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読んでやる! 読んだもの
№22 『人はなぜ依存症になるのか』

 薬物依存症、嗜癖行動になる原因の1つに、うつ病や適応障害などの精神の不調がある。この人たちは、自分の体調を管理するために、薬物や行動により自己治療を行っている。治療をする際、精神の不調を見逃してはならない。

『人はなぜ依存症になるのか』

副題など
自己治療としてのアディクション
著者など
エドワード・J・カンツィアン(Edward J.Khantzian)氏著
マーク・J・アルバニーズ(Mark J.Albanese)氏著
松本 俊彦(まつもと としひこ)氏訳
出版社など
星和書店さん
版刷など
2013年5月初版第1刷
ボリューム
213ページ

感じたこと

 副題の「自己治療してのアディクション」って何?が、はじめに感じたことでした。読み終わってその意味がおぼろげながら理解できたように思います。しばらくすると、このことを忘れてしまいそうなので、私なりにまとめてみました。

 「自己治療としてのアディクション」が意味するものとは
 薬物依存症になる理由について、好奇心から薬物を使い始めたり、快楽を求めるために薬物を使い続ける、と私たちは思っている。しかし、理由はそれだけではない。依存症になる人の中には、自らの心身を管理するために薬物を使う人がいる。うつ病や適応障害などの精神の不調を感じる人たちである。自らが薬を処方し投薬し体調の改善、維持、向上を求める。この行為は、自分で心身の治療をしているのであるから、自己治療である。しかし、この自己治療は、病根を正確に把握しての治療ではない。薬を使うことで、一時的には不調をしのげても、根本的な治療にはなっていない。薬を使い続けているうちに、薬効により依存症になってしまう。治さなければならないのは、精神の不調である。依存症になる根本的な原因を見誤ってはならない。このことは、薬物だけでなく、嗜癖行動にもあてはまる。

 精神疾患に関する本を読んでいつも思うのは、健康な人とはどんな人なのか、ということです。すべての面において、申し分のない、教科書のような模範的な人は存在するのでしょうか。人にはそれぞれ個性があります。弱いところもあれば強いところもあります。人は、集団で生活する生き物ですから、人の組み合わせにより、個人の強さを最大限に発揮し、弱いところをカバーするようにできているのだと思います。それにより、全体的に見て、人の良さを感じるのかもしれません。個々人が支え合えば、精神の不調は緩和されることでしょう。

 治療というのは、苦痛を訴え、生活に支障をきたし、本人の希望により始まります。しかし、医療者が診て問題なければ、治療をしないようです。本人は健康ではないと自覚し、医者は病気ではないと判断した場合です。本人はどのようにすればいいのでしょうか?
 現在の状況が正常な人の状態であると受け入れるか、自分で何らかの対処法、自己治療をすることになります。病気未満、健康以下は、当サイトで取り上げた『ストレスと適応障害』に詳細がありました。

 人が病気になると、自分に目が向けられるそうです。絶えず自分の体調を気にするようになります。しかし、元気な子どもを見ていると、いつも前向きです。今何をするのか、明日何をして遊ぶのか、などです。あまり、自分のことや、過去の出来事について、話したりしません。自分のことは棚に上げて、先のことしか考えていないようです。
 しかし、時間が経つにつれ、私たちは様々なことを学習していきます。技術の向上や計画を立てるときなど、楽しいとかつまらないという感情で、過去の出来事や実績を引っ張り出す方法をとるようになります。過去のデータに基づく方が、容易に効果的に、感情を満足させられると思っているのかもしれません。ある思考の習慣を身につけているのです。
 その過去の経験の中で、生に関する出来事は、人の生命にかかわる重要なことです。これは、人が動物として持つ防衛本能に影響します。意識は過去と現在の状況を明確に区別していても、感情は絶えず防衛本能を揺さぶっているようです。現在の状況が安全だとわかっていても、感情が、自分の身を守るように本能的に命令しているということです。本人は、どうしてよいかわからないはずです。安全な場所で、これ以上、どうやって身を守るのか、と本能的に感じているのではないでしょうか。
 何かをするときに、過去のことを基にする思考方法は、過去の出来事を思い出しやすくする習慣を脳に覚えさせることになると思います。思考の習慣の問題です。同時に、この過去に起こった防衛本能を揺さぶる出来事を思い出しやすくしているのではないかと思うのです。
 もう一つは、関連づけて覚えたり、考えたりする思考の習慣です。「防衛本能に関する感情」と「それ以外の出来事の感情」とを全く別物と意識し、独立させて記憶しているか、ということです。これができるならば、過去のデータを扱ったとしても、そのものが出てこない限り、必要のない記憶が思い起こされることは少ないのではないか、と思うのです。

 治療をする際に、必ずといっていいほど、薬を使います。早くて効果があるからです。これは、医師による治療でも自己治療でも同じです。
 しかし、動物には自然治癒力があります。これは、身体的な損傷だけでなく、精神的なことにもいえると思います。様々な経験をすることで、一つの思い出が小さく感じたりすることがあります。薬を使わずに、精神的な苦痛に対処する方法があるはずです。
 当サイトで取り上げた書籍に『自律訓練法』A・ミアース氏著がありました。この書籍は、苦痛に対処する方法を述べています。しかし、症状は和らいだとしても、完全に治るとは言い切れません。苦痛や苦悩と共存する方法といえるかもしれません。記憶はあるが、苦痛ではない、というように。
 この書籍から私が感じたのは、感情の中にも分けて区別するものがあるということです。苦痛や苦悩の記憶は耐えがたいものです。実際に経験した当時の苦痛と苦悩の感情があります。その後、その出来事を思い出したとき、その時点での苦痛と苦悩の感情があります。当時から時が経過しているにもかかわらず、思い出した時点の新たな感情で当時の苦痛と苦悩を味わっているのです。いつも新鮮な状態で苦痛を感じることになります。しかし、「当時の感情」と「思い出した時点の感情」では、感情についても、それ以外のことにおいてもすべてが違います。その2つの感情は、違うもので、明確に区別する必要があります。当時の感情を思い出すことはできても、その後において同じ感情を味わうことは不可能です。このように区別すると、苦痛や苦悩の出来事を感情的に過去のものにできるのではないか、と私は考えます。
 それでも、苦痛や苦悩の出来事を発作的に思い出すことがあるでしょう。しかし、苦痛や苦悩の出来事だけでなく、楽しい出来事をも記憶から消すことはできません。それらの記憶とともに共存するしかありません。本書にアルコホリクス・アノニマスの12のステップに、「私たちはアルコールに対して無力であり、・・・」とあります。これと同じで、「記憶を思い出してしまうことに、私たちは無力」なのです。思い出すことを阻止することはできません。
 「思い出すと当時は苦しかったが、今はそれほどでもない」と感じられる日が来ればいいのですが・・・。

 「感情」と「思考の習慣」は、密接な関係がありそうです。

この書物を選んだ理由

 「人はなぜ依存症になるのか」のタイトル、副題の「自己治療としてのアディクション」とは何か、に興味を持ちました。読書が依存症になっている人もいるかもしれません。読書が嗜癖行動ということです。

私の読み方

 本書あとがきに、本書が「包括的入門書」とあります。しかしながら、国語辞典に載っていない、医薬、心理学の専門用語が出てきます。一見一般的な意味のように思えるのですが、読んでみると文意が通じない、何となく理解できないことがありました。言葉の解説を添えた記述すると読みやすいのではと思いました。門外漢(もんがいかん)には、わかりづらい入門書でした。
 脳の部位の記述がありましたが、図があればわかりやすいと感じました。インターネットなどで図を見ても、本書でいう部位について確信を持てませんでした。
 一文が長く、理解に苦しむことがありました。長い一文は見えているものの、すぐに理解できず、困惑しました。「見えること」と「理解すること」は別物のようです。理解を速やかにしたり、十分なものにすることも、疲れないためには必要だと感じました。
 「文献」「参考文献」は、英語で書かれてありました。これらも翻訳し、原本とともに記載があれば、理解を助けてくれるのでは、と感じました。
 読むのに時間がかかりました。あまり時間がかかると、前に読んだ内容を忘れてしまいそうでした。中断する時間は短い方が良さそうです。
当サイト方式で読みました。

読書所要時間など

 所要時間 : 13日13時間18分
 読み始め : 平成26年7月29日(火)午前1時19分
 読み終わり : 平成26年8月11日(月)14時37分
 読んだ範囲は、カバー、帯、訳者まえがきから訳者略歴まで。「文献」は、はじめの3ページの途中まで読み、後は読みませんでした。「参考文献」は軽く目をとおしました。

出来事

 8月8日(金) エボラ出血熱流行の緊急事態をWHOが宣言。
 8月10日(日) 台風11号が四国から近畿日本海側へ通り抜ける。

取り上げられた書物など

  • 『ラット園年代記 The Rat Park Chronicle』
  • 『Driven to Distractiont(へんてこな贈り物-誤解されやすいあなたに)』インターメディカル

 巻末の文献、参考文献に多数の掲載があります。

ひととき

鳥取県浦富海岸

 鳥取県・浦富海岸からの景色。平成26年7月26日(土)撮影。

おまけ

 父の末期ガンの続き。
 一般病棟から緩和ケア病棟に移転。
 担当医によると、緩和ケア病棟は、病気にともなう苦痛を和らげることを目的としているそうです。終末期医療においては、患者本人のみならず、親族の悲嘆(グリーフケア)をも含めているそうです。
 父の場合、病気に対しては、積極的な治療を行わず、経過を見守る程度のことしかしないそうです。
 病棟を移転後、浮腫(むくみ)、腹水の緩和ケアを施してもらいました。その結果、それらの苦痛からある程度解放され、父は楽になったと語っていました。寝られるようになったと言っていました。浮腫、腹水が取れた分、体がひどく痩(や)せたことがわかり、父はそれを気にしていました。

調べたこと

1 アディクション(addiction)
P2の図、参照。
2 自己治療(じこちりょう)
国語辞典には、この言葉はありませんでした。self-medicationで調べてみると、自分で健康管理や治療をすることのようです。WHOでは、self-medicationを定義しているようです。インターネットなどで調べました。
3 依存症(いそんしょう)
4 罹患(りかん)
5 倦む(うむ)
6 遍歴(へんれき)
7 見境(みさかい)
8 前置き(まえおき)
9 稀有(けう)
希有。
10 耽溺(たんでき)
11 断薬(だんやく)
国語辞典には載っていませんでした。「断・・・」も同様です。医療関係では自然に使われているようです。インターネットなどで調べました。
12 自傷(じしょう)
13 こぎ着ける(漕ぎつける)
14 示唆(しさ)
15 眉を顰める(まゆをひそめる)
16 重篤(じゅうとく)
17 ライフイベント(life event)
国語辞典には載っていませんでした。インターネットで調べました。
18 統合(とうごう)
19 寛解(かんかい)
20 転帰(てんき)
21 若年(じゃくねん)
22 同定(どうてい)
23 エビデンス(evidence)
24 既往(きおう)
25 渇望(かつぼう)
26 洞察(どうさつ)
27 すさむ(荒む)
28 破壊(はかい)
29 拮抗(きっこう)
30 かみ砕く(嚙みくだく)
31 渦巻く(うずまく)
32 抗う(あらがう)
33 hypothesis
仮説。
34 心惹かれる(こころひかれる)
心引かれる。
35 逆説的(ぎゃくせつてき)
36 怯える(おびえる)
脅える。
37 全人(ぜんじん)
知、情、意が必要か?
38 離脱(りだつ)
禁断症状。退薬症状。
39 逆戻り(ぎゃくもどり)
40 妥当(だとう)
41 アノニマス(anonymous)
42 実証(じっしょう)
43 羅針盤(らしんばん)
44 顧慮(こりょ)
45 仲売人
「なかばいにん」と読むのでしょうか。辞書にこの言葉の記載はありませんでした。売人(ばいにん)。参考:仲買人(なかがいにん)。インターネットでも調べました。
46 募る(つのる)
47 スピリチュアル(spiritual)
48 亜(あ)
49 焦燥(しょうそう)
焦躁。
50 継父(ままちち)
ままてて。
51 疼痛(とうつう)
52 フラッシュバック(flashback)
53 信憑性(しんぴょうせい)
54 向こう見ず(むこうみず)
55 愁訴(しゅうそ)
56 罠(わな)
57 微笑み(ほほえみ)
頰笑み。
58 礎(いしずえ)
59 覆う(おおう)
60 頑な(かたくな)
61 先駆(せんく)
62 引っ込み思案(ひっこみじあん)
63 長ける(たける)
64 酩酊(めいてい)
65 欲動(よくどう)
66 ラベリング(labeling)
レッテルを貼る。「レッテル(letter)」はオランダ語。
67 顕現(けんげん)
68 網羅(もうら)
69 後方視的研究
参考:前方視的研究。インターネットで調べました。
70 生(せい)
71 スキル(skill)
72 矯正(きょうせい)
73 遷延(せんえん)
74 慰安(いあん)
75 機制(きせい)
76 スキーマ(schema)
77 遺憾(いかん)
78 寄る辺(よるべ)
79 ナラティブ(narrative)
参考:ナラティブ・ベイスト・メディスン(narrative based medicine)。
80 内界(ないかい)
81 せい(所為)
82 目の当たり(まのあたり)
83 協働(きょうどう)
84 推奨(すいしょう)
85 abuse
乱用。
86 転移(てんい)
87 相殺(そうさい)
88 力価(りきか)
89 継時的(けいじてき)
90 萌芽(ほうが)
91 オッズ比(Odds ratio)
92 不穏(ふおん)
93 ・・・めく
94 いぶかしい(訝しい)
95 瀕する(ひんする)
96 快活(かいかつ)
97 かりそめ(仮初め、苟且)
98 霧散(むさん)
99 賦活(ふかつ)
100 苛む(さいなむ)
嘖む。
101 腑抜け(ふぬけ)
102 ナンパ(軟派)
103 堅苦しい(かたくるしい)
104 疲弊(ひへい)
105 結着(けっちゃく)
決着。
106 メタ分析(meta-analysis)
107 傍証(ぼうしょう)
108 基底(きてい)
109 コホート(cohort)
110 暗澹(あんたん)
111 前景(ぜんけい)
112 生気(せいき)
113 いみじくも
114 パニック障害(panicしょうがい)
115 発動性(はつどうせい)
インターネットで調べました。
116 ハンディキャップ(handicap)
117 著明(ちょめい)
118 アドヒアランス(adherence)
119 ジレンマ(dilemma)
ディレンマ。
120 具現(ぐげん)
121 陥る(おちいる)
122 セラピスト(therapist)
123 怖じ気づく(おじけづく)
124 解毒(げどく)
125 うすら(薄ら)
126 ひと目ぼれ(ひとめぼれ)
一目惚れ。
127 機序(きじょ)
128 振戦(しんせん)
129 宿酔い(ふつかよい)
宿酔(しゅくすい)。二日酔い。
130 順風満帆(じゅんぷうまんぱん)
131 セッション(session)
132 強いる(しいる)
133 忍容(にんよう)
薬に関する専門用語のようです。インターネットで調べました。
134 疎隔(そかく)
135 難儀(なんぎ)
136 歪曲(わいきょく)
137 軽佻浮薄(けいちょうふはく)
138 曝露(ばくろ)
暴露。
139 dis-
「除く」などの意味。参考:「無・・・」。
140 affect
感動させる。
141 hypo-
「下」、「次」。
142 いの一番(いのいちばん)
143 サブタイプ(subtype)
「sub-」は、下、副、亜などの意味。
144 慧眼(けいがん)
145 両価(りょうか)
両価価値、両価感情。アンビバレンス(ambivalence)を訳した言葉。
146 暗黙(あんもく)
147 傾聴(けいちょう)
148 オーケストレーション(Gerwe Orchestration Method)
本書に内容の記載があります。
149 成書(せいしょ)
150 教鞭を執る(きょうべんをとる)
151 レビュー(review)
152 理路整然(りろせいぜん)
「理路」+「整然」。
153 鬱積(うっせき)
154 毛頭(もうとう)
155 軸索(じくさく)
156 起始(きし)
インターネットで調べました。
157 腹側被蓋野(ふくそくひがいや)
インターネットで調べました。図を確認しました。
158 側坐核(そくざかく)
インターネットで調べました。図を確認しました。
159 臨床(りんしょう)
160 消褪(しょうたい)
消退。
161 赦し(ゆるし)
162 アノラン
特定非営利活動(NPO)法人アノランジャパンGSO。ホームページを確認しました。
163 イデオロギー(Ideologie)
ドイツ語。
164 アゴニスト(agonist)
インターネットで、公益社団法人・日本薬学会の薬学用語解説などを見ました。
165 アンタゴニスト(antagonist)
インターネットで、公益社団法人・日本薬学会の薬学用語解説などを見ました。
166 堅持(けんじ)
167 癒す(いやす)
168 折り紙つき(おりがみつき)
折紙付。
169 気概(きがい)
170 皆目(かいもく)
171 啓発(けいはつ)
172 上市(じょうし)
173 プライマリーケア(primary care)
174 スクリーニング(screening)
175 ブリーフ・インターベンション(Brief Intervention)
176 brief
短い。
177 intervention
介入。
178 毛嫌い(けぎらい)
179 ふしだら
180 蔑む(さげすむ)
貶む。
181 強力(きょうりょく)
「ごうりき」と読めば、違う意味になることも。
182 DMS-Ⅳ-TR(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)
 『精神障害の診断と統計のための手引き』。アメリカで作られた。
 2013年5月に、アメリカ精神医学会がDMS-5を策定しています。
 公益社団法人・日本精神神経学会のホームページの「お知らせ」の2014年5月28日付けで「DSM-5病名・用語翻訳ガイドライン」がありました。「アルコール依存症」は「アルコール使用障害」と呼び方が変わるものがいくつかあるようです。学会のホームページではどれが名称変更するのかわかりません。何社かの新聞記事に、具体的な変更名称が載っているようです。インターネットで検索するといくつか知ることができました。
183 ICD-10(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)。
 「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」。第5章が「精神及び行動の障害」。WHOが作った。厚生労働省のホームページの「統計情報・白書」の中の「疾病、傷害及び死因の統計分類」に解説があります。

 以下余白

更新記録など

2014年8月11日(月) : アップロード
2016年1月19日(火) : レスポンシブ様式に改装