『「超」入門 失敗の本質』
- 副題など
- 「日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ」
- 著者など
- 鈴木 博毅(すずき ひろき)氏著
- 出版社など
- ダイヤモンド社さん
- 版刷など
- 2012年4月第1刷。読んだものは、2012年5月第3刷。
- ボリューム
- 242ページ
感じたこと
前回は日本軍を分析した『失敗の本質』を、このたびは超入門と題してこれをビジネスにどう活用するのかについて書かれた本書を読みました。2つの本に共通するのは、歴史、敗戦から学ぶということです。
歴史から学ぶことは、その理由を後付けするだけになりがちです。解釈する側の勝手な価値観で理解されることもあるでしょう。よく、正しく歴史を理解するといわれますが、「正しく」は何なのでしょうか。数学のように明解なのでしょうか。偶然を知るということでしょうか。思考の訓練はできたとしても、真相は藪の中といった感じです。また、現在、活躍中の者であれば、歴史をあまり振り返らないかもしれません。
本書と前回読んだ『失敗の本質』で気になることがありました。
「優秀な人間」という言葉がよく出てきますが、どんな人なのでしょうか。定義がないままに論が進められているように感じます。的確な状況の把握、組織の掌握、最高の計画の立案のできる人なのでしょうか。いろんな職場を経験しましたが、そのような人物を見たことがありません。優秀な人間という偶像をつくっていないでしょうか。優秀な人間を漠然と語ると現実に対応できません。
人間の心理について、日本人とアメリカ人でそれほど差があるとは思えませんでした。アメリカ軍の話ですが、作戦に乗り気でないなら、はじめからその将校を使うべきではありません。リーダーに従わないものは、除けるという考え方です。リーダーが部下を任命した責任をとっていません。仲間から外すという意味では、両国間で差はありません。
人間をモノとして考えています。日本軍でも現在の企業でも同じように感じました。人間を武器としたため、大量に消費しました。短期決戦であれば、人員補充は追いつきません。
本書に「疲れる」という言葉がありました。本書は、人間や組織が疲れることを認めています。「疲れ」が、モチベーションの低下と作戦に誤りを生じさせるのです。
二分法のような考え方。「勝ち」「負け」だけで論じているように思えました。利益を上げ続けているから「勝ち」、事業で失敗したから「負け」というのは、理解に苦しむ記述です。冷静に分析し評価した場合、内容は多様性に富むはずです。
組織を論じるうえで、軍と企業の違いを明確に区別する記述がありませんでした。日本軍の組織が企業のどこの部分に同じで、何をどのように企業に適用するかです。混合して企業の事例を取り上げて論を展開していましたが、この事例でなぜこの企業の例なのかという疑問があり、釈然としないものがありました。
人間関係について。『失敗の本質』では、特定の個人の人間関係について述べてありました。日本軍は情に流されてしまい、アメリカ軍は緊密なコミュニケーションを作っていました。「私語は禁止」とか「口を動かすより手を動かせ」など、日本のある職場では実践しているそうです。無駄な話をするなということですが、仕事に関係する会話のみで、コミュニケーションが成立するとは思えません。また、自分の意見を通すために、根回しにより賛同者を作る場合があります。この場合、既に結論は決まっており、内容について議論する必要性はありません。
組織には、派閥はつきものです。派閥とまではいかなくても、自分の属するグループをひいきする傾向が人にはあります。同じ会社でも、提案の採用を争うときにグループ同士で対抗意識が芽生えます。それぞれのグループに昇進速度の同じ同期がいる場合も同様の傾向が見られます。
議論しているときに発表者がホワイトボードを使って説明することがあります。その時、筆順の誤りを指摘する者がいます。これをすると、オーディエンス(聴衆)は、発表者の説明に疑いを持ってしまいます。いくら内容がよいものであっても、認められないことがあります。本論とは違うところで、人は評価を下してしまうのです。揚げ足をとったり詭弁などを使って相手を打ち負かすことは、建設的な議論を妨げます。営業妨害のようなものです。
素晴らしい結果を出したグループが成果を発表することがあります。その活動が、明らかに社内ルールに違反し、法律の抵触に微妙な場合があります。そして、このことを指摘されたとしても、まず、おとがめはありません。結果を出しているからです。社内ルールは外部に関係する問題ではありません。また、誰かが何かを言ってこないことは、法律違反をしていない証拠と考えるからです。
ご覧の皆様は、「揚げ足とり」と「素晴らしい結果を出したグループ」をどのように評価されますでしょうか。
本書を参考に私なりに考えてみました。
最悪なのは、素晴らしい結果を出したグループです。社内ルールを無視することは、公正な社内評価を歪(ゆが)めてしまいます。また、法律は最低限守るべきものです。意図的ではない場合でも、法律違反の発覚は、後始末、信用回復に多くの費用と労力を費やします。結果がいいだけに、反動も大きくなります。問題が起きなかったとしても、グループリーダーは解雇とし、その構成員は役割行動に応じて罰を与えます。
次に、揚げ足とりです。社内のコンペでは、後々まで続く人間関係を円滑にする必要があります。揚げ足とりは、議論の評価とは違うことをしています。発表者に恥をかかせたことになり、名誉毀損の行為です。心情的なしこりを残し、組織がぎくしゃくしてきます。また、この心理効果の知識の有無にかかわらず、本来の議論を無効化した行為は、発表者の労力、すなわち会社の経費を無駄にしたことになります。会社に損害を与えているのです。しかし、外部のコンペでは、どのように対応するのか想定しておく必要があります。
人は本能に忠実です。権力、名誉、保身などのあらゆる欲に左右されます。これが、本来の議論を妨げていると私は考えます。人は徒党を組む生き物です。企業内のグループ間でも対立することがあります。
何をどうすればいいのか、ということになります。この欲をどのように方向付けるのかが重要です。欲がなければ働く意欲を失うかも知れません。本来の議論を活発にする欲の方向付けが必要です。欲を捨てれば解決しそうな気もしますが、よほどの修行者でもそれは難しいでしょう。方策として、議論する技術を開発し、試行錯誤を繰り返すしか手はなさそうです。併せて、構成員が、感情のコントロールをする技術の向上も必要になります。さらに、企業、業績、人事の評価を外部組織に依頼すべきです。そうでなければ、公正さの確保は難しく、将来の展望を見誤る可能性があります。
結果として、組織、リーダー、構成員についてのモデルケースが示されていません。何かスッキリしません。これが『失敗の本質』をわかりづらくしている原因ではないでしょうか。
この書物を選んだ理由
『失敗の本質』の超入門ということで、さらなる理解を求めて本書を読むことにしました。
私の読み方
文字の大きさ、行間、文章の長さは適当で読みやすかったです。図とまとめがあり、理解のしやすさと見返したときにすぐにわかる工夫がされていました。索引と引用文献一覧が巻末にあれば、さらに使いやすい本になったことでしょう。
辞書、インターネットで調べても、わからない言葉があり、困惑しました。超入門?という感じです。
枠のあるまとめと図は、あると便利です。しかし、文章を読むリズムが止まってしまうので、読み方に工夫が必要です。1章を読み終わった最後に、これらを見る方がいいかもしれません。
2ヶ月読書をしなかったツケは大きいようです。文章の途中で、読みが止まってしまうことがありました。その時、ごり押しに文字を読んでいきました。内容がわからないから止まるというよりは、目や意識の連係がうまくいかない感じでした。速読や素読(そどく)を考えてみてもいいかもしれません。
読書所要時間など
所要時間 : 4日3時間46分
読み始め : 2015(平成27)4月17日(金)AM9時34分
読み終わり : 2015(平成27)年4月21日(火)13時20分
読んだ範囲 : カバー、帯、本書のタイトルから版刷の表記のあるページまで。CONTENTS、あとがき、も読みました。巻末の書籍広告は軽く目を通しました。
取り上げられた書物など
- 『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』 妹尾堅一郎氏著
- 『なぜリーダーは「失敗」を認められないのか』 リチャード・S・テドロー氏著
- 『プロフェッショナルマネジャー・ノート』 ハロルド・ジェニーン氏著
その他、多数の本の紹介がありました。
ひととき
桜です。ソメイヨシノでしょうか?近くの公園に咲いていました。幹に花を咲かせていたので、思わずシャッターを押してしまいました。地面近くなのに、花は下向きに咲いていました。
2015(平成27)年4月2日(木)撮影。
調べたこと
- 1 未曾有(みぞう)
- 2 想定(そうてい)
- 3 冷徹(れいてつ)
- 4 紐解く(ひもとく)
- 参考:繙く(ひもとく)。
- 5 俯瞰(ふかん)
- 6 曖昧(あいまい)
- 7 指標(しひょう)
- 本書にはたびたび出てくる言葉です。本書が主張する「指標」の理解に苦しみました。
- 8 MPU(micro processing unit)
- 9 マザーボード(mother board)
- 10 汎用(はんよう)
- 11 固執(こしゅう、こしつ)
- 12 ロードマップ(road map)
- 13 察知(さっち)
- 14 類推(るいすい)
- 15 真骨頂(しんこっちょう)
- 16 グランド・デザイン(grand design)
- 17 興隆(こうりゅう)
- 18 プラットホーム戦略
- インターネットで調べました。
- 19 後塵を拝する(こうじんをはいする)
- 20 練磨(れんま)
- 錬磨(れんま)。
- 21 コラボレーション(collaboration)
- 22 栄枯盛衰(えいこせいすい)
- 23 極限(きょくげん)
- 24 怒濤(どとう)
- 25 撥ね退ける(はねのける)
- 撥ねる+退ける。参考:撥ね除ける(はねのける)。
- 26 要衝(ようしょう)
- 27 ビジネスパーソン(businessperson)
- 男女の区別はありません。
- 28 フィードバック(feedback)
- 29 勇戦(ゆうせん)
- 30 玉砕(ぎょくさい)
- 対義語は「瓦全(がぜん)」。
- 31 鹵獲(ろかく)
- 32 万端(ばんたん)
- 33 席巻(せっけん)
- 席捲(せっけん)。
- 34 破竹の勢い(はちくのいきおい)
- 35 炯眼(けいがん)
- 慧眼(けいがん)。
- 36 鴨(かも)
- 37 反芻(はんすう)
- 38 餌食(えじき)
- 39 虎の巻(とらのまき)
- 40 鍔迫り合い(つばぜりあい)
- 41 純化(じゅんか)
- 42 起革
- 調べましたがわかりませんでした。
- 43 矮小(わいしょう)
- 44 堂堂巡り(どうどうめぐり)
- 45 盲信(もうしん)
- 46 防者
- 調べましたがわかりませんでした。
- 47 立志伝(りっしでん)
- 48 コモディティ化(commodification)
- 大衆化。本書では「汎用製品化」。
- 49 アイデンティティー(identity)
- 50 難癖を付ける(なんくせをつける)
- 51 挙句の果て(あげくのはて)
- 52 電力磁電管(でんりょくじでんかん)
- マグネトロン(magnetron)。マイクロ波を発する真空管。
- 53 仕打ち(しうち)
- 54 邁進(まいしん)
- 55 蔑視(べっし)
- 56 露見(ろけん)
- 露顕(ろけん)。
- 57 通暁(つうぎょう)
- 58 帯同(たいどう)
- 59 志向(しこう)
- 60 乖離(かいり)
- 61 伝播(でんぱ)
- 62 モチベーション(motivation)
- 63 卑怯(ひきょう)
- 64 360度評価
- インターネットで調べました。
- 65 警句(けいく)
- アフォリズム(aphorism)。
- 66 FC(franchise)
- フランチャイズ。
- 67 終焉(しゅうえん)
- 68 妄執(もうしゅう)
- 69 卓越(たくえつ)
- 70 強権(きょうけん)
- 71 喝破(かっぱ)
- 72 疑心暗鬼(ぎしんあんき)
- 73 反駁(はんばく)
- 74 洞察(どうさつ)
- 75 正対(せいたい)
- 76 桁外れ(けたはずれ)
- 77 伸し上げる(のしあげる)
- 78 染め抜く(そめぬく)
- 79 欺瞞(ぎまん)
- 80 サンク・コスト(sunk cost)
- 本書では「埋没費用」。
- 81 幻想(げんそう)
- 82 リカバリー(recovery)
以下余白