『「やりがいのある仕事」という幻想』
- 著者など
- 森 博嗣(もり ひろし)氏著
- 出版社など
- 朝日新書さん
- 版刷など
- 読んだものは、2013年5月第1刷
- ボリューム
- 223ページ
感じたこと
本書のまえがきに、「これからの働き方」という内容の著作依頼をうけたとありました。本書のタイトルを見て、依頼の趣旨とは少し違うのでは・・・と私は感じました。
今から10年ほど前の話になります。母の甥が亡くなったので、車の運転手を兼ねて葬式に出席しました。地域、職場、親戚などたくさんの人が葬儀に参列していました。葬式の合間は長く、参列者は世間話をしていました。私の近くにはご高齢の親戚がいました。遠縁なので私は知らないのですが、当時、80歳くらいのおばあちゃんだったと思います。同じようなお年を召されたおばあちゃんと話をしていました。
「あの家の、◯◯ちゃんは、よく勉強ができる。東京の大学に行ったんだ、と」「あの家の、◯◯ちゃんは、よく気がつく子だった。高校を卒業して働いたと思ったら、すぐに結婚した」と、親戚や近所のことを情報交換するように話していました。
私がこの話を聞いて不思議に思ったことがありました。私が友達と話をすると、「あいつは、よく勉強ができる。偉いなぁ」となります。しかし、この二人のおばあちゃんの世代は、勉強ができることを偉いとは言わなかったことです。同様に、気がつくことも偉いとは言いませんでした。私の世代とは価値観が違うようです。
この二人のおばあちゃんの会話には、その後も考えさせられました。
まず、なぜ偉いと言わないのか、です。勉強は自分のことですから、誰にも恩恵を与えているわけではありません。自分のことをしているだけです。なおかつ、親の臑(すね)を囓(かじ)って勉強しているわけですから、一人前とも思われていません。要は、一人前でもないし、人の役に立っているわけでもないのです。
では、この二人のおばあちゃんの感じる偉いとは、どのようなことをいうのでしょうか。前に語ったことを言い換えるだけになりますが、一人で生活できて、世のため人のために働く人のことをいうのだと私は推察しました。
二人のおばあちゃんの会話から、いろいろな面から人を見ていることもわかりました。女性として、子どもを育てるときに、子どもや人の性格をよく見るようになったのかもしれません。その子の、良いところも悪いところも正確につかんでいるようでした。
勉強ができるのは偉いという私の世代の会話は、学校における価値のみを重視したものなのです。要は、人を見る目が一義的なのです。二人のおばあちゃんの見方は、オーダーメイドのように一つ一つ観察して、育てるように人を見ています。このような比較から、今の時代は昔に比べて、人を見るのに多様性を失っているようです。ある1つの価値に近いものしか認めないという偏狭な社会になっていると考えられます。
本書は、この二人のおばあちゃんの会話そのものではないか、と私は感じました。
就職対策や広告のキャッチコピーを地でいくような生き方はどうなのでしょうか。制度で作られた価値観に縛られていないでしょうか。その制度の中で、生まれ、育ち、働き続ければ、そのことに気づかないかもしれません。自分のいいところ、やりたいことまでも幻想として否定するかもしれません。
他人のいいところもそうでないところも受け入れる。自分のいいところもそうでないところも受け入れる。取り繕う言葉に踊らされるのではなく、本当(ありのまま)の自分で働くこと、それが「これからの働き方」と著者は言いたかったように私は感じました。
この書物を選んだ理由
書名に興味を持ったので読むことにしました。やりがいのある仕事とは何か。そんなものが本当にあるのか。何を基準にそれを決めるのでしょうか。そして、それが幻想とは、どういう意味なのか、理由を知りたいと思いました。
私の読み方
本書を読んで、図、表、挿絵などがないのに気づきました。また、文字、1行の長さ、行間など初めから終わりまで変化がなく単調でした。しかし、不思議にこれが読みやすかったのです。使っている言葉も難しいものは少なかったように思います。図や表などを入れると、文字列が変則的になるため、読みづらいのかしれません。文字の配列の単調な方が、読むリズムが一定するのかもしれません。
読み方は、弊サイトの方法で読みました。視界にしっかりと文字がはいりました。読み始めは少し小さいと感じた文字も、読むにつれ読みやすくなってきました。少し広い感じのする行間も、適切なものだったと思いました。次の行を読むときに、自然に意識が向かう感じで、疲れにくいと感じました。
入院中に読んだので、ベッドに横になって読みました。椅子にかけて姿勢を正して本を読む場合が多いのですが、横になったほうが体は楽です。体に余分な力がはいりません。本を持つ手がしんどいように思えますが、体の方向を変えることで対処できました。本と目の位置も、あまり苦がなく、調整ができました。寝て読む方が、疲れにくいのかもしれません。
ただ、横になると、本に書き込みをする際、ペンが使いにくいのです。鉛筆、マーカーはまだしも、ボールペンを上向きで使うとインクがでなくなります。また、辞書、インターネットで調べるのも不自由でした。
寝て読むことをもっと試してみようと思いました。
読書所要時間など
所要時間 : 13日12時間56分
読み始め : 平成26年9月3日(水)午前9時03分
読み終わり : 平成26年9月16日(火)21時59分
読んだ範囲は、まえがきから著者紹介まで。
出来事
9月12日(金)iPS細胞を患者の網膜へ移植手術。世界初。
ひととき
彼岸花(ひがんばな)。曼珠沙華(まんじゅしゃげ)とも。家の近くの公園に咲いていました。平成26年9月17日(水)撮影。
調べたこと
- 1 目の当たり(まのあたり)
- 2 身も蓋もない(みもふたもない)
- 3 綺麗事(きれいごと)
- 4 捻り出す(ひねりだす)
- 5 お茶を濁す(おちゃをにごす)
- 6 ファクタ(factor)
- ファクター。
- 7 貴賤(きせん)
- 8 ローカル・ルール(local rule)
- 9 下賤(げせん)
- 10 捏造(ねつぞう)
- 11 怯える(おびえる)
- 12 拘わる(こだわる)
- 13 藻掻く(もがく)
- 踠く(もがく)。
- 14 世捨て人(よすてびと)
- 15 神童(しんどう)
- 16 無粋(ぶすい)
- 不粋。
- 17 逸れる(それる)
- 18 カリスマ(charisma)
- ギリシア語。
- 19 煽動(せんどう)
- 扇動。
- 20 煽る(あおる)
- 21 過酷(かこく)
- 22 浅ましい(あさましい)
- 23 一所懸命(いっしょけんめい)
- 一生懸命(いっしょうけんめい)
- 24 大勢(おおぜい)
- 25 間延び(まのび)
- 26 じれったい(焦れったい)
- 27 騙す(だます)
- 28 台詞(せりふ)
- 29 眺める(ながめる)
- 30 犠牲(ぎせい)
- 31 がつん
- 32 臑を囓る(すねをかじる)
- 33 厭きる(あきる)
- 飽きる。倦きる。
- 34 精確(せいかく)
- 35 定常(ていじょう)
- 36 躰(からだ)
- 体。體。
- 37 バージョン・アップ(version up)
- 38 ディテール(detail)
- 39 謳い文句(うたいもんく)
- 40 モラトリアム(moratorium)
- 41 つきまとう(付き纏う)
- 42 卑下(ひげ)
- 43 シチュエーション(situation)
- 44 満遍ない(まんべんない)
- 45 あっけらかん
- 46 真に受ける(まにうける)
- 47 溌剌(はつらつ)
- 溌溂。
- 48 愚痴(ぐち)
- 49 惚気話(のろけばなし)
- 50 肩透かし(かたすかし)
- 51 健在(けんざい)
- 52 望観(ぼうかん)
- 53 翻って(ひるがえって)
- 54 俯瞰(ふかん)
- 55 縋る(すがる)
- 56 拘る(こだわる)
- 57 潔い(いさぎよい)
- 58 マガジン(magazine)
- 59 プラットホーム(platform)
- 基本的な構造や環境のことか。
- 60 悠々自適(ゆうゆうじてき)
- 61 幻想(げんそう)
- 62 幻(まぼろし)
- 63 足許(あしもと)
- 足下。足元。
- 64 オアシス(oasis)
- 65 誇張(こちょう)
- 66 溜飲が下がる(りゅういんがさがる)
- 67 ルーチンワーク(routine work)
- 68 固定観念(こていかんねん)
- 固着観念(こちゃくかんねん)。
- 69 ベーシックインカム(basic income)
- 70 臨機応変(りんきおうへん)
- 71 殺伐(さつばつ)
- 72 血眼(ちまなこ)
- 73 足枷(あしかせ)
- 74 罵る(ののしる)
- 75 リベンジ(revenge)
- 76 散見(さんけん)
- 77 やりがい(遣り甲斐)
- 78 呟く(つぶやく)
- 79 歪曲(わいきょく)
- 80 ムーブメント(movement)
- 81 胡散臭い(うさんくさい)
- 82 偽善(ぎぜん)
- 83 近しい(ちかしい)
- 親しい(ちかしい)。
- 84 崇高(すうこう)
以下余白