『自律訓練法』-不安と痛みの自己コントロール-
- 著者など
- アインスリー・ミアース(Ainslie Meares)氏著
- 池見 酉次郎氏訳
- 鶴見 孝子氏訳
- 出版社など
- 創元社さん
- 版刷など
- 2000年第1版。読んだものは、2010年第1版第7刷。
- ボリューム
- 242ページ
感じたこと
極意を表すと意外に簡単なのかもしれません。しかし、それを会得するには、それなりの経過を必要とするようです。
今までに読んだ『自律訓練法の実際』、『自律訓練法(松岡氏共著)』と書いてあることが違っているように感じます。これらの本は、ドイツのシュルツ氏の自律訓練法が基になっています。初めの背景公式から第6公式まで、7つの練習をする方法です。実際のやり方としては、7つのものから必要なものを選べばいいのかもしれませんが。この方法は緻密(ちみつ)につくられています。練習する人にとっては、神経を使いそうで、かえって緊張してしまいそうです。
本書は、今までに読んだ本とは違い、必要なことしかしない感じがします。記録をつけることもしていません。ただ、リラックスを唱えています。しかも、本当にそのやり方でいいのかと思うほど簡単です。簡単なだけに、初めは、本当に効果があるのかどうか疑います。しかし、なぜ、その方法をするか、その理由は明快に語られています。これは、物事の本質を理解している証拠だと私は思いました。
本書の自律訓練法の目的は、「リラックスするだけでいい」ということです。何をリラックスするのかというと、「身体」と「精神」です。
このように簡単に言われても、どのようにすれば意図的にそのようにできるのか、その方法を思いつかないことでしょう。健康な人は、映画を見たり、友達と食事をしたり、趣味をして、リラックスしているのです。気持ちがもやもやするときは、お酒を飲んだり、運動をしたりして、自分なりの健康管理をしています。仕事が残っているにもかかわらず「もう今日はダメだ」といって、早引きをする人がいました。翌日、定刻より早い時間から、その人は仕事をしていました。このような人はセルフコントロールができる人だと思います。なぜ、このようにセルフコントロールができるのでしょうか。その人だけの方法ですが、自分の状態を確認でき、自分というものを知っているからこそ、このようなことができるのだと思います。
人は緊張がずっと続くと、それが正常な状態であると思ってしまうことがあります。盆や正月にまとまった休みを取ると、我に返る感じになるときがあります。自分が緊張していると感じている状態は正常な状態で、このときに緊張を緩める必要があります。しかし、自分の好きなことをしてリラックスしようとしても緊張が取れないときがあります。狐につままれたような感じです。すでに、緊張がその人にとって、恒常になった状態だと思います。このときに、自律訓練法を実践すればいいと思いました。
本書では、不安を取り除くために、自己暗示を用いていました。自己暗示を効果的にするために、不安の原因を特定していたようです。精神分析とはいかないまでも、著者が患者を診て、患者の状態を把握していたように感じました。その原因がどこにあるのかを知らなければ、暗示を使った、効果的な自律訓練にはならないということでしょう。
痛みのコントロールについても書いてありました。ピンを肌に刺しても痛みを感じないというものです。この部分を読んだとき、あることを思い出しました。ロウソクの火を消すときに、火のついた芯を指でつまんで消す人です。熱くないのかと聞くと、慣れたら大丈夫とその人は言っていました。また、身近には注射、鍼(はり)と灸(きゅう)などがあります。慣れた人は、チクッとする程度で気にならないと言います。注射針の刺さるところを見ながら、痛いだろうなと思うと非常に痛く感じます。その時、注射針が皮膚を突き抜け、どのくらい針が埋もれたのかを感じることはできません。ところが、注射針をどのくらい刺して注射するのかに注意していると、注射針が刺さっていくところを見ても、痛いだろうなと想像したときほどの痛みを感じません。意識の持ち方で痛みの感じ方は変わります。ですから、「痛いの、痛いの、飛んでゆけ」というのは、効き目があるということです。事実、転んだときに痛いところを手でさすりながら、痛みを空の彼方(かなた)へ飛んでゆくように手の動作をすると、子供はケロッとして、また、動き出します。
ここで大切だと思ったのは、痛みの原因となる物理的現象と、それにより生じる痛みを感じることは別だということです。必要以上に痛いかどうかは、感情がどうも決めているというように思いました。自律訓練法を習得することで、身体の感覚と、それに伴う感情を分ける。感情をコントロールすることにより、痛みを軽減させることができるようです。そして、この2つを分けることにより、身体と感情の感覚が冴えるのではないかと思いました。身体面においては、注射針が腕にどのように刺さっているのかをわかりやすくするのではないか、ということです。感情が邪魔しないため、素直に身体に起こっていることを感じることができると思うのです。蚊が身体の皮膚にとまったときに、それがわかるようになるのではないか、ということです。感情面においては、どのように想像しているかを正確に感じることができる、ということです。その結果、病気の発生を感じたり、怪我の程度などを自分で知ることができるかもしれません。
本書では、リラックスを唱える反面、身体に痛みを感じさせたり、窮屈な姿勢をとっても、リラックスする訓練をしています。これは、現実に対応するためにするものです。現実には何らかのストレスがあり、これに対応できるリラックスでなければなりません。環境のよくない状態に慣れて、免疫力をつけているのでしょう。しかし、この訓練が、自己の身体と感情の2つの感覚をより強固に独立させるように、私には思えました。なぜなら、本書で、具体的な症例の中で、「内向的」という言葉が私には目立つように感じました。そして、内向的な人が、回復しているのです。自律訓練法によって、その人が外交的になったわけではないと思います。自分は、こうだ、という確信を持てたからこそ回復したのだと思います。この確信を持つには、自分というものをよりよくわかる必要があります。自分の状態をよりわかりやすくするには、身体と感情の2つをできるだけはっきりと区別する必要があります。この2つをいかなる状況においても、独立した状態に保つようにするということです。慣れではなく、独立を強化することで免疫を高めていると思います。
学校の先生から、「天井から紙縒(こより)で真剣をつるし、その下で寝る」という話を聞いたことがあります。紙縒(こより)は弱くいつ切れるかわかりません。刀が自分に落ちてくるかと思うと寝ることができません。しかし、そのような状況でも平然と寝られるようであれば、安定した心持ちだというのです。自分の感情に左右されないということだと思います。さらに、これを推し進めれば、「心頭(しんとう)を滅却(めっきゃく)すれば火もまた涼し」となるのでしょう。ピンを肌に突き刺す練習はこのことをいっているのだと思いました。
ピンの練習は痛みのコントロールとして語られています。しかし、痛みだけでなく、不安についても同じことがいえるのではないでしょうか。
他人からの評価、批判、暴言などで気持ちがかき乱されることがあります。しかも、その事件が終わってかなりの時間がたっても、そのことに悩まされることがあります。今、現実に直面していないことに悩まされているのです。
その事件に直面したときに何の抵抗もできなくて、敗北感を味わったとします。惨めな思いをするでしょう。しかし、本当の敗北は、この事件の後に起こる「感じること」をどのようにするかで決まると思います。「敗北感」は、自分が勝手に想像した「感じること」なのです。自分が想像したことに、自分が敗北しているのです。「ピンを刺すと痛いだろうな」というのと、「他人から受けた敗北感」の感情とは同じものだと思います。この敗北感に打ち勝つには、自分の感情の方向性を変える必要があると思います。何も感じないことも含めて、感じる方向性を変えることによって、感じ方は変わるということです。
自分の感情を正確に知ることができれば、この感情が想像のものであることを認識できると思います。その結果、この想像を打ち消す方向性を考えることができるのではないかと思いました。どう感じるかは自分自身の問題なのだと思いました。
方法は何でもよく、「自分自身を知ること」、そのために、「身体と心を分けること」。これが本書の極意だと思いました。
最後に、本書は、自律訓練法の原理や構造を、具体例を出して伝えようとしていたように感じました。わかりやすく、いい本だと思います。機会があれば、再読したいと思います。
この書物を選んだ理由
№9、№10の自律訓練法に関する本は、日本人によって書かれたものでした。外国の医師が書いた日本語版の本があったので読んでみました。
私の読み方
平易な言葉で書かれてありストレスをあまり感じませんでした。調べることも少なかったように思います。翻訳のためか、言葉は平易でも文章を1回読んだだけではスウッと頭に入ってこず、理解に苦しむところがありました。文字の大きさ、長さも適当で見やすかったと感じました。
読み方は、読んでやる式で読みました。目を楽にして、3行程度はっきりと見ることができました。何度も前後の文章を読み返したりしましたが、楽に見ることができました。調べることも少なかったので、あまり煩わされることなく最後まで読むことができました。読後も、目の疲れがいつもより少なかったように思います。
読書所要時間など
所要時間 : 6日5時間19分
読み始め:平成26年3月1日(土)午前5時45分
読み終わり:平成26年3月7日(金)午前11時4分
読んだ範囲は、「日本語版出版にあたっての原著者の序文」から「著者略歴」まで。目次は、軽く目を通しました。
出来事
3月1日(土)政権が崩壊したウクライナにロシアが軍事介入。
3月6日(木)ウクライナ問題でアメリカがロシアに制裁。
取り上げられた書物
本書の中に英語で書かれてありました。
調べたこと
- 1 relief(リリーフ)
- 2 drug(ドラッグ)
- 3 原理(げんり)
- 4 平安(へいあん)
- 5 博する(はくする)
- 6 国際催眠学会(The International Society of Hypnosis)
- インターネットで調べましたが、よくわかりませんでした。
- 7 修験道(しゅげんどう)
- 修験者(しゅげんじゃ)
- 8 開拓(かいたく)
- 9 掟(おきて)
- 10 風貌(ふうぼう)
- 11 彷彿(ほうふつ)
- 12 トランキライザー(tranquilizer)
- 13 トランス(trance)
- 14 仰天(ぎょうてん)
- 15 十二分(じゅうにぶん)
- 16 劇的(げきてき)
- 17 妙(みょう)
- 18 勘ぐる(かん繰る)
- 19 不安神経症(ふあんしんけいしょう)
- インターネットで調べました。
- 20 理路整然(りろせいぜん)
- 21 潜在意識(せんざいいしき)
- 無意識(むいしき)との違いがよくわかりませんでした。
- 22 大立者(おおだてもの)
- 23 手をほどこす(てを施す)
- 24 放散(ほうさん)
- 25 仲たがい(なか違い)
- 26 皮内反応(ひないはんのう)
- インターネットで調べました。
- 27 脱感作(だつかんさ)
- 28 発疹(はっしん、ほっしん)
- 別の言葉ですが、発心(ほっしん)というのがありました。
- 29 顔色(かおいろ)
- 30 紅潮(こうちょう)
- 31 蒼白(そうはく)
- 32 潔癖(けっぺき)
- 33 良心(りょうしん)
- 34 軽率(けいそつ)
- 35 束縛(そくばく)
- 36 クライマックス(climax)
- 37 はにかむ
- 38 サディスティック(sadistic)
- 39 マゾヒスティック(masochistic)
- 40 征服(せいふく)
- 41 嘲笑(ちょうしょう)
- 42 公然(こうぜん)
- 43 とばっちり(迸り)
- とばしり(迸り)。
- 44 遂行(すいこう)
- 45 やすらぎ(安らぎ)
- 46 板ばさみ(板挟み)
- 47 安全地帯(あんぜんちたい)
- 48 かたくるしい(堅苦しい)
- 49 萎縮(いしゅく)
- 50 嫌悪(けんお)
- 51 体裁(ていさい)
- 52 つくろう(繕う)
- 53 高尚(こうしょう)
- 54 聡明(そうめい)
- 55 自尊心(じそんしん)
- 56 軽蔑(けいべつ)
- 57 色(いろ)
- 58 まし(増し)
- 59 うんざり
- 60 修養(しゅうよう)
- 61 哲学(てつがく)
- 62 気が早い(きがはやい)
- 63 とかく(兎角)
- 64 早急(さっきゅう、そうきゅう)
- 65 不服(ふふく)
- 66 面もち(おも持ち)
- 67 乱調(らんちょう)
- 68 迅速(じんそく)
- 69 生気(せいき)
- 70 任務(にんむ)
- 71 采配(さいはい)
- 72 余暇(よか)
- 73 幼稚(ようち)
- 74 浮遊(ふゆう)
- 75 アウトライン(outline)
- 76 毛嫌い(けぎらい)
- 77 惰性(だせい)
- 78 空想(くうそう)
- 79 連想(れんそう)
- 80 従順(じゅうじゅん)
- 柔順(じゅうじゅん)。
- 81 浸透(しんとう)
- 82 憂慮(ゆうりょ)
- 83 無常(むじょう)
- 84 放心(ほうしん)
- 85 覇気(はき)
- 86 平静(へいせい)
- 87 感動(かんどう)
- 88 渦中(かちゅう)
- 89 核心(かくしん)
- 90 接近(せっきん)
- 91 もとのもくあみ(元の木阿弥)
- 92 極度(きょくど)
- 93 骨を折る(ほねをおる)
- 94 完治(かんち)
- 95 起伏(きふく)
- 96 斑点(はんてん)
- 97 欲求不満(よっきゅうふまん)
- 98 傲慢(ごうまん)
- 99 始終(しじゅう)
- 100 気配(けはい)
- 101 切望(せつぼう)
- 102 かんしゃく(癇癪)
- 103 手がつけられない(てが付けられない)
- 104 瀬戸物(せともの)
- 105 寛容(かんよう)
- 106 名誉(めいよ)
- 107 宣告(せんこく)
- 108 いらだつ(苛立つ)
- 109 下宿(げしゅく)
- 110 もっぱら(専ら)
- 111 盲従(もうじゅう)
- 112 不吉(ふきつ)
- 113 痛覚(つうかく)
- 114 餓死(がし)
- 115 種族(しゅぞく)
- 116 死滅(しめつ)
- 117 凍傷(とうしょう)
- 118 臆病(おくびょう)
- 119 警戒(けいかい)
- 120 一長一短(いっちょういったん)
- 121 歯槽膿漏(しそうのうろう)
- 122 病変(びょうへん)
- 123 賠償(ばいしょう)
- 124 徒労(とろう)
- 125 うずく(疼く)
- 126 美貌(びぼう)
- 127 下痢(げり)
- 128 下肢(かし)
- 129 末裔(まつえい)
- 130 見落とす(みおとす)
- 131 過酷(かこく)
- 苛酷。
- 132 微細(びさい)
- 133 敏感(びんかん)
- 134 感受性(かんじゅせい)
- 135 順応(じゅんのう、じゅんおう)
- 136 目新しい(めあたらしい)
- 137 迫害(はくがい)
- 138 思慮(しりょ)
- 139 適確(てっかく、てきかく)
- 的確。
- 140 調和(ちょうわ)
- 141 敬遠(けいえん)
- 142 当惑(とうわく)
- 143 道徳的(どうとくてき)
- 144 固持(こじ)
- 145 気長(きなが)
- 146 実験(じっけん)
- 147 性急(せいきゅう)
- 148 匂い(におい)
- 臭い。
- 149 火ぶくれ(ひ膨れ)
- 150 何べん(何遍)
- 151 おぼれる(溺れる)
- 152 転移(てんい)
- 153 満身(まんしん)
- 154 禁欲(きんよく)
- 155 おせっかい(御節介)
- 156 あげく(挙句、揚句)
- 157 勇敢(ゆうかん)
- 158 得意(とくい)
- 159 ・・・げ
- 160 なかんずく(就中)
- 161 経産婦(けいさんぷ)
- 162 承知(しょうち)
- 163 陣痛(じんつう)
- 164 妊娠(にんしん)
- 165 気楽(きらく)
- 166 失神(しっしん)
- 失心。
- 167 ほうぼう(方方)
- 168 還元(かんげん)
- 169 過度(かど)
- 170 特権(とっけん)
- 171 教養(きょうよう)
- 172 開腹(かいふく)
- 173 甘受(かんじゅ)
- 174 たくましい(逞しい)
- 175 末期(まっき)
- 末期(まつご)とは、別の言葉。
- 176 モルヒネ(morphine)
- オランダ語。
- 177 乱用(らんよう)
- 濫用。
- 178 中毒(ちゅうどく)
- 179 財団法人日本心身医学協会
以下余白