。これは、固まったり、意識が拘束されたり、あまりよくない状態なのだそうです。これから脱するのは、なかなか困難なようです。また、再発をしやすいようです。一度ついた意識の癖はなかなかとれないということです。
 メンタルヘルス良好者はこの状態を維持すればいいので、今のライフサイクルの質を保持し、ライフイベントに備えればいいのです。たとえば、趣味を持っているなら、他人の評価を気にせず、ライフイベントに気を使いながらも、その楽しみを続けた方がいいようです。楽しみで、気持ちの切り替えができるからだそうです。いつも同じことを意識するのは、不調な状態ということです。
 では、メンタルヘルス不調者はどのようにすればいいのでしょうか。このヒントをくれるのが本書です。最適な方法は自分で探すしかないと本書はプロローグの中で述べています。人はそれぞれ違い、個性があります。そして、他人との比較ではなく、自分が自己を分析、評価などをして最適化することになりそうです。
 医療、心理学を使った療法では、その場しのぎの対処療法が多いように感じます。当然、社会生活に違和感があれば、その方法を利用すべきです。それともう一つ、自分で、人とは何か、人生とは何か、などを考えることが大切だと感じます。『人間の基本』『歴史哲学への招待』『精神医学から臨床哲学へ』で述べてある「偶然」を私は強く意識しました。本書のエピローグにも「偶然の重なり」という記述があります。
 時間、場所、親、環境、体格など全てが同じ人はいません。理屈で説明できない偶然の産物です。そして、人生も偶然の産物です。誰一人として、同じ人生を歩む人はいません。失敗したときによく原因を分析しますが、その結果を疑うことがあります。何かの偶然や巡り合わせで、そうなったとしか説明できないことがあるのです。分析は無駄といっているのではありません。将来に向けて、分析を必ずして、フォローに努めるべきです。私が言いたいのは、自分でコントロールできない偶然や巡り合わせをどのように扱うのかということです。最終的に、偶然や巡り合わせを受け入れざるを得ない、ことになります。自分たちの分析結果がどうであれ、出来事は事実で受け入れざるを得ないのです。・・・していたら、・・・であれば、をいくら考えても過去を変えることはできません。
 自分とはどういう人なのか、何ができるのか、どう生きてきたのか、何がしたいのか、など具体的で確実に感じる自己を意識します。生きるのは自分ですから、自分の感覚の分析が大切です。他人の評価は必要ありません。むしろ、邪魔になることでしょう。そして、過去の出来事や自己、将来などについて、偶然や巡り合わせが絡んでいることを考慮し受け入れることです。
 たとえば、「どうして自分はダメなのか」と思い悩んでも、自分が偶然の産物ならその理由を考えても仕方がありません。そして、今の自分で生きるしかありません。現実に、自分に興味のあること、できることをするしかなくなります。このような考え方になると、自己に向けられていた意識が、自己の外に向くようになるはずです。自己の外に意識が向く効果のわかりやすい例は、恋です。自己ではなく、四六時中相手のことばかり考えているはずです。しかし、恋により、自己に対する根本的な考え方が変わることはありません。

 偶然の産物だからといって、ヤケになる人がいるかもしれません。なぜなら、努力しても報われるかどうかわからないからです。しかし、成功は、天の時、地の利、人の和がそろったときに叶うといいます。人の和が必要なら、少なくとも人の道に外れたことをしてはいけないのです。そして、興味のあること、できることを確実にこなして、その時を待つしかありません。仮に、努力が成就をもたらさなかったとしても、悔やむことはないはずです。なぜなら、人生に偶然を織り込み済みだからです。全ての人が成功するとは限りませんが、その思いを成就した人は必ずいるはずです。
 ところで、私の思いが成就する時は来るのでしょうか。よい偶然さんと巡り合わせさんに出会える日を楽しみにしています。

この書物を選んだ理由

 セルフケアとはどのようなことをするのか興味を持ちました。そして、読書の技術を考えるうえで、心理的に参考になることが書いてありそうなので読んでみました。

私の読み方

 本書は、メンタルヘルスに自信がないか、初期症状のある人、または、何か違和感のある人を対象としているのでしょうか。
 本書のボリュームは138ページです。その他の書籍と比べると少なめです。また、わかりやすい文で書かれています。データなどの資料は、あまりありません。しかし、概略をすぐつかめるのと、これを足掛かりに自分で調べることができます。
 本を作っている紙が分厚く、紙質はページをめくる指掛かりがよいものです。体質、心理作用で手のかさかさの人も、ページをめくる動作が楽です。
 ページ数のわりに、本が厚い。紙の厚みと関係しますが。弊サイトで取り上げた『知的生産の技術』岩波新書218ページと若干本書の方が厚いです。
 何らかの不調を感じる人は、健康なときと同じように読書ができるとは限りません。理解しやすい文が求められるのです。そうかと言って、内容が薄いようでは、読者の自尊心を満たすことはできません。研究事例や引用文献、読書案内などの情報がその役割を果たしています。ページがめくりやすいことは、行動からくる快適さも確保しています。読後に見る本の厚みは、読んだという満足感があるはずです。
 本書は、内容だけでなく、五感の全てに心理効果を及ぼしているようです。
 制作者の真意はわかりませんが。内容だけでなく、その形までもマッチすると、読者に有用な本となります。たとえば、機械的に単行本から文庫本にするのは、考えものということになります。

 本書は一見わかりやすいように感じます。しかし、よくよく一語一語をチェックしていくと、かなり専門的な書籍であることがわかります。一読しただけでわかった気になっていると酷い目に遭うかもしれません。心理学には様々な実験法があり、それに伴い、統計学の手法も導入されています。本書は概略をわかりやすく紹介していますが、詳細は自分で調べなければわかりません。本書は「みつけるためのヒント」です。このヒントから自分にあった手法を得るには、自分で探すしかないようです。

 文字の大きさ、行の長さ、行間など私には見やすいものでした。24のアプローチにそれぞれ、導入のための文、研究紹介、コラム的なものなどがあり、よくまとまっていて、快適に読めました。「引用文献」「読書案内」も完備されています。索引があれば、さらに使える書籍になると思いました。

読書所要時間など

所要時間
13日11時間15分
読み始め
2015(平成27)年7月4日午前9時09分~
読み終わり
2015(平成27)年7月17日(金)~19時24分
読んだ範囲
 カバー、帯、本文を読みました。著者紹介、引用文献、読書案内は軽く目を通しました。

取り上げられた書物など

 ※引用文献、読書案内に多くの書籍が紹介されています。

出来事

 7月16日(木) 安全保障関連11法案が衆議院で賛成多数で可決。※「調べたこと」でも取り上げています。
 7月17日(金) 2020年東京オリンピックの主会場・新国立競技場の建設計画が白紙に。
 7月19日(日) 静岡県で、動物よけ電気柵の電線が川に入り、漏電で2人死亡。
 7月20日(月) 大手電機メーカーの水増し経理事件で、第三者委員会が企業に報告書を提出。

ひととき

ゴイサギ

 サギと言えば首が長いと思っていました。ゴイサギは他のサギに比べて首が短いようです。ゴイサギがいたのは、海の見える川尻です。遡上する鮎を狙っていたのでしょうか。
 2015(平成27)年6月25日(木)撮影。

調べたこと

1 安全保障関連11法案
 一部改正は、①自衛隊法、②国際平和協力法、③新:重要影響事態安全確保法(旧:周辺事態安全確保法)、④船舶検査活動法、⑤事態対処法、⑥新:米軍等行動関連措置法(旧:米軍行動関連措置法)、⑦特定公共施設利用法、⑧海上輸送規制法、⑨捕虜取扱い法、⑩国家安全保障会議設置法、の10法案。新規制定は、①国際平和支援法、の1法案。合わせて11法案。法案名は略称です。
 詳細は、内閣官房のホームページに書いてあります。該当のURLか検索サイト(キーワード「内閣官房」)で、ホームページを開きます。ホームページの「国会提出法案」→「第189回通常国会」→一覧表の国会提出日が「H27.5.15」の欄の概要などをクリックすると内容を見られます。
2 セルフケア(self-care)
3 アプローチ(approach)
4 養生(ようじょう)
5 閾値(いきち、しきいち)
6 fMRI(functional Magnetic Resonance Imaging)
 参考:PET(Positron Emission Tomography)。インターネットで調べました。
7 実験群と統制群
 実験群とは、何らかの操作の処理を施した群(集団)。
 統制群とは、実験群にした処理をしない群(集団)。
 実験の1つに、実験群と統制群を使うものがある。
8 折衝(せっしょう)
9 インタラクティブ(interactive)
 本書でいうと、「発信と受信の両方がなされていること」の意味。コミュニケーションで発信と受信ができることをいうようです。
10 インベントリー(inventory)
 目録。本書の場合言い換えると、リストアップして一覧表をつくること、でしょうか。※リストアップは和製英語です。
11 袋小路(ふくろこうじ)
 対義語は「抜小路(ぬけこうじ)」。
12 惚ける(ぼける)
13 真摯(しんし)

 以下余白

更新記録など

2015年7月22日(水) : アップロード
2016年1月22日(金) : レスポンシブ様式に改装